柿木佑介+廣岡周平 / PERSIMMON HILLS architectsによる、山梨・富士吉田市の、既存オフィスビルを改修した宿泊施設「富士吉田のホステル」です。Booking.comなどで施設の予約ができるようです。
山梨県富士吉田市の富士山駅から徒歩3分程の位置にあるオフィスビルをホステルへと転用・改修したプロジェクト。
前面の大通りは北口本宮富士浅間神社や富士山につながっている。計画地からは富士山が見え、大通りでは日本三奇祭である「吉田の火祭り」が行われる。
付近では昨今宿泊施設が増えてきているようだったが、クローズドでお洒落な内装の宿泊施設をつくって顧客を囲み合うのではなく、各々の施設が場所に応答した在り方で町全体の魅力を底上げしていく必要があると感じた。このホステルは駅の至近であり、また祭りのメインストリートであることから、宿泊しない観光客も駅を降りてから先ず立ち寄って一休みしつつ情報を収集し、町を散策し出す、観光の基点になるような場所を目指した。
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以下、建築家によるテキストです。
まちの縁側と物見台
山梨県富士吉田市の富士山駅から徒歩3分程の位置にあるオフィスビルをホステルへと転用・改修したプロジェクト。
前面の大通りは北口本宮富士浅間神社や富士山につながっている。計画地からは富士山が見え、大通りでは日本三奇祭である「吉田の火祭り」が行われる。
付近では昨今宿泊施設が増えてきているようだったが、クローズドでお洒落な内装の宿泊施設をつくって顧客を囲み合うのではなく、各々の施設が場所に応答した在り方で町全体の魅力を底上げしていく必要があると感じた。このホステルは駅の至近であり、また祭りのメインストリートであることから、宿泊しない観光客も駅を降りてから先ず立ち寄って一休みしつつ情報を収集し、町を散策し出す、観光の基点になるような場所を目指した。
既存建築物はソリッドな佇まいで建築のスケールがダイレクトに町に対峙し、閉鎖的な建ち方ではあったが、人の居場所のきっかけになりそうな骨格を持っていた。
・閉ざされてはいるが前面道路に面した大きな内部空間がある
・商業地域にも関わらず2階建てで広大なフラットルーフを持っている
・1階部分は前面道路から見て奥側半分ほどがピロティになっており、隣地からオフセットして建っているので脇に車両が通れる程度の通路があり、接続されている
既存の構造躯体を検証して部分的な解体を行い、それぞれの場所に性格を与えながら繋いでいこうと試みた。
先ず前面道路側のファサードの腰壁を解体し、内外に跨る大きな縁側と掃き出し窓、さらに前面道路からの階段を設け、通り沿いにホステルのラウンジと連続した居場所をつくった。次に外部階段上部のR階スラブを解体し、既存階段を延長して屋上までつなげた。屋上には富士山を望み、火祭りの観賞場となる大きなデッキ、飲み物などを置くことができる手摺カウンター、周辺の景色を望むピラミッド状の段々デッキを設け、屋上空間を解放した。ピロティはサイクルステーションとし、協賛の自転車メーカーのロードバイクを置き、レンタサイクルの運営を行う。またこれらの外部空間を、既存のサッシを変更することで内部の廊下と連続させ、ネットワーク化している。
内外装ともに、コストを抑えるためにクライアントによる自主施工を随所に織り交ぜた。
内装の折り上げ天井の金箔・銀箔貼りや、階段室の流木シャンデリア、塗装、外構や階段の人工芝貼りなど、その範囲は多岐に渡る。
外装には安価で耐候性のある工業製品を組み合わせている。懸垂曲線の形状と言われている富士山の風景とのなじみを考え、協賛の自転車メーカーから提供してもらった自転車用のチェーン、近場で容易に手に入る農業用ネットをボックス状の既存建築にまとわせ、重力によってたわんだ懸垂曲線形状の柔らかい覆いをつくり、人が寄り付き易い構えとしている。
客室は箱型ベッドと畳の小上がりで構成している。オフシーズン/オンシーズンの観光客数の落差が激しいエリアなので、オフシーズンでは箱型ベッドの内部を荷物置きとし、畳の小上がりをリビングスペースとし使い、オンシーズンではそれを宿泊スペースとすることで、人が少なくても閑散とした雰囲気にはならず、部屋貸しにも対応できる設えとした。また、通りに面した2階の客室からは火祭りを観賞することもできる。
単に宿泊するというだけではなく、休憩所、祭りの物見台、富士山への展望台、サイクルステーションなど、ホステルの共用部に公共性を持たせ、全体が町の大らかなラウンジとなることで、観光客はもちろんのこと、地域住民も気軽に寛げ、観光・交流のハブになると期待している。
■建築概要
用途:ホステル
敷地面積:400 ㎡
建築面積:233 ㎡
延床面積:460 ㎡
階数:2階
構造:RC造
施工:滝口建築
構造アドバイザー:井上健一構造設計事務所
竣工:2018年7月
写真:長谷川健太