SHARE 西澤俊理 / NISHIZAWAARCHITECTSによる、ベトナムの多世帯住宅「チャウドックの家」
photo©大木宏之
西澤俊理 / NISHIZAWAARCHITECTSが設計した、ベトナムの多世帯住宅「チャウドックの家」です。
ベトナム南部、アンザン省チャウドックの郊外に計画された、多世帯住宅である。現地でのごく標準的な建設予算(トタン製の住宅がようやく建てられる程度)という条件下、3枚のバタフライ屋根で敷地全体を覆い、それぞれの屋根の間から光や風をふんだんに取り込む。天井の高い吹き抜けには樹木や水庭を設け、家全体が半屋外の公園のような開放的な住まい方を提案した。
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以下、建築家によるテキストです。
ベトナム南部、アンザン省チャウドックの郊外に計画された、多世帯住宅である。現地でのごく標準的な建設予算(トタン製の住宅がようやく建てられる程度)という条件下、3枚のバタフライ屋根で敷地全体を覆い、それぞれの屋根の間から光や風をふんだんに取り込む。天井の高い吹き抜けには樹木や水庭を設け、家全体が半屋外の公園のような開放的な住まい方を提案した。
ホーチミンから長距離バスと川を横断する為のフェリーを乗り継いで7時間、ベトナムとカンボジアの国境に位置するチャウドックは、メコン河の支流に発展した街だ。川の上には沢山の水上住居が並び、その両岸には土手状の幹線道路が形成され、道路の両側から無数のブリッジが掛け渡された先には高床式の住居群、更にその奥には見渡す限りの美しい田園風景が広がっている。この地域の高床式住居は、石製またはコンクリート製の柱の上に木造の軸組を載せ、屋根と外壁にトタンを張りまわす形式が一般的であるが、1つ1つのボリュームは床座の暮らしに必要な最低限の大きさであることが多く、それを持ち上げるピロティの柱も洪水を避けるぎりぎりの高さで、その佇まいやスケール感は質素ではあるが、人間的で優しい表情を周囲に与えている。また近年になって灌漑施設が整備される以前は、雨季になると約4、5ヶ月間にわたり土手状の道路を除いて辺り一帯が水没していたそうで、景観全体を見渡せば壮大なスケールの自然環境と共生してきた人々の歴史を感じることができる。
その一方で長年悩まされてきた洪水を人工的に排除した結果、日常の生活がある面ではうまく噛み合っていない側面も見受けられる。例えば殆どの家がGLレベルの使用を放棄し、風通しの悪い土間はガチョウや豚などの家畜の糞尿、無造作に捨てられた生活ごみなどで荒れ果てている。また生活空間であるトタン製のボリュームは、天井が低い上に断熱もなく窓も小さい為、厳しい日射に晒される日中は居住には適さない。以前は、乾季の間に溜まった家畜の糞やゴミを雨季の洪水が洗い流したり、足元を覆う水が気温を下げ、これらの住居でもある程度快適な住環境を確保できていたのだろう。
こうした点も踏まえ、今回は出来るだけ在来住宅に使われている材料や構法を残しつつ、以下の3点のみ新しく設計の意図を加えることにした。
1.家型の屋根形状を反転してバタフライ屋根とし、高さの違う3枚のバタフライ屋根で敷地全体を覆うこと。
2.屋根と屋根の間や、ファサードなどの大きな開口部には全面に回転窓を設け、風量や日射量を調整すること。
3.室内の壁は全て可動間仕切りとし、風通しのよい一室空間とすること。
これらの建築的な操作は家全体に光や風、水、土、植物が溢れる、半屋外で現代的な住まいを意図したものだ。ただそれと同時に、床座の暮らしやそれに派生する人間的なスケール感、また外部的な土間空間の上に軽やかで内部的な木軸空間を載せるという建物構成など、この地域の慣習や精神を家の中に内包することも私達にとっては重要なテーマだった。それはこの家を周囲の街並みから際立たせるのではなく、近隣の住宅群に溶け込むように存在させるという外観の意思にも反映されている。
現在ベトナムでは、これまで主に都市部で流行してきた画一的で無国籍風の住宅様式が、相対的に所得水準の低い郊外へも拡散し始め、それぞれの地域の固有な景観が失われつつある。(事実、隣地には5階建ての建物の建設が進んでいる)。風土や慣習を断絶することなく、かつどのように現代的で豊かな住まいを作るかという問いは、私達ベトナムの建築家が考えていかなければならない緊急の課題の1つである。
■建築概要
Project名:チャウドックの家
所在地:ベトナム、アンザン省、チャウドック郊外
住人構成:親戚同士の3世帯住宅
階数:地上2階、半地価1階
構造:RC柱+木造軸組
敷地面積:220 m2
建築面積:200 m2
述床面積:340 m2
施工:地元の大工(日雇契約)
竣工年:2017