SHARE 岩堀未来・倉本剛・長尾亜子・野上恵子による、福島県の「矢吹町中町第二災害公営住宅」
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岩堀未来・倉本剛・長尾亜子・野上恵子が設計した、福島県の「矢吹町中町第二災害公営住宅」です。
矢吹町中町第二災害公営住宅の計画は,建築とランドスケープ,まちづくりなどを相互作用させながら一体的に進められた。敷地は愛宕山から北に下る不定形な斜面地である。被災した建物群を解体し,本来の地形を復元して周囲の地形に連続するランドスケープをつくることから始めた。高低差約4mの中に,棚田のような4つの平場を法面によって連続させ,中を自由に歩ける緩やかなスロープ状の「みち」を挿入して公園のような住宅地とした。
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以下、建築家によるテキストです。
環境交流装置としての集住体
矢吹町中町第二災害公営住宅の計画は,建築とランドスケープ,まちづくりなどを相互作用させながら一体的に進められた。敷地は愛宕山から北に下る不定形な斜面地である。被災した建物群を解体し,本来の地形を復元して周囲の地形に連続するランドスケープをつくることから始めた。高低差約4mの中に,棚田のような4つの平場を法面によって連続させ,中を自由に歩ける緩やかなスロープ状の「みち」を挿入して公園のような住宅地とした。ここに仮設住宅から移り住む人のために、フラットタイプ(1~2人世帯)20戸,メゾネットタイプ(3~5人世帯)3戸の計23戸の長屋5棟を計画した。災害公営住宅であるため,建設・運営のし易さが求められ、また仮設住宅で生まれたコミュニティを引継ぎながら、いかに多様で安心な住空間を生み出すかが課題であった。そこで以下の6つの方針を設定した。「外部と内部の連続性」「地域への開放性」「住人同士の緩やかな関係」「多様なライフスタイル」「パッシブな手法による快適な室内気候」「工業製品の単純な構成による高いコストパフォーマンス」。この方針のもと、南北に抜ける「通間」と呼ばれる大小の開放的な筒状空間を,不整形な敷地に緩やかに雁行配置した。その結果生まれた凹凸の形態が,内外の関係の多様さを生み,両者を有機的につなげている。「通間」の南側に配置された半屋外空間の「縁にわ」は,「みち」に面して生活が外へ溢れ出すことを可能にし他者とのコミュニケーションのきっかけを作る。「通間」は同一断面の小さい梁を連続させることで構造・工法の単純化を図りながら一体感・連続感・温もりのある質感を作り出している。引戸によってスペースの分割・一体化ができフレキシブルに使うことができる。「通間」を全て南面させることで,冬は日射を最大限取り入れ,夏は敷地北側の樹木群に向かって流れる空気を取込むことを可能にしている。ダブルスキンの「縁にわ」は、冬は温室,夏は木陰となり,室内気候を調整する。
全体から部分に渡って,コミュニケーション・気配・視線・光・風・熱・音・色・質感など,形はないが環境総体をつくる各要素(環境要素)を調整し変化させる仕掛けを重ね合わせた。それらを単純な建築的システムへ還元し,建築とランドスケープが緊密につながった「生活の背景としての空間」に様々な環境要素の交流が作り出されている。
■建築概要
設計:岩堀未来 倉本剛 長尾亜子
協力:野上恵子
構造:鈴木啓/ASA
設備:ymo 山田浩幸
ランドスケープ:リュースニング 林英理子
照明:ぼんぼり光環境計画 角舘まさひで
積算:山口建築設計事務所
施工:伸和建設
所在地:福島県西白河郡矢吹町
敷地面積:4663.11m2
建築面積:840.19m2
延床面積:1571.62m2
階数:地上2階
構造:木造
竣工:2016年4月
写真:淺川敏