SHARE 岸名大輔 / BAUMによる、福井市の住宅「H HOUSE」
岸名大輔 / BAUMが設計した、福井市の住宅「H HOUSE」です。
この土地は周囲一帯が森で囲まれ、谷となっている地域だ。平野と比べ、太陽が昇るのは遅く沈むのは早い。道も地形に合わせて整備され勾配をつけながら曲がりくねり、澄んだ空気と昔ながらの雰囲気が感じられる土地だ。日照時間が少なく気温が低いことと、前面道路が狭いことからのプライバシーの確保、北陸特有の重く水分を含んだ雪の対処が今回の課題となった。また町民が220人ほどのこの地区で、建物も周辺住民との関係づくりにおいて重要なのではないかと考えた。この地域の特性を生かしながら、家族が安らげる空間をつくることを目指した。
またこの町では近所の子供たちやその家族が一緒になって道路を歩く様子がよくみられる。地域コミュニティが深く町中のほとんどがつながっている地域であることがよくわかる。
都会や密集した住宅地であればプライベート性を重視した窓の配置は重要な項目であるが、今回はそのような配慮の必要がないと感じた。
そのためキッチンに立つと正面に見える道路に面する窓はあえて大きくした。家という本来プライベートの確保のために造られる空間を完全に外部と分断するのではなく、土間スペースを介して外部とプライベート空間の境界線をつくった。前面道路との間に土間スペースというフィルターを挟みながら、程よい距離感を保つことができる。土間スペースには施主が友人から譲り受けた薪ストーブがあり、火を囲みながら近所の人たちや友人と会話する様子が想像できる。
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以下、建築家によるテキストです。
この土地は周囲一帯が森で囲まれ、谷となっている地域だ。平野と比べ、太陽が昇るのは遅く沈むのは早い。道も地形に合わせて整備され勾配をつけながら曲がりくねり、澄んだ空気と昔ながらの雰囲気が感じられる土地だ。日照時間が少なく気温が低いことと、前面道路が狭いことからのプライバシーの確保、北陸特有の重く水分を含んだ雪の対処が今回の課題となった。また町民が220人ほどのこの地区で、建物も周辺住民との関係づくりにおいて重要なのではないかと考えた。この地域の特性を生かしながら、家族が安らげる空間をつくることを目指した。
施主の要望は子供部屋以外の用途はすべて1階に欲しいというものであったが、敷地の大きさ・形状を考えるとすべてを1階に配置することは難しいと感じた。そこでリビングは2階にし、ダイニングキッチンは家の中心に配置し上部を吹き抜けとした。キッチンと2階のリビングとの距離感をできるだけ近づけるため、1階の階高を低く設定した。2階へと続く階段もインテリアとなる。
階高を低く設定したため、寝室へ続く廊下と書斎スペースは道路の勾配に合わせて段差をつけて天井高を確保している。物理的には寝室とダイニングスペースと近い距離にはあるが、階段や書斎スペース・収納を挟み家族間でのプライバシーも確保した。
またこの町では近所の子供たちやその家族が一緒になって道路を歩く様子がよくみられる。地域コミュニティが深く町中のほとんどがつながっている地域であることがよくわかる。
都会や密集した住宅地であればプライベート性を重視した窓の配置は重要な項目であるが、今回はそのような配慮の必要がないと感じた。
そのためキッチンに立つと正面に見える道路に面する窓はあえて大きくした。家という本来プライベートの確保のために造られる空間を完全に外部と分断するのではなく、土間スペースを介して外部とプライベート空間の境界線をつくった。前面道路との間に土間スペースというフィルターを挟みながら、程よい距離感を保つことができる。土間スペースには施主が友人から譲り受けた薪ストーブがあり、火を囲みながら近所の人たちや友人と会話する様子が想像できる。
2階のリビングからは家全体を見渡すことができ、まるでワンルームのような空間となった。同一空間の中で、リビングスペース、廊下では子供たち用のカウンター、サンルームなどと場所によって使い分けできるようにし、個人の部屋以外は1階でも2階でも互いの存在は感じることができる。毎日、使う時間や使い方など自分の用途に応じて居場所を変えていくことも可能である。
近年夏の気温は益々高くなっていき、住宅において窓と室内の関係は重要な問題である。今回日差しが強い南西側にあえて大きく窓をとったのは、地域柄日照時間が短く太陽が強く当たる時間が少ないことからである。夏は吹き抜けを通して風が通るように、冬は少ない日差しをできるだけ多く取り入れるよう、できるだけ建築的に解消するように工夫した。2階のリビングスペースはロケーションが良いため、南西側に設けた窓からは山間が見られる。1階から見上げると建物は視界に入らず空しか見えないため、日々移り変わる雲の動きを感じられる。
内装は木造の躯体を現しにすることで施主の柔らかく優しい雰囲気に合うようにした。
シナベニヤを貼った天井は窓から入る光を柔らかく反射し室内に取り込む。木材が太陽の光によって経年変化する様子も、家族の成長とともに感じてほしい。
仕事を終え家路につくと、煙突のけむりが昇る様子、窓に明かりが灯る様子が遠くからわかる。静かな山間で灯る光は建て主にとっては大きな安心感のある光だ。
忙しい日々の中で毎日帰るこの家が施主にとっての一番くつろげる場所になってほしい。
福井市内からほど近いにも関わらず、清流の音や風が通り過ぎる音が心地よく聞こえるこの土地はゆっくりとした時間が流れるように感じる。世代をまたぎ長く住み続けることを前提としているこの土地で、心からくつろぐことが出来る場となった。
■建築概要
竣工年月:2020年2月
所在地:福井県福井市
設計:BAUM 岸名大輔
主要用途:専用住宅
工事種別:新築
主要構造:木造
延べ床面積:185.29㎡
1階床面積:101.02㎡
2階床面積:84.27㎡
写真:Mov 明直樹