SHARE 小野寺匠吾建築設計事務所による、東京の、集合住宅の1戸改修プロジェクト「光と風が通る家 / House of Wind and Light」
小野寺匠吾建築設計事務所による、東京の、集合住宅の1戸改修プロジェクト「光と風が通る家 / House of Wind and Light」です。
この作品は「FRAME AWARD 2019」のResidential部門・small apartmentカテゴリーのアワードを受賞しています。
このプロジェクトでは、「未来の住宅」について考えている。
住宅とは本来、社会環境を色濃く反映し、その時代の価値観、振る舞い、生活によって部屋や動線が構成されている。住宅の変化で大きな部分としては、日本の場合、「畳での生活→椅子での生活」に変わったように、ライフスタイルの変化=住まいの進化であると言える。つまり、未来の家を想像するということは未来の社会や暮らしを想像するということと同義ではないかと思う。本物件は1979年に建てられており、日本における典型的な核家族向け3LDKの間取り構成であった。施主は夫婦の2人暮らしであり、ゲストを呼んで食事を楽しんだり、家で仕事をしたりといった、現代の多様化したライフスタイルに適した自由な暮らし方を求めていた。
確かに、戦後の高度経済成長期における住宅供給の波に駆られて標準化された間取りや様式は、明らかにその当時の暮らしや文化を反映しており、寝食を分離することで新しい時代を迎えたことは間違いないだろう。しかしながら、家族像や働き方、テクノロジーが加速しながら変化している現代社会の中で、住宅の間取りが新陳代謝していないというこの状況は、やはり一つの社会的な課題であると感じている。
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以下、建築家によるテキストです。
Project description
都心にある集合住宅の1戸改修プロジェクトである。
当物件は築40年ほどの、日本における典型的な核家族向け3LDKの間取り構成であった。
現地調査では、東西にわたって多数配置されている窓から終日どの部屋にも心地の良い光が差し込むことがわかった。また、両側の接道幅員が大きいことで、風がよく吹き込むような環境であることもわかった。
そこで、変形形状で部屋がとりにくいことを逆手に取りつつ、既存の両面採光を生かしたものにするために、小さく分節された間取りから大きなワンルームへと改修し、光と風が通る家にしようと考えた。
居住空間をワンルームにすることで起こりがちな問題のうちの一つに、水まわりや寝室といった生活拠点の場所をどのように作るかということがある。また、都内の狭小住宅で不足しがちな生活機能のための収納をどれくらい確保できるかということも居住性に大きく関わる課題である。そこで、それぞれ収納するものによって奥行きが異なるクローゼットを部屋全体にわたって設え、収納物固有の場所を作りながらそれ自体が生活機能に合わせて変形していくようにすることで、これらの問題を解決できるのではないかと考えた。
この空間で行なっている操作はいたってシンプルである。場所を決めすぎないようにできるだけ広々とした「余白」を感じる状態を保つように心がけた。既存間仕切り全てを解体し、ワンルームを象徴するような大きな面積で床を設える。大きな収納と大きなキッチンによって空間を仕切ることなく機能的なスペースを分節させることで、「部屋」ではなく「場所」を緩やかに定義している。
一方で、素材、反射、家具の寸法・配置については細かくスタディを重ね、自然光と風を部屋中で感じられるように、慎重に設計を進めていった。一つ間違えれば障害になりかねない大きな家具を、どのように暮らしに馴染ませ優しく見せるか。それを解決するために、家具には素材を生かした鏡面加工を施し、各所に散りばめられた植栽や、家具、振る舞いといった暮らしの風景を映り込ませながら、光を空間全体に拡散させるようにした事で既存環境との一体感を生み出している。収納扉同士は意図的に段差が生まれるように組まれており、部屋の中でも見る角度によって徐々に表情が変わるようになっている。
躯体である天井や壁は、吹き付け塗装をしてあったところや、下地が貼ってあったところ、壁がたっていた場所などが、そのままの姿でそこに残っている。「貼る」ことや「塗る」ことをせず、光と風を受けて空間に動きが生まれるレースのカーテンを壁面全面に「仕上げ」として採用することで、年代物の躯体壁をポジティブにとらえている。
また、そういった既存の状態を残すことで、新旧の切り分けがより明確になる。取り合いが象徴的になることで、新設部分のディテールや仕上げの繊細な美しさが際立ち、改修特有の緊張感が生まれるのではないかと考えている。また、改修前の状態がダイアグラムのようにして受け継がれていくようなことも、改修計画における醍醐味のひとつである。
Future Housing
このプロジェクトでは、「未来の住宅」について考えている。
住宅とは本来、社会環境を色濃く反映し、その時代の価値観、振る舞い、生活によって部屋や動線が構成されている。住宅の変化で大きな部分としては、日本の場合、「畳での生活→椅子での生活」に変わったように、ライフスタイルの変化=住まいの進化であると言える。つまり、未来の家を想像するということは未来の社会や暮らしを想像するということと同義ではないかと思う。
本物件は1979年に建てられており、日本における典型的な核家族向け3LDKの間取り構成であった。施主は夫婦の2人暮らしであり、ゲストを呼んで食事を楽しんだり、家で仕事をしたりといった、現代の多様化したライフスタイルに適した自由な暮らし方を求めていた。
確かに、戦後の高度経済成長期における住宅供給の波に駆られて標準化された間取りや様式は、明らかにその当時の暮らしや文化を反映しており、寝食を分離することで新しい時代を迎えたことは間違いないだろう。しかしながら、家族像や働き方、テクノロジーが加速しながら変化している現代社会の中で、住宅の間取りが新陳代謝していないというこの状況は、やはり一つの社会的な課題であると感じている。
そこで、当プロジェクトではこれまで暮らし方を規定してきた「部屋」を解体して「場所」として再構築することを試みている。改修プロジェクトでありながら、周辺環境の要素を取り込むことを第一義に考え、既存建物との共生を維持し、新しい時代に則した暮らし方を想像できるかどうかが課題となった。
家族像が変化していくということは、空間自体が規定されておらず、柔軟であることが必要と考えた。そのためには、未来の暮らしの変化に合わせた「余白」を設計しておくことが重要ではないだろうか。ワンルームという間取りにはそのような魅力があり、家具にはそのような「余白」を活かせるポテンシャルがある。様々な形状の家具を検討する中で、拡張していった結果部屋のようになった案もあれば、一体化せずに分散化した家具となった案もある。家族構成の変化など将来的にそのような付加的な場所が出来上がることも想定した上で、今回はできるだけ大きな居住スペースが取れるような案を採用した。この考え方によると、様々なライフスタイルを抱える様々な世代のクライアントに対して、同じコンセプトの中でそれぞれユニークな回答を導き出せるといった可能性に満ちている。
このような新しいライフスタイルに適した「未来の住宅」を探っていくと、床面積や坪単価と言った規定の評価基準では測れない空間の豊かさに気づく。気積がものすごく大きいとか、実際に体感して初めてわかる空間の質のことである。このように、従来からある評価軸に変化が生まれるような空間を作り続けていくことも、住宅が進化していくためには非常に重要である。
■建築概要
主要用途:住宅(改修)
所在地:東京、日本
プロジェクト期間:2017-2018
建築主:プライベート
延床面積:69m2