SHARE 蔵楽友美 / FIVESによる、大阪府池田市の「池田市役所前クリニック」
all photos©白井孝明
蔵楽友美 / FIVESが設計した、大阪府池田市の、心療内科・精神科の「池田市役所前クリニック」です。
患者さんにとって、自分がないがしろにされず大切に扱われていると感じられることが大事。そんな考えをドクターに伺い、空間が手伝えることとして、視覚的な雑音を消す(ノイズレス)ことを考えた。いわばデザインの掃除が行き届いたような空間を準備して、そこに患者さんをお迎えしたいと思った。
主張するような華美な要素はつくらず、かつ緊張感がでないようにやり過ぎない控えめのさじ加減を意識した。少しだけミニマル寄りに傾ける。巾木や枠のディテールなどに少しだけ手間をかけノイズを消す。チェアは包み込むような形状で座り心地の良いものを選び、さらに脚をカットして座面を低くし、身体的にもリラックスできるように。
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以下、建築家によるテキストです。
IKEDA SHIYAKUSHOMAE CLINIC
池田市役所前クリニック
「内緒で通えるクリニック」心療内科・精神科 池田市役所前クリニックは、阪急池田駅から徒歩二分の複合ビルの2F、61㎡のテナントである。
アートのエナジー
クリニックの前まできて、入りづらくて帰ってしまう患者さんもいるという。受付のスタッフが患者さんを待ち構えるような構図にはしたくなく、受付カウンターは脇に控えた配置として、安心してどうぞ中に入ってきてください、大丈夫ですよと患者さんを迎える役割をアートにもたせようと考えた。患者さんが最初に目にする位置に、何かエネルギーを与えてくれるような色味を置きたい。強いけど優しく、力のあるアート。ドクターと一緒にあれこれ探す中で入江清美さんの作品群の中にこれだというものに出会えた。さらに、はっとするようなボルドー色のカーテンでアートの色味をひろい、印象深いエントランス空間とした。
ノイズレス
患者さんにとって、自分がないがしろにされず大切に扱われていると感じられることが大事。そんな考えをドクターに伺い、空間が手伝えることとして、視覚的な雑音を消す(ノイズレス)ことを考えた。いわばデザインの掃除が行き届いたような空間を準備して、そこに患者さんをお迎えしたいと思った。
主張するような華美な要素はつくらず、かつ緊張感がでないようにやり過ぎない控えめのさじ加減を意識した。少しだけミニマル寄りに傾ける。巾木や枠のディテールなどに少しだけ手間をかけノイズを消す。チェアは包み込むような形状で座り心地の良いものを選び、さらに脚をカットして座面を低くし、身体的にもリラックスできるように。配置間隔もドクターと相談して決め、不快なノイズを極力消していった。診察室の防音壁・扉や待合室壁のどんす貼などの直接的な音への配慮も行っている。
可変性
奥行が深く面積も限られたテナント空間において、自然光が入る良い場所は患者さんが過ごすスペースに充てたい、患者さんのためのスペース(待合室やエントランス)はなるべく広く確保したいという気持ちから、必然的に処置室・執務室といった裏勝手は厳しい条件となった。患者さん優先とはいえ、毎日をここで過ごすドクターとスタッフが過ごす空間も気持ちの良いものとしたい。そこで、一般的な病院用カーテンに加え、障子状のパネルカーテンやブラインドを用いることとした。クリニックで働く人々にとって、布を動かしてプライバシーを調整しつつ空間を管理・コントロールすることには馴染みがあり、上手く使いこなしていただける感触があった。本クリニックでは処置室ベッドの使用頻度は少ないので、ほとんどの時間はフルオープンの状態で広々とお使いいただけ、視線の通る空間とすることができた。パネルカーテンは金属風に見えるレース生地で製作して建築的な印象を持たせている。
また、待合室も診療時間外の院内ミーティングや勉強会、外部に開かれたレクチャーなど、さまざまなシチュエーションに対応して利用できるように、W=2,500のホワイトボード兼プロジェクタースクリーン兼掲示板を設置して、空間を使いきっていただけるようにと考えられている。
(蔵楽友美/FIVES)
■建築概要
床面積:61.07㎡(18.47坪)
所在地:大阪府池田市
竣工:2016年10月
http://ikeda-s-clinic.jp/
設計:蔵楽友美(FIVES)www.5fives.jp
設計協力:栗原純子
サイン、ブランディング:春日崇喜(MILL inc)www.mill-inc.co.jp
アート:art gallery closet
施工:田浦建設株式会社
撮影:白井孝明