SHARE 玉井洋一による連載コラム “建築 みる・よむ・とく” 第8回「小屋の佇まい ─── 堂々とした小屋」
建築家でありアトリエ・ワンのパートナーを務める玉井洋一は、日常の中にひっそりと存在する建築物に注目しSNSに投稿してきた。それは、誰に頼まれたわけでもなく、半ばライフワーク的に続けられてきた。一見すると写真と短い文章が掲載される何気ない投稿であるが、そこには、観察し、解釈し、文章化し他者に伝える、という建築家に求められる技術が凝縮されている。本連載ではそのアーカイブの中から、アーキテクチャーフォトがセレクトした投稿を玉井がリライトしたものを掲載する。何気ない風景から気づきを引き出し意味づける玉井の姿勢は、建築に関わる誰にとっても学びとなるはずだ。
(アーキテクチャーフォト編集部)
小屋の佇まい ─── 堂々とした小屋
日光東照宮にあった駐車場の詰所。
詰所といえば、駐車場の片隅にこじんまりと建つプレハブ小屋を想像するかもしれない。しかし、日光は世界遺産でもある観光地だけあって、詰所の佇まいにどこか威厳が感じられた。低コストで最小限でつくられるはずの詰所がそのような雰囲気を持ったのはなぜか。そこに至った経緯や建築への現れ方について考察した。
考察①、たくさんの車を捌くために入口と出口を詰所の左右で分けたこと。
それによって詰所の周りに空地ができて独立性が高まった。
考察②、左右の窓口の上部に雨避けの庇を出すことでT型の立面にしたこと。
詰所は遠くからでも認識しやすい対称性のある立面となった。
考察③、観光用の大型バスに対応して屋根を高くしたこと。
大型バスの車高は3.8m以下と制限があるため、屋根高さはそれを超えるように4m程度となった。結果的に詰所は平屋だけど背の高い立面となった。
考察④、屋根に降った雨水を詰所の裏側に集約して排水するために折半屋根をうしろに反らせたこと。
そうすることで屋根に力強さが加わり、軒天に反復するラインが道路側に美しく現れた。
以上が考察である。
このような過程を経て、詰所は特徴である最小限の平面はそのままに、立面のプロポーションを条件に合わせて段階的に変形したことで、「対称性」と「高さ」と「反り」という立面的な特徴を手に入れた。そして、それらは、観光地の詰所として実用的であると同時に東照宮にある陽明門や石鳥居の佇まいを連想させるのではないか。
それ故に詰所という小屋ながら堂々として見えるのだ。
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玉井洋一
1977年愛知県生まれ。2002年東京工業大工学部建築学科卒業。2004年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。2004年~アトリエ・ワン勤務。2015年~アトリエ・ワン パートナー。