



谷口幸平 / and to 建築設計事務所が設計した、東京の「グリムシングハウス / Glimpsing House」です。
能に魅せられた夫と家族の住居です。建築家は、日本空間の奥行と自然との暮らしの要望に、遮景を用いた“動的な見え隠れ”と現象を定着する“静的な見え隠れ”を備えた空間を志向しました。そして、能の“序破急”や“面”と共鳴する建築が現れました。
建築は、閉ざされた器ではなく、世界を感受するための高感度なセンサーであるべきだ。
都市の中で、私たちは自然の移ろいや微小な変化をいつしか見落としている。建築の「線」と「面」を環境の移ろいを捉える「物理的な摩擦」として再定義し、刻一刻と変わる現象を空間に定着させる「見えかくれ」の建築である。建主は、能の幽玄に魅せられ来日したアメリカ人の夫と、日本人の妻の4人家族。夫婦は、日本空間に宿る奥行きと、自然と隣り合う暮らしを求めた。
敷地は都心の住宅密集地。一帯は北側傾斜の地形で、敷地は隣家より1mほど高い基壇上にある。
隣地の南庭によって開かれた北側の空、そして隣家の緑と連続する北庭を中心に据え、多角的に庭との繋がりをもたせることにした。建築は庭を抱くコの字型とし、北庭を建築で閉ざす事は避け、周辺に光や風を行き渡らせるように、建築を上部に持ち上げた。そうして現れた軒下空間を庭に露わになる「露庭室」と名付け、内外を緩やかに繋ぐ暮らしの舞台とした。庭を挟んで東西に露庭室と離れの茶室、南は母屋である。
室内は、周辺地形が持つ段差を引き込み、多様な床レベルのランドスケープを形成する。屋根は北側の緑や暮らしに光を導くため4枚に分割し、庭に対する影を抑えつつ、ハイサイドライトで室内に光を導いた。
しかし、住宅地における限られた庭だけでは自然環境のもつ移ろいを得るには物足りない。
そこで、ふたつの「見えかくれ」を試みた。ひとつは、遮景を用いた「動的な見えかくれ」である。視界が切り替わりながら折れ曲がり、遮景を幾重に繰り返す体験。さらに、能の「序破急」のように体験に緩急をつけるため、天井高さは2,350~7,050mmへと劇的に変容させた。遮景と、スケールの振幅が空間に深い奥行を与える。
ふたつ目は、素材とディテールを用いた現象を定着させる「静的な見えかくれ」である。竹型枠のコンクリートと、大和貼りの外壁が陰影を刻み、漆喰壁が揺れる木漏れ日を映し出す。洗い出しが微細な光を捉え、石の縁側は水鏡のように空と木々を増幅させ、室内へと光を導く。暖炉の揺らめく炎を石面が反転し、竹の編込壁が北庭の採光を補助するように光を室内へ拡散する。午後の光を受ける襖紙は、空間を柔らかな反射光で満たす。
天候や時間、季節によって表情を変える光は、建築の線と面を介して、限られた時間の移ろいを見えかくれさせる。







