SHARE 小山光+キー・オペレーションによる、東京・千代田区の商業ビル「神田テラス」
小山光+キー・オペレーションが設計した、東京・千代田区の商業ビル「神田テラス」です。
都心部の不動産投資で建物を建てる際にまず求められるのは容積率をできるだけ使い切ることだ。得られた容積は、建物の用途によって価値が異なる。商業テナントビルの場合、低層階と最上階は家賃の坪単価が高く、地上からのアクセス、もしくは眺望といった特徴がない中間階はあまり家賃が上がらない。9階建てという高層のビルになるこの計画では1、2階と最上階以外の中間階の価値をあげるアイデアを検討したいと考えた。
飲食テナントビルを設計する際には、それぞれ全く異なる個性のテナントをどのように集合させて、どのように街並みに関わらせていくべきかを考える必要がある。この敷地のそばの靖国通りにも下層階が店舗で上層階がオフィスになっているペンシルビルが多く建っているが、1-2Fは店舗の装飾で飾られていて、上層階と完全に分離してしまっている。1Fは街を行きかう人々に直接アピールできるが、上階になると、レストランが集合した建物のイメージをビルとして作り、このビルに来れば、何らかの満足できる魅力的なレストランに出会うことができるというアピールが必要である。
このビルでは、垂直動線を裏にもっていったことで前面側がフリーになったため、そちら側にテラスを作る検討をした。千代田区では街並み誘導のための地区計画があり、敷地から500mmセットバックすると斜線制限の適用除外が受けられるため、斜線でけずられることなく、40mの高さのヴォリュームを建てることができる。そのため、前面側をテラスにして面積を減らしても、減った面積は上に階を足すことで、容積率を高めることができた。建物のヴォリュームは地下1階、地上9階となった。
前面のテラスは階によって大きさや形状が異なり、避難バルコニーのみを設置した小さなテラスのみとして最大限大きな内部空間を確保した階もあれば、建物の間口一杯の幅がある大きなテラスもあり、1テーブル用のテラスと個室が隣り合うレイアウトの階もある。それらの異なるアレンジのテラスが積層することで、立体的なガーデンテラスを形成している。積層する飲食ビルでは個々のテナントが完全に独立してしまっていることが多いが、このビルでは上下階でテラスが抜けている個所を作り、上下階を連続させることで、それぞれのテナントがもっとお互いに関りを持ち、それぞれのレストランの客が、このビルの別のレストランにも来店する相乗効果を狙っている。
図面で立面図として描くファサードと地上を歩いていて見上げる時に見えるファサードは全く異なる。テラスや飛び出した個室部分は、3.6mのキャンティレバーで浮いたように持ち出されている。そのテラスの裏面を特徴的なスモークしたアッシュの仕上げとして、さらに手すりの上に設置された照明でライトアップすることで、このビルで一番目につく上裏の天井面をもう一つのファサードとして立体的に表現している。
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以下、建築家によるテキストです。
神田テラス
神田小川町の靖国通りと本郷通りの交差点の裏に、古い低層、中層のビルが多く立つ、3面を道路に面した細長い区画のこの敷地には半地下と地上5階の、築50年のオフィスビルが建っていた。敷地の前には駐車場、ガソリンスタンドがあり、その屋根より上は開けている。靖国通りに面する建物は表のファサードをつくるので、この敷地は、ビルの裏側の避難階段や避難バルコニーなどに囲まれている。ここに飲食テナントを入れるビルを計画した。
都心部の不動産投資で建物を建てる際にまず求められるのは容積率をできるだけ使い切ることだ。得られた容積は、建物の用途によって価値が異なる。商業テナントビルの場合、低層階と最上階は家賃の坪単価が高く、地上からのアクセス、もしくは眺望といった特徴がない中間階はあまり家賃が上がらない。9階建てという高層のビルになるこの計画では1、2階と最上階以外の中間階の価値をあげるアイデアを検討したいと考えた。
敷地形状からできる細長い平面では、階段とエレベーターの配置でほぼ全体のプランが決まることから、前面道路側や側面の道路に面する中間部、裏通り側など、どこからのアクセスが有効かを検討した。側面道路の中間部からのアクセスであれば、真ん中から左右に振り分けることで1フロアに2テナントを想定できるが、敷地の間口が狭いため、中間部に階段、エレベーターを設置すると間口が埋まってしまうので、1フロアを大きく使いたいテナントにとっては使いにくくなってしまう。またエレベーター1基で10層20テナントをカバーすると待ち時間が長くなりすぎるため、30坪程度の1フロアに1テナントとした。これらのことから、前面道路側か、裏通りのどちらかに垂直動線を設定することになった。表通りに動線を置くと、正面の間口がほぼ埋まってしまい、前面ファサードが閉塞的になってしまう。表通りから、裏通りまでの距離があまりなく、裏通りにも小さな飲食店が増え始めているため、2Fより上にアクセスするエレベーターと階段は裏通り側に設け、前面道路側は1Fテナントのみのエントランスとして、この敷地で最も開けている前面道路側をフリーにするようにした。
飲食テナントビルを設計する際には、それぞれ全く異なる個性のテナントをどのように集合させて、どのように街並みに関わらせていくべきかを考える必要がある。この敷地のそばの靖国通りにも下層階が店舗で上層階がオフィスになっているペンシルビルが多く建っているが、1-2Fは店舗の装飾で飾られていて、上層階と完全に分離してしまっている。1Fは街を行きかう人々に直接アピールできるが、上階になると、レストランが集合した建物のイメージをビルとして作り、このビルに来れば、何らかの満足できる魅力的なレストランに出会うことができるというアピールが必要である。クライアントから出た要望としては、本郷通り側から見えるファサード面をガラス張りにしたいということだった。なるべく飲食の活気を外に見せることで、上層階にも客を呼べるような考えだ。その考えも活かしながら、もうひとつビルに特徴を与える建築的アイデアを検討していた。今までいくつか飲食ビルを設計してきた中で、恵比寿テラスビルでは、上下階のテラスを連続させることで、上下階のテナントの間に新しい関係を作ることを試みていた。このビルでも、地上階から最上階まで連続するテラスのようなものができないかスタディし、当初は側部のファサーを階段状に連続するテラスなど作ってみたが、ビルの幅が狭いため、短辺方向の面積を減らすのは賢明ではなかった。
このビルでは、垂直動線を裏にもっていったことで前面側がフリーになったため、そちら側にテラスを作る検討をした。千代田区では街並み誘導のための地区計画があり、敷地から500mmセットバックすると斜線制限の適用除外が受けられるため、斜線でけずられることなく、40mの高さのヴォリュームを建てることができる。そのため、前面側をテラスにして面積を減らしても、減った面積は上に階を足すことで、容積率を高めることができた。建物のヴォリュームは地下1階、地上9階となった。
前面道路に面してビルの外形を穿ったヴォイドをつくり、立体的な垂直ガーデンテラスを提案した。そうすることで、それぞれのレストランがもっと街に関わることができる空間を持ち、人と交通が行き来する都市のダイナミックなスペースのなかで食事を楽しむという体験を得ることができる。
前面のテラスは階によって大きさや形状が異なり、避難バルコニーのみを設置した小さなテラスのみとして最大限大きな内部空間を確保した階もあれば、建物の間口一杯の幅がある大きなテラスもあり、1テーブル用のテラスと個室が隣り合うレイアウトの階もある。それらの異なるアレンジのテラスが積層することで、立体的なガーデンテラスを形成している。積層する飲食ビルでは個々のテナントが完全に独立してしまっていることが多いが、このビルでは上下階でテラスが抜けている個所を作り、上下階を連続させることで、それぞれのテナントがもっとお互いに関りを持ち、それぞれのレストランの客が、このビルの別のレストランにも来店する相乗効果を狙っている。
図面で立面図として描くファサードと地上を歩いていて見上げる時に見えるファサードは全く異なる。テラスや飛び出した個室部分は、3.6mのキャンティレバーで浮いたように持ち出されている。そのテラスの裏面を特徴的なスモークしたアッシュの仕上げとして、さらに手すりの上に設置された照明でライトアップすることで、このビルで一番目につく上裏の天井面をもう一つのファサードとして立体的に表現している。テラスの床はメンテナンスを考えて、コンクリート平板の置き床としているが、テラスの床のイメージが強い、木を天井に貼ることで、地上を歩く人々にそこがテラスだとアピールするために仕上げを反転した倒置法的なテラスになっている。またこれらのテラスの手すり際には在来種の植物を植えたプランタを設置し、より心地の良い緑化された空間とした。
全面ガラス張りのファサードはオフィスビルのような外観になるのを避けるため、飲食の内装の雰囲気に合わせやすい黒の格子状のサッシュとした。そこからヴォリュームをポーラスに穿ったようにできたテラスのヴォイドは、黒いサッシュとガラスでできた硬質なファサードと対比的な温かい木の仕上げで、都市に新たなパブリックランドスケープを提起している。
■建築概要
敷地:東京都千代田区
用途:テナントビル
竣工:2017.09
設計:小山光+キー・オペレーション
施工:佐藤秀
写真:小川重雄