


西村浩 / ワークヴィジョンズ+竹味佑人建築設計室+黒岩構造設計事ム所が設計した、熊本市の、公衆浴場併用住宅「神水公衆浴場」です。施設の場所はこちら(Google Map)。
「銭湯をやりたいんですけど…」という依頼を受けたのが2018年の夏。建主は熊本市在住で、今回の構造設計者でもある。「なぜ銭湯をやりたいんですか?」と聞くと、「2016年の熊本地震の時、地域のみなさんがお風呂で苦労していたから…」という。建主自身も熊本地震で住んでいたマンションが大規模半壊し、区分所有法により解体せざるを得なくなったので、今回の住宅の建設を決めた。
実際のところ、戦後から高度成長期において地域の公衆衛生を支えてきた銭湯(公衆浴場)は、各家庭に水廻りが充実した現在、都市機能的には「なくても不便はない」存在となった。必然的に近年の銭湯経営はそう簡単ではなく、地元の保健所によると廃業する銭湯は多いものの、新規で営業を始める銭湯は記憶にないという。それでも災害時の地域のことを想い、銭湯をやりたいという建主の心意気に、僕は心から共感した。
近年の増大する災害規模を想定すると、行政主導の避難所整備等だけでは限界があることは明らかで、地域主体で災害時対応ができる新しいモデルが欲しい。どこでどのような被害が発生するかが予想しにくい状況下では、集約的な避難所整備よりも、小さくても地域全体に数多く散らばる拠り所が必要なのではないか。
たとえば、キッチンは道路に面して、災害時は炊き出しの場に。リビングはお互い様の精神で雨風をしのぐ小さな地域の避難所に。浴室やトイレは共同の水廻りに。熊本地震を経験した建主の想いによって開かれたこの神水公衆浴場は、まさに超災害時代に力強く地域を支える新しいプロトタイプとなる住宅だ。地域の人々が日常的に利用する銭湯は、毎日が防災訓練のようなもの。災害時にはきっと高い防災力を発揮するに違いない。
計画は、1階が銭湯、2階が住居というシンプルな構成だ。ただ、僕が面白いと思っているのは、2階住居に浴室がないことだ。住宅の玄関は番台、玄関前は国道の歩道からセットバックした縁側のような空間だ。1階銭湯は住宅の浴室も兼用しているから、公共的な意味合いを持つ銭湯が、最も私的な居住空間の一部となっていて、公私の境界が極めて曖昧な住宅である。
建主一家は、長女が7歳、四女が0歳という4人の女の子たちがいる家族構成で、引越し後は、おそらく家族全員が地域の大人たちや友達と一緒に風呂に入ることになる。お風呂というもっとも私的な暮らしを、地域と共有しながら過ごすことで、どんな大人に育っていくのだろうと考えると、子供たちの将来がとても楽しみだ。













