
SHARE 【ap編集長の建築探索】vol.18 B1D「402号室のこれから」

「ap編集長の建築探索」は、23年の歴史ある建築ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の編集長である後藤連平が、訪問した建築を紹介する連載シリーズです。論考のようなかっちりとした形式ではなく、現地で感じた雰囲気や空気感が伝わるような“ライブ感”のある文体で綴ります。読者の皆様も自身が建築を体験するように読んでいただければ幸いです。
B1D「402号室のこれから」
赤坂惟史さん、宮内義孝さんのB1Dが手掛けた都内の住戸改修「402号室のこれから」を拝見した。
都内の住戸改修と聞いていたので、80m2程のものを勝手に想像していたのだけれど、前日に見学した方のSNSの投稿で、約200m2あるという情報が入り、これは一般的なものとは異なるプロジェクトなのでは、、。という想像が膨らむなか、現地に伺った。
住戸のエントランスを入って目に飛び込んできたのは、天井の年代を感じさせる木製の折り上げ天井の痕跡や、重厚感のある木製の建具枠。これらは、一目見て既存をあえて残しているのだと分かった。
それらは、空間全体の中で良い意味での違和感を生み出しつつ、新設での実現が難しいことも想像でき、設計者が既存のポテンシャルを活かした設計に取り組んだということもすぐ分かった。
また、これらの要素を見た時に、すぐに思い出したのは、スキーマ建築計画の「Sayama Flat」(2008年)。
長坂常さんが、予算がないことを逆手に取り、既存住戸を解体しながら鴨居などの一部を残すことで、空間を作り上げてしまうという日本リノベ建築史に残る伝説的作品。(未見の方は是非見てみてください)
既存の扱い方にその要素を感じ、B1Dは、Sayama Flatの系譜に新たな試みを積み重ねようとしたのではないかと思った。つまり、既存の要素を新しい生活の中に具体的に位置づけることで、建築空間と暮らすということのバランス感を高めるように意図したのではないか。と思った。
そんなことを考えながら住戸の中を歩き回ったり、赤坂さんや宮内さんの話に耳を傾けていると、空間の中のあらゆる所が目に入ってきたり、次々と色々な試行錯誤に気付かされる。。。
そうだ、B1Dの建築空間は、様々な観点をフラットに、また細部まで徹底して考え尽くすことで出来上がっていることを思い出した。(以前、伺った逗子の「some art house」という作品もまさにそのような作品だ。住戸リノベにおいてもそのスタンスが徹底されている)
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たとえば、途中で止められている白い壁は、一見すると新設なのか既存なのか分からないような素材感で、既存の建具枠と調和している。話を聞いてみると、あえて馴染むようなテクスチャーと色合いを選択して新設したとのこと。
また、それだけでなく、アートを少しずつ集めていきたいというお施主さんの意向を踏まえて、美術館の展示壁面の仕様を参照しているのだそうだ。写真だと伝えるのが難しいのだけれど、確かにそう言われると美術館の壁の質感も持ち得ている。
また、最初に触れた、既存を残した「折り上げ天井の一部」なのだけれど、リビング上部だけでなく、ダイニングの上にもあって、最初は両方とも、既存を残したものだと思っていたのだけれど、聞いてみると、ダイニングの方は、既存に擬態するように新たにつくったとのこと、、、、!
そんな設計をするの!と驚かされた。
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また、室内の家具は、竹内優介さんのインテリアスタイリングによるもので、計画段階から現場を見てもらい、お施主さんの趣味もふまえて提案してもらったのだそうだ。
たとえば、リビングに置かれた南国風の家具によって、窓際のサンルーム的な性格が見いだされ、、植栽やソファをはじめその他の家具の在り方なども決まっていったのだという。
実際の空間を見て、この設計における家具の重要性に意識的になり、計画段階から協働を進める姿勢にも納得感が大きかった。
また、プロジェクトの起点については、この住戸の空気環境だったという。個室の窓がFIXで開閉出来ない仕様による居心地の悪さを解消すべく、いつくかの部分のサッシを交換をすることで全体の通風を確保。そして、その通風を生かすために建具を開きから引き戸に変更。計画全体の考え方が導かれていったのだという。
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いつも以上に細かな設計の話に終始してしまったのだけれど、やはりそれはB1Dの設計スタンスによる所が大きいのは間違いなくて、彼らは、徹底して様々な視点で空間のことを考え抜き、そして諦めることなく全てに答えを与えようとする。それらの労力は、構成や細部のどちらにも等しく与えられていて、この空間に、僕らのような設計に関わったことがある人たちが入り込むと、あらゆる箇所が観察の対象になってしまう。そんな空間をつくっている。(でもそれはあくまでの専門家が見た場合であり、住まい手にとっては自然に暮らせる穏やかさをもった空間だ。おそらくそれすらも意図されている)
そして、ここでは、書ききれないほどの様々なリノベの試みが実践されていて、また、過去のあらゆる建築リノベに対して敬意を払った上で参照していたり、発展させるような試みが実践されていることが、身を置いてみると良くわかる。(設計者自身も写真で伝わりにくいことを行なっていることには自覚的だ)
そんな、B1Dのリノベ空間を見ていて、この作品をどう言葉で表せば良いのが考えていて、ぼんやり浮かんだのは、これまでの日本のリノベの歴史を踏まえた「リノベの辞書のような空間」という言葉。
リノベが、建築家の仕事の領域になり、この10年を振り返っても、新築の設計には無かった数々の設計手法が生まれたと思う。また、設計に対する解像度が上がることで、素材や金物などの選定への意識も大きく変わってきたのが、リノベ普及以後の変化だったと思う。
そんなリノベの様々な手法を真摯に学び向き合い、また参照し発展させることでこの空間は完成している。そう考えると「辞書」というワードが、適しているのではないかと、、、!
お施主さん、B1Dの皆さん、ご竣工おめでとうございます!
(訪問日:2026年4月25日)
後藤連平(ごとう れんぺい)
アーキテクチャーフォト編集長
1979年、静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織設計事務所と小規模設計事務所で実務を経験した後に、アーキテクチャーフォト株式会社を設立。23年にわたり建築情報の発信を続けており、現在は、建築と社会の関係を視覚化するウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の運営をメインに活動。著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)など。
