SHARE 河津恭平による、兵庫・丹波市の住宅改修「実家」。設計者が生れた家を改修し引き継ぐ計画で、断熱で広い居間空間への変更を行い南北通風と天井開口で環境調整が可能なよう考慮、柱に極力触れない事で既存間取りの面影を残し次なる改修にも繋げる
河津恭平が設計した、兵庫・丹波市の住宅改修「実家」です。設計者が生れた家を改修し引き継ぐ計画で、断熱で広い居間空間への変更を行い南北通風と天井開口で環境調整が可能なよう考慮、柱に極力触れない事で既存間取りの面影を残し次なる改修にも繋げる事が意図されました。
築32年になる私の実家の改修である。
私の祖父が施主として建てたもので、私は祖父との思い出はないが、祖父の存在をこの家があることで実感できているし、祖母との思い出もこの家を背景として残っている。今度、兄の家族が母屋で生活することになり改修することとなった。次で三代目に引き継がれることになる。
断熱材が一般的でなかった新築当時は建具によって細かく部屋を分けることで、冬は部屋を限定して暖を取っていたが、現在は断熱をすることで広い居間空間がつくれること、また私の経験上、夏は南北の気温差で風が抜けることを知っていたので南北に貫くリビング・ダイニングをつくった。
私が地元に戻って生活するなかで、天井を張っていない古民家が夏場涼しいことを体験したことから、リビングの天井を開けて、夏は暖気が上にいくように、冬は断熱材で天井を塞ぎ幕を張って暖気が上に逃げないようにした。
違和感がなくなるまで時間をかけた今回の設計は、設計の段階で触覚的に受容することであって、これからつくる今は存在しない空間を限りなく日常に近づける作業だったと思う。
今回は施主が家族であったこと、また私の都合もあって、設計に時間をかけることができた。今後も鑑賞よりも使用することに重きを置く場合は、設計に時間をかけたいし、それができる環境整備が必要となる。
竣工したとき、たくさんの人に見に来てもらって思ったが、建築することは祝祭で、それくらい時間をかける価値のあるものだとも思う。
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以下、建築家によるテキストです。
実家
築32年になる私の実家の改修である。
私の祖父が施主として建てたもので、私は祖父との思い出はないが、祖父の存在をこの家があることで実感できているし、祖母との思い出もこの家を背景として残っている。今度、兄の家族が母屋で生活することになり改修することとなった。次で三代目に引き継がれることになる。
断熱材が一般的でなかった新築当時は建具によって細かく部屋を分けることで、冬は部屋を限定して暖を取っていたが、現在は断熱をすることで広い居間空間がつくれること、また私の経験上、夏は南北の気温差で風が抜けることを知っていたので南北に貫くリビング・ダイニングをつくった。
私が地元に戻って生活するなかで、天井を張っていない古民家が夏場涼しいことを体験したことから、リビングの天井を開けて、夏は暖気が上にいくように、冬は断熱材で天井を塞ぎ幕を張って暖気が上に逃げないようにした。
この家は地元の大工がつくったもので、現調で天井裏を覗くと居住空間の化粧材とは違う荒削りの生々しい木材の架構が在った。
天井を全く張らないのではなく、部屋の周囲に部分的につくることで、その生々しい架構と適度な距離感をつくり、リビングとしてのくつろぎ空間とした上で架構を可視化した。仕上材で覆い隠すのではなく、この家がどのように成り立っているか普段から認識できた方が住人にとって健全な気がしたからだ。
水回りの更新は、既存の位置では必要な面積が確保できなかったため、浴室とトイレはそれぞれ構造補強を兼ねて2階の壁の直下に移し、その壁を耐力壁とした。
柱は一ヶ所抜いた以外は触らなかった。それは以前の間取りの面影を残すためと、次回、何十年か先に行われるであろう2回目の改修時に原型がわからない状態にしてしまうのは構造的に良くないと思ったからだ。今回の改修時に構造材を確認したがとても綺麗な状態だった。
この状態で次回の改修まで引き継げれば幸いである。
時間をかけること
幸運にも実家の設計ができることとなった。
またとない機会なので、お世話になっていた事務所を辞めてフリーになり、時間に余裕のある中で地元で生活しながら設計に取り掛かった。結果的に一年かけてゆっくり設計した。
全体を統括するようなコンセプトに向かって設計を進めるのではなく、その時その部分ごとに納まりを考え、全体を貫く断面矩計図にそれらを落とし込んで全体として違和感がないか検証し、違和感を感じる部分はまた部分詳細図を直して、全体としてしっくりくるまでそれを繰り返した。詳細図を何度か描き直すことで図面だったものが徐々に身体化し馴染んできた。
どうしても違和感がなくならない箇所は、そのまま時間を置くことで自然と慣れていった場合や、眠りに入る前に修正点を思いつくこともあった。
『複製技術時代の芸術作品』でベンヤミンが「建築物は二重のしかたで、使用することと鑑賞することとによって、受容される。あるいは、触覚的ならびに視覚的に、といったほうがよいだろうか。」と述べているが、住宅の場合はほぼ前者の使用することすなわち触覚的な受容になるだろう。
そして、『ベンヤミン「複 製技術時代の芸術作品」精読』で多木浩二が「触覚的受容とは手で撫でるとか、指先で接するとかの場合の知覚を言うのではない。すでに述べたことであるが、時間をかけて思考にも媒介され、多次元化した経験にともなう知覚を『触覚的』と呼ぶのである。」と述べている。
違和感がなくなるまで時間をかけた今回の設計は、設計の段階で触覚的に受容することであって、これからつくる今は存在しない空間を限りなく日常に近づける作業だったと思う。
今回は施主が家族であったこと、また私の都合もあって、設計に時間をかけることができた。今後も鑑賞よりも使用することに重きを置く場合は、設計に時間をかけたいし、それができる環境整備が必要となる。
竣工したとき、たくさんの人に見に来てもらって思ったが、建築することは祝祭で、それくらい時間をかける価値のあるものだとも思う。
■建築概要
所在地:兵庫県丹波市
設計・監理:河津恭平
施工:芦田幸央 / ウッディコーセー
大工:杉上佳己 / 杉上工務店
設計期間:2020年1月~2021年2月
施工期間:2021年4月~2021年7月
写真:繁田諭
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
内装・床 | 床 | 杉フローリング+ワトコオイル塗装 |
内装・壁 | 壁 | ラワン合板+オスモワンコートオンリー塗装 |
内装・天井 | ダイニング天井 | ラワン合板+オスモワンコートオンリー塗装 |
内装・天井 | リビング天井 | シナ合板+EP塗装 |
内装・壁 | 廊下・洗面所壁 |
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