奈良祐希 / EARTHENによる、石川・金沢市の店舗「FIL D’OR」。フランス料理とワインを提供する店。“金の糸”という意味の店名を起点に、背景にある“繋がりを大切にする哲学”や“金沢の風土”を想起させる場を志向。“約3万本の糸”を吊るした“土の洞窟”の様な空間を考案左奥:客席、右手前:ラウンジ photo©MARC AND PORTER
奈良祐希 / EARTHENによる、石川・金沢市の店舗「FIL D’OR」。フランス料理とワインを提供する店。“金の糸”という意味の店名を起点に、背景にある“繋がりを大切にする哲学”や“金沢の風土”を想起させる場を志向。“約3万本の糸”を吊るした“土の洞窟”の様な空間を考案左奥:ラウンジ、右手前:客席 photo©MARC AND PORTER
奈良祐希 / EARTHENによる、石川・金沢市の店舗「FIL D’OR」。フランス料理とワインを提供する店。“金の糸”という意味の店名を起点に、背景にある“繋がりを大切にする哲学”や“金沢の風土”を想起させる場を志向。“約3万本の糸”を吊るした“土の洞窟”の様な空間を考案ラウンジ側から客席を見る。 photo©MARC AND PORTER
奈良祐希 / EARTHENが設計した、石川・金沢市の店舗「FIL D’OR」です。
フランス料理とワインを提供する店の計画です。建築家は、“金の糸”という意味の店名を起点に、背景にある“繋がりを大切にする哲学”や“金沢の風土”を想起させる場を志向しました。そして、“約3万本の糸”を吊るした“土の洞窟”の様な空間を考案しました。店舗の場所はこちら(Google Map)。
「フランス料理と自然派ワインの小さなレストラン」を掲げる「FIL D’OR」は、オーナーシェフの田川真澄さんが2017年に故郷・金沢で開いた一軒。
フランス、モントリオール、ニューヨークでの研鑽を経られて、地元食材を活かしたセンス溢れるフュージョン料理を提供されてきた。実は、田川シェフは私の中学校の先輩でもある。イケメンで陽気で明るい人柄とは対照的に手掛ける創作料理は極めて繊細で、「土着的」でもあり、「工芸的」とも言える。
店名の「FIL D’OR(フィルドール)」は“金の糸”という意味のフランス語である。
田川シェフの人と人、モノとモノの繋がりを大切にしたいというフィロソフィーも込められている。この金沢らしい最も大事な哲学を、店名だけではなく、空間全体を構成するエレメントとして、さらには金沢の風土を表象する「雨」「氷柱」「木虫籠」「雪吊り」を連想させるデザインとして、シェフと沢山の議論を重ねながらブラッシュアップさせていった。
金沢の原風景を想起させる約3万本の糸。
店舗近くにある「長町武家屋敷」の土塀に囲まれたような土の洞窟空間に特色で染められたアースカラーの糸が天井から吊るされる。
伝統的な町家建築の奥域あるプランに呼応するランドスケープのような流線形のダイナミズムは、金沢特有の曲がりくねる路地へのオマージュであり、FIL D’ORの金色に煌びやかに輝く未来を示唆している。
風でなびく極細の糸は、隣同士が共鳴し、線の集合体となって、ある全体性を獲得していく。それはまるで意思を持った生命体のように、時間を、空間を微分し震わせる。「生きる線」によって創出された土の舞台で田川シェフは踊り続ける。