SHARE 山本理顕が設計を手掛ける、愛知の名古屋造形大学新キャンパスの画像とコンセプト
山本理顕設計工場が設計を手掛ける、愛知の名古屋造形大学新キャンパスの画像とコンセプトです。山本は2018年4月に同大学の学長に就任していました。ニュースサイトでも移転がトピックとして取り上げられています。
これからの名古屋造形大学について
「都市美・ CITY BEAUTIFUL」
かねてから名城2丁目への移転を熱望してきた名古屋造形大学は、その実現を契機として「都市美」を大学の芸術活動の中心理念にしたいと考えています。それは“美しい都市は住みやすい都市である”という確信に基づいています。自らが住んでいる場所に愛着を持ち、そして誰もがそれを美しいと思えるような都市空間をつくることが、住みやすい都市につながるのだと思います。住みやすい都市、美しい都市をつくる主体はその都市の住民です。その住民の人たちと共に「都市美」を実現していきたいと考えます。 大学における芸術活動は単に自らのスキルを磨くだけではなく、地域社会の人びとの生活をより快適にし、そして美しい環境をつくるための活動であると考えます。積極的に名古屋の地域性に関わって、美しい街の景観をつくる活動をその中心にしたいと考えます。名古屋は企業活動を中心にした都市という印象がありますが、実際には伝統的な文化・芸術活動が豊富に潜在しています。それを再発見するだけではなく、名古屋の未来に貢献する新たな文化・芸術活動の拠点にしたいと考えます。「都市美」と深く関わることによって、日本の新たな芸術運動をこの名古屋からつくり出していきたいと考えます。
「地域社会」
地域社会に貢献する人材を育てたいと考えます。名古屋という地域だけではなく、様々な地域で活躍する人材を育てます。美しい都市環境、美しい地域社会をつくるために何ができるのか。それを考える能力を持った人たちです。今の日本社会の中で最も求められている人材です。
以下の写真はクリックで拡大します
名古屋造形大学の5つの領域について
〈美術領域〉従来までの、油画、日本画、彫刻、コンテンポラリーアートという分野に分けるという考え方は、それぞれの分野の純粋性・自立性を保つためには有効ですが、その相互の関係を構築するためにはむしろ弊害になっている傾向もあると思います。それぞれを美術領域という一つの研究領域に統合した上で、それぞれの研究者が相互に関わり合い自由に活動できる環境を目指したいと思います。美術領域は、美術とは何か、芸術とは何か、という本質的な問いかけを含んでいます。正確に言えば“美術理論”というべき領域です。大学教育の芸術理論の根幹を担います。
〈映像文学領域〉すぐれた文学作品の情景描写は、その情景の中にいる登場人物の内面をも描写します。読者はその情景を想像し(頭の中で映像化し)、登場人物の心の動きを想像することができます。一方でマンガ作品という表現形式はその情景を映像として描写します。すぐれたマンガ作品においては、活字による説明がなくても、読者はその登場人物の心の動きを推し量ることができます。それはアニメーション、CG、イラストレーションなどの表現形式にも強い影響を与えたと思います。その作品性の中心は、読者と登場人物に仮託された作家との会話です。こうした画像作品の作品性は、二十世紀の日本で文学作品としての一つの高みに達したと思います。その総体を映像文学という新たな研究領域として立ち上げます。
〈地域社会圏領域〉
「建築」「インテリア」分野という考え方は、建築空間をあまりにも狭い研究領域に閉じ込めてしまっていると思います。建築空間とは「それ自身であると同時に周辺地域社会との関係」です。建築と周辺環境・地域社会との関係を強く意識した研究活動を目指したいと考えます。それは同時に一つの領域性を持った地域社会(地域社会圏)の構築を目指すことだと思います。都市環境のためのサイン・デザイン(グラフィック・デザイン)、あるいは地域社会に固有の交通機関(プロダクト・デザイン)のような新たなデザイン活動が創造されることを目指します。
〈空間作法領域〉
私たちの日常の様々な身体行為は、ただ自己の意志のみに従って行われているわけではありません。他者に対する気配りと共にその行為を行っています。一つの空間の中において、他者に対する気配りと共にある身体行為は「作法」と呼ばれています。身体行為に伴う物のデザインとは、プロダクト・デザインやファッション・デザイン、アクセサリー・デザイン、グラフィック・デザインあるいはカトラリー・デザインもそうだと思います。そうしたデザインをただ機能に基づくデザインと考えるのではなく、“他者と共に居る空間”の中で他者への気配りとして考える、それが空間作法という考え方です。
〈情報表現領域〉
数値化された情報を、単にそれを数値として処理するのではなくて、視覚(聴覚、触覚)の情報として処理することによって発信者と受け手との関係は劇的に変わりました。視覚情報としての豊かな表現はそれ自体自立した映像表現になると思われます。
各領域相互の関係名古屋造形大学の教育・研究理念の中心は「都市美」です。それぞれの領域は美しい生活環境をつくることを目指します。そのためには、それぞれの領域は相互に関係する必要があります。「美術領域」は「映像文学領域」と深く関係していると思われます。また、「地域社会圏領域」と「空間作法領域」も深く関わっています。空間作法の美学が成り立つためには、その作法の舞台である「地域社会圏」が予め存在することが前提です。「情報表現領域」は、今後、都市情報を視覚化しようとするときに重要な役割を果たすと思われます。他の領域との関係の中心的な役割を担うと思われます。5つの領域相互の関係こそが、大学の新たな芸術理念をつくり出していくのだと思います。