SHARE SDレビュー2022の入選作品の展覧会レポート(前編)。“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件での建築コンペで、若手建築家の登竜門としても知られる
- 日程
- 2022年9月16日(金)–9月25日(日)
SDレビュー2022の入選作品の展覧会レポート(前編)です。
“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件の建築コンペティションで、若手建築家の登竜門としても知られています。本記事では展覧会の様子を前編・後編に分けて紹介します。会期は2022年9月16日~25日。SDレビュー2022の審査を務めたのは、千葉学、小西泰孝、原田真宏、金野千恵でした。展覧会の公式サイトはこちら。
また、入選者によるパネルディスカッションがZoomウェビナーにて開催(2022年9月16日17:00-20:00、参加費無料)。
SDレビューとは
SDレビューは、実際に「建てる」という厳しい現実の中で、設計者がひとつの明確なコンセプトを導き出す思考の過程を、ドローイングと模型によって示そうというものです。
実現見込みのないイメージやアイデアではなく、実現作を募集します。
1982年、建築家・槇文彦氏の発案のもとに第1回目が開催され、以降毎年「建築・環境・インテリアのドローイングと模型」の展覧会とその誌上発表を行っております。
以下、入選作品を展示順に掲載します。
杭とトンガリ 都市の小さな土中環境再生
能作文徳+常山未央
能作文徳建築設計事務所+mnm
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渋谷区西原の商店街に立地する間口1間半の小さな隠れ家的な木造貸店舗。基礎にコンクリートを使わず、リサイクル可能な鋼管杭で木造躯体を支えることにより、生産時と廃棄時のエネルギーとCO₂ 排出量を低減し、コンクリートやアスファルトで覆われた地面を土壌に戻し、雨水や空気が土中に浸透して呼吸できる地面に変える。建物を建てることで環境を悪化させるのではなく、建つ場所の環境を治癒する建築の実践である。
まず建築工事を始める前に学生とともに八王子の竹藪から竹や落ち葉や枝を調達した。雨落ち部分に縦穴と溝を掘り、それらを埋設することで水はけをよくし、新鮮な水や空気の通り道(通気浸透水脈)の形成を誘導する。40cm程の高さに木造躯体が持ち上げられているため、床下の風通しと点検スペースが確保されている。北側斜線を避けるように設定された寄棟のトンガリ屋根は、およそ30度の角度の勾配になっており、小さな建物に堂々とした構えと垂直性をもたらしている。天窓には三角形のルーバーがついており、柔らかな反射光だけを取り入れ、天窓を開放すれば重力換気が可能になっている。建物の直下には土が露わになり、内部には屋根頂部から光が注ぐ。
都市の中の小さな建物に〈土〉と〈空〉の二つの原始的性格が現れる。
廻間町の農架
川本達也
川本達也建築設計事務所
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市街化調整区域において建物を建てること自体を制限するより、むしろ用途を超えて地域の農家を巻き込みながら建つ方が無秩序な市街化を抑制することができると考えている。これは農村地域に建つ農家のための平屋の家。単に一戸建ての住宅を建てるというよりは、農用地に囲まれるこの敷地に建築することで同時にこの辺一帯の農家のための架構となることを目指した。
市の開発許可基準により建築基準法で定められている指定建蔽率(60%以下)の他に40%以上の建蔽率を確保することが求められたため、地面に接する基礎面積を抑えながら四周全方向に跳ね出す大屋根をつくることで建築面積を確保し、環境に溶け込む緩やかな双曲放物面を木の直線材のみを使用して形成した。およそ100坪の面積をもつ架構のもと必要な場を内部化することで、農作業をするための大きな架構と住むために必要な住空間の間取りを同時に行おうと考えた。敷地内残りのスペースは引き続き農用地として作物
が育てられ、軒の深さによって住空間との連続性を生み、深い奥行をもつ軒下空間は周辺農家の他の畑からもアクセス可能な収穫物の乾燥場としても機能する。いずれは面積のバランスを変え大きな農作業小屋となり、さらには架構だけが残り続け周囲の農用地に寄与する屋外空間となるのも良い。これから時間を掛けて地域へ根を張り、この架構によって市街化が抑制され貴重な農用地が守られることを期待している。
アッセンブルハウス
石橋慶久+長柄芳紀+石橋知美
イシバシナガラアーキテクツ
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敷地は大阪市阿倍野区、古い木造住宅と鉄骨造やRC 造の住宅やオフィスが混ざり合ったような都市部である。
クライアントは祖父母世帯のための築約60年の木造住宅と、親世帯のための築約40年の鉄骨造のオフィス兼住宅を隣接して所有している。
事業規模の変更や家族の変化に伴って、木造住宅部分の土地を売りに出し、鉄骨造部分を改修することとした。木造の建物はRC 造や鉄骨造と比較すると、解体そして材料の再利用が比較的容易である。
その特性を活かして鉄骨造の改修材料として木造住宅を利用することとした。古い木造家屋が解体され廃棄を待つものから、都市の中の資源のストックとして生まれ変わり、古い木造住宅地が材料の宝庫としてよみがえる。鉄骨造部分は住宅とするには床面積が大きく、また、耐震性能も不足していたため、コンクリートの床を減築することで、住宅の中に大きな気積の庭を確保するとともに、耐震性能の向上を図った。木造長屋を丁寧に解体し、手に入れたさまざまな材料で居場所をつくっていく。古い材料が新しく組み合わされ、建具、棚、階段、回廊、室内テラス、造作家具などとして、鉄骨造の大きな気積の空間の中に温かみのある居場所をつくり出していく。
これは、古い木造建築群を材料のストックとして読み替えることで、材料の新たな循環を創出し、近距離での材料循環により都市の中での住まいや風景を更新する試みである。
五反畑の休憩所
岸秀和
岸秀和建築設計事務所
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非接道・再建築不可の空き家を、隣地の4人の所有者で4分の1ずつ使う場所にする計画である。計画地は区画整理や所有者の変遷の中で街区のほぼ中央に取り残された宅地であり、人口が減少傾向にある郊外の空き家、かつ非接道というネガティブな条件である反面、東は畑、南は住宅の裏庭、西は水田、北は休耕畑と、四方異なる、一般的な接道敷地にはない環境をもっていた。
それぞれ異なる目的でここに来る4人の隣地所有者に対し、建物を対角に4分割し、空間をそれぞれ四方の環境に向かって開くことで、計画地の中に四方から隣地が流れ込み、それぞれの敷地を拡張したようになる。分けられたスペースは、住宅の物干し場や、離れの書斎、農作業の休憩場所、農機具の保管、農作物の直売所などそれぞれの目的ために使われる。各スペースからは各所有地を見渡すことができ、2 階は四方に開けた物見台となる。またコミュニティの中で共同で管理していく目的から、それぞれの専有スペースにはシンク、庭、トイレ、物見台への階段など共用の要素を散りばめる。
手詰まりの空き家を売却したり放置するのではなく、隣人の小さな要望を小さな負担で叶える新しい使われ方を考えることで建築が生き残り、人間関係や取組みが形となってそこにしかない風景をつくっていく。
城下の家 剛な天井
水谷晃啓+諸江龍聖+小島敬也+野口佑大
M2A+豊橋技術科学大学水谷研究室
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酪農を営んできた一家が4世代にわたって住み継いだ住宅を、過半未満の模様替えによって全面的に再生するプロジェクトである。敷地は市街化調整区域に位置し、農業が盛んな地域にあって緩やかな起伏があり、同一敷地内に牛舎をもつ。家業とは別の仕事に就き、しばらく実家を離れ暮らしていた子世帯が施主となり、両親と共に暮らすために実家
を改修する。施主家族が希望するプランへの変更、老朽箇所の有無より解体・改修部分を選定した。解体に伴って現れる空隙や模様替え後の形状は、牛や猫、植物といった同一敷地内の生命が共有する風や光、水といった自然環境を手がかりにデザインしていった。既存部材を最大限残しつつ、現行基準の耐震性能を得るために、全面改修を求められた水廻りを中心に基礎と壁を補強して耐震コアを配置し、下屋と母家を貫く水平構面を挿入する。既存の真壁造りの柱と壁をLVLで挟み込むように合せ梁を架け、構造用合板を留めつけて水平構面を構成し、母屋の屋根など補強部分以外の大半が既存のままで成立する耐震補強方法を考えた。
この水平構面を「剛な天井」と呼ぶことにし、断熱・防水性能をもつ新たな生活空間の天井として模様替えする。天井での断熱に加え、完全にやり替える1階床での断熱、既存外壁へ断熱材を貼り付けアルミ樹脂複合サッシ+複層ガラスへの全取替えを行うことで、改修後の住宅が省エネ基準を満たすよう計画している。
脈とコモンズ
循環の再生を通してつくる
古民家と流域の未来
坂東幸輔+藤野真史+山本玄介+江畑隼也+三島由樹+三木つばさ
坂東幸輔建築設計事務所+フォルク
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徳島県吉野川流域の農家古民家の建築と庭を、東京からUターンする施主の住まいおよび地域環境のための「コモンズ」としてリノベーションする計画である。かつて藍生産によって栄えたこの流域は、時代の移り変わりと共に養蚕や漬物、酪農へとその生業を変化させてきた。その変遷過程において、この地域の生活と風景を形づくっていた葦葺屋根・土壁・庭・生垣などの要素は近代化とともに鋼板やコンクリート、ブロック塀等に覆われ置き換えられていった。こうした近代化による環境の更新により、地域の水と空気の循環や人のつながりが遮断され、この地域の住環境やコミュニティが失われていってしまった。
本計画ではこうした問題意識のもと、かつて機能していた環境やコミュニティの「循環」を再び創出し、これからの地方都市における新しく豊かな住環境モデルの実現を目指している。回復していく水脈や土中の環境、脈々と受け継がれてきた伝統知や美しい屋根が連なる共同体の風景の中で実現されていく新しく豊かな暮らし方は、建築や環境を家族や地域社会における共有資源(コモンズ)として位置づける重要な一歩となるであろう。
個人の建築と庭の改修を通じて本計画が目指すのは、家族や地域がつながる媒体としての建築と庭であるとともに、人々が共に生きていく上で必要な建築や環境をつくる材料、技術、生態系を共有資源としてとらえる、新しい地域社会につながるデザインである。
■展覧会情報
東京展
会期:2022年9月16日(金)~9月25日(日)会期中無休
11:00-19:00(最終日は16:00まで)
会場:ヒルサイドテラスF棟 ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8
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入選者パネルディスカッション
2022年9月16日(金)17:00-20:00
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京都展
2022年の開催は中止が決定しました