SHARE 吉田裕一が各住戸の改修設計を、横浜国立大学大学院Y-GSA+針谷將史が、キッチンルームの改修設計を手掛けた、神奈川の集合住宅「ヒルトップマンション」
all photos©長谷川健太
吉田裕一建築設計事務所が各住戸の改修設計を、横浜国立大学大学院Y-GSA+針谷將史建築設計事務所が、キッチンルームの改修設計を手掛けた、神奈川の集合住宅「ヒルトップマンション」です。
このプロジェクトの企画には、リスト株式会社、株式会社NENGO、横浜国立大学大学院Y-GSAが関わっており、産学連携プロジェクトとして行われたとのこと。
■リスト株式会社によるプロジェクト解説テキスト
リスト株式会社が所有する集合賃貸住宅「コットンハウス(総戸数23戸)」「ヒルトップマンション(総戸数16戸)」の2物件は、それぞれ築年数による経年劣化が進み、空室率も上昇していた。この空室率の改善を図るため闇雲に家賃を下げる、という選択肢をとるようではこれからの時代生き残れないと考え「家賃以上の価値」を生み出し、選ばれる賃貸住宅を創り出していくことを目的としたリノベーションプロジェクトが始動した。本プロジェクトは株式会社NENGO、横浜国立大学大学院Y-GSAとの産学連携プロジェクトとして推進。プロジェクトはまず第1フェーズとして学生も含めそれぞれの物件ごとにユニット分けを行い、基本構想を練り上げた上で公開プレゼンテーションの形をとり提案を行った。これによりベースとなるアイデアを固め、第2フェーズとして実施活動を推進。建物の持つ様々な課題をひとつひとつ丁寧に解決しながら、実施設計を行い、工事着手に漕ぎ着けていった。竣工後、それぞれの空室は順調に入居が進んでいる。
このプロジェクトでは、空室率の改善といった“現実的な課題解決”はもちろんのこと、人工縮退局面に入った日本における住宅産業の在り方を各社において再認識しつつ、リノベーションによる活性化を通し「企業意識のリノベーション」を実践していくことが、真のテーマであったように思う。
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■吉田裕一建築設計事務所が各住戸
以下、吉田裕一建築設計事務所よるテキストです。
ヒルトップマンションの各住戸の計画は、設計開始段階で空室となっていた6戸が対象となった。予算や工期の厳しさ、今後の管理のしやすさ等を考慮し、各室に個別の特殊解を挿入していくのではなく、「丁寧に原状回復する」ということを提案した。具体的には既存プランをトレースしながら暮らすのに不十分な部分を更新していき、その上で完成前からリーシングをして入居者が設計にも参加し、予算内で可能なプラン変更や仕様選択をできるようにした。また、内容次第でDIYも可能としている。このプロセスを経ることで、これまで作る側から一方的に住まいを「供給する」という流れだった賃貸住宅におけるサイクルの編集を試みた。結果、キッチンルームの利用も含め、シンプルな中に自分らしい豊かな暮らしを求める入居者が集まった。これまでのマンションの履歴(歴史)を可視化し、従来の賃貸マンションのサイクルをちょっとずらして別のサイクルに乗せることで、新しい価値を生み出すことができたのではないかと思う。
■横浜国立大学大学院Y-GSA+針谷將史建築設計事務所によるキッチンルーム
以下、針谷將史よるテキストです。
賃貸マンションの最上階を居住者が自由に使えるキッチンルームへと改修した。
床面積が約30㎡と小さく、ペントハウスのような4面採光の部屋であったため、間仕切り壁、キッチン、家具をそれぞれ別々に考えるのではなく、4×8(1220mm×2430mm)モジュールの合板を用いて、シンクとコンロのある大きなテーブルと、フルハイトのリブ付きの壁だけで、空間を分節することにした。大きなテーブルは、知らない居住者同士の距離を適度に保つバッファーになることもあれば、大勢でテーブルを囲んで食事をする時のように、互いの距離を縮めるインターフェイスになることもある。ボタニカルガーデンとして開放されたルーフテラスと室内とは、アルミの折戸によって連続性をもたせている。自然環境の変化や、そこにいる人同士の関係性、その時の目的に応じて、選択可能な複数の空間の質を持つ居場所をつくることが重要だと考えた。賃貸であることの特性を生かし、将来的にマンションの居住者以外にも、一定のルールの下で地域に開放できるようになれば、カフェのような商業施設でもなく、官製の公共施設でもない、第3のまちの居場所として活用することができるのではないかと期待している。
■建物外観
■建築概要
ヒルトップマンション
主要用途:集合住宅
所在地:神奈川県
事業主:リスト株式会社
企画:リスト株式会社、株式会社NENGO、横浜国立大学大学院Y-GSA
施工:株式会社NENGO
居室設計:株式会社吉田裕一建築設計事務所
キッチンルーム設計:横浜国立大学大学院Y-GSA+針谷將史建築設計事務所
サインデザイン:株式会社セルディヴィジョン
延べ床面積:248.64㎡(改修部分)
構造:鉄筋コンクリート造5階建(既存)
写真:長谷川健太