


西下太一建築設計室が設計した、愛媛・伊予市の「鳥ノ木の家」です。
南面接道の敷地に建つ設計者の両親の住居です。建築家は、環境を享受しつつ静かな日常を実現する建築を目指し、通りに対し低く構えた大屋根で“守りの環境”を構築しました。そして、内と外の間に“多層のレイヤー”を設けて段階的に繋げました。
60代の両親のための終の住処。
敷地は南面道路に巾広く接道しているものの、道路の向かいには住宅が建て並んでおり、単純に南面に依存するだけでは安心感が得られない。どこか身体的なスケールに欠けたこの敷地のなかに、いかに小さな人間味のある空間を生み出せるだろうか。
この場所の南向きの開けた光は強い「正」のエネルギーを持つ一方、ありのままに生活に受け入れるにはどこか晒され過ぎている。「静」を求める日常においては、「正」のエネルギーは感じつつも、それらと少し距離をとり、穏やかに過ごすことができるようにと考えはじめた。
まず、敷地全体に1枚の大屋根を掛け、通りに対して低く構える。全体の骨格として守りの環境をつくる。その基本的な骨格を維持しつつ、中間領域を整えていくことにした。
老後の住まいのシーンとして、例えば、孫を含めた子世帯が集まるといった活動的なひと時は幸せなハイライトである一方、日常はあくまで静かに穏やかに過ごしたい。暮らしの中にはシーンに応じた「気持ちのグラデーション」が生まれるものだ。
光を柔らかく拡散するルーバー板塀、緑陰と木漏れ日をもたらす庭、軒下、複数の建具で内外の繋がり方を調整できる大開口、土間、そしてメインの居場所となるLDK。「活動的な窓辺(土間)」と「奥の静かなソファコーナー(LDK)」という対の関係の間には、このような多層のレイヤーが内包され、グラデーショナルな繋がりが生まれている。