石黒泰司 / アンビエントデザインズが設計した、愛知の「一宮の路上建築群」です。
路上に“人間の為の場所”を作る計画です。建築家は、多くの協議での意見に応えながら、建築的な思考と手法を用いて“東屋”と“家具”を設計しました。そして、様々な対話も反映した“複雑で多義的な形”によって“開かれた状態”が生まれています。
一宮市は2020年に「一宮市ウォーカブル空間デザインプロジェクト」と称し、「まちなか」(JR尾張一宮駅を中心とした半径約1km圏内)を歩行者にとって過ごしやすい空間へ変えていく試みをスタートした。
その試みの一環として実施されたのが社会実験「ストリートチャレンジ2021」である。
具体的には銀座通りを中心とし、2021年10月22日から3週間の間、出店・参加型イベント・通行止めなど、道路や公園といった公共空間を活用する取組みである。「一宮の路上建築群」は、この実験をサポートするものとして設計された。
「一宮の路上建築群」は、ストリートファニチャーを建築的な思考や寸法設定によって設計したものである。
この行為と等価に、道路上の工作物、地域の祭事、発注者や近隣住民の意見、都市計画の検討方針、道路管理者や警察との協議、といったさまざまな事柄(出来事)が存在している。これらがぶつかり合い、どちらが先か、そもそもその存在を忘却するほどに対話を繰り返した末に生まれる物質として設えを「複雑なかたち」と形容してみる。
このように「複雑なかたち」はさまざまな出来事が等価に折衷されることによって生まれる。ゆえに「複雑なかたち」はひとつの理解に留まることがない。主体の見方で異なる理解を生ずる「多義的なかたち」ともいうことができる。
このような「複雑で多義的なかたち」は「開かれた」状態を持つ。「一宮の路上建築群」は当初3週間の設置を想定していたが、幅広い世代のアンケート調査において評価が高かったことから度々の延長を重ね、現在に至っている。しかし、アンケート調査を見ていくと、多くの人々が同じ意見で高く評価したというわけではなく、各々の理解(尺度)における評価であったことがわかる。このことが「複雑で多義的なかたち」のつくる「開かれた」状態だと考えている。
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以下、建築家によるテキストです。
家具以上建築物未満
「一宮の路上建築群」は「建築」と謳ってはいるが、いわゆるストリートファニチャーであり、建築基準法上の建築物ではない。
ストリートファニチャーを建築的な思考や寸法設定によって設計することにより、人間と都市を関係付けることを試みている。
路上建築群は、「軒先の東屋」3基、「ファニチャーA」3基、「ファニチャーB」10基が点在することにより、交通のための道路上に人間のための場所をつくりだす。通常、道路上に工作物等を設置することはできないが、関係者との協議をおこない、「社会的な価値を有する」ことや「一定の要件を備える」ことを前提に、道路法の道路占用許可および、道路交通法の道路使用許可を取得し、道路上への設置が実現した。
そして、これらの協議における意見や要請が、形態や意匠に大きく影響を与えている。
公共空間の未来を考える
一宮市は2020年に「一宮市ウォーカブル空間デザインプロジェクト」と称し、「まちなか」(JR尾張一宮駅を中心とした半径約1km圏内)を歩行者にとって過ごしやすい空間へ変えていく試みをスタートした。
その試みの一環として実施されたのが社会実験「ストリートチャレンジ2021」である。
具体的には銀座通りを中心とし、2021年10月22日から3週間の間、出店・参加型イベント・通行止めなど、道路や公園といった公共空間を活用する取組みである。「一宮の路上建築群」は、この実験をサポートするものとして設計された。
軒先の東屋
「軒先の東屋」は、建物の軒先だけが取り出されたような構えを持つ。軒先1800mm、最高高さ3887mmとし、人間のスケールから都市のスケールを橋渡しするような断面計画とした。平面はU字型に後述の「ファニチャーB」が取り付き、H鋼を抱き込むことで基礎構造を兼ねている。多方向へ身体の向きを促すことで、同時に複数の人々が寄り付くことができる設えを計画している。
短手の立面には道路上における見通しを確保するための半円窓の開いた壁面が設えられ、グリーン・ピンク・イエロー・ブルーのうち、それぞれ2色の塗装が施されている。これらの色彩は、真清田神社を中心とし、銀座通りや本町通りにおいて昭和30年代より続く「七夕祭り」の飾りの色を引用すると同時に、銀座通りの変圧器や地下駐車場出口の工作物の明度や彩度に近づけるよう計画した。
地域に根付く文化的なものと、土木や建築の設えが持つ日常的なものを等価に「視覚情報」として建築に織り込むことにより、周辺との対話的なかたちをつくることをめざした。
また、片流れ屋根の仕上げには、網戸用のメッシュ材を使用している。これは、許可協議のなかで周辺看板の視認性を低下させないことを求められたことによるが、耐風圧の軽減という構造的優位性と張り替えが容易であるというメンテナンス性に寄与すると同時に、自然光の反射によって透明と不透明が切り替わる現象学的な構えをつくりだしている。
ファニチャーA/B
「ファニチャーA」は歩道のタイル割りに合わせた300mmグリッドと、人のふるまいに合わせた3つの高さ(H450mm、H750mm、H1100mm)の交わる位置に立体的に水平面を構成した。垂直面は掲示板としての機能を持つと同時に、平面的にいくつかの場所を分節する役割も担う。円形開口は路上建築と連続する形態要素であり、身長が1m以下の子どもたちにとっては月見窓のように働き、小さな建築的空間をつくりだす。
「ファニチャーB」は、最も家具らしい構えを持つ。30mmx105mmの間柱材を50mmピッチで並べた座面を「軒先の東屋」と同様の90mm角の檜材で支持する構成である。スノコ状の座面は駅ビルのファサードが持つストライプパターンとの関係性や、ゴミが座面に溜まらないような配慮に起因しているが、近景では線材の集合が認識され、遠景ではひとつのボリュームのように見えることにより、都市空間における「透明性」と「視認性」を共存させることを目指した。
複雑で多義的なかたち
「一宮の路上建築群」は、ストリートファニチャーを建築的な思考や寸法設定によって設計したものである。
この行為と等価に、道路上の工作物、地域の祭事、発注者や近隣住民の意見、都市計画の検討方針、道路管理者や警察との協議、といったさまざまな事柄(出来事)が存在している。これらがぶつかり合い、どちらが先か、そもそもその存在を忘却するほどに対話を繰り返した末に生まれる物質として設えを「複雑なかたち」と形容してみる。
このように「複雑なかたち」はさまざまな出来事が等価に折衷されることによって生まれる。ゆえに「複雑なかたち」はひとつの理解に留まることがない。主体の見方で異なる理解を生ずる「多義的なかたち」ともいうことができる。
このような「複雑で多義的なかたち」は「開かれた」状態を持つ。「一宮の路上建築群」は当初3週間の設置を想定していたが、幅広い世代のアンケート調査において評価が高かったことから度々の延長を重ね、現在に至っている。しかし、アンケート調査を見ていくと、多くの人々が同じ意見で高く評価したというわけではなく、各々の理解(尺度)における評価であったことがわかる。このことが「複雑で多義的なかたち」のつくる「開かれた」状態だと考えている。
建築(を発見すること)をめざして
「建築」とは「建築物」とは異なり、眼前の現実から発見されるものであると思う。
たとえば、住宅は建築のひとつの類型とされている。今となっては誰もがこのことを疑うことはない。しかしながら居住空間が建築であるということも、「家」という機能的・経験的な存在を、建築的思考によって「住宅建築」として位置づけた(=「建築」を発見した)結果であると考えることができないだろうか。
そうであるならば、さまざまな主体が自律的かつ対話的に共存するところに、わたしたちが未だ発見することのできていない「建築」が数多くあるように思える。そのように「建築」を発見していきたい。そうして発見された「建築」はわたしたちにあたらしい豊かさをもたらす可能性となる。「一宮の路上建築群」はそのような態度の先にある。
■建築概要
題名:一宮の路上建築群
所在地:愛知県一宮市
主用途:休憩施設
設計:石黒泰司(アンビエントデザインズ)
サインデザイン:和祐里(アンビエントデザインズ)
テキスタイル:彦坂雄大(大鹿株式会社)
施工:株式会社エコ建築考房
協力:一宮市、大日本コンサルタント株式会社、NPO法人まちの縁側育くみ隊
階数:地上1階
構造:木造
設計:2021年6月〜2021年9月
工事:2021年10月
竣工:2021年10月
写真:大竹央祐、アンビエントデザインズ