SHARE “建築と今” / no.0005「猪熊純」
「建築と今」は、2007年のサイト開設時より、常に建築の「今」に注目し続けてきたメディアarchitecturephoto®が考案したプロジェクトです。様々な分野の建築関係者の皆さんに、3つの「今」考えていることを伺いご紹介していきます。それは同時代を生きる我々にとって貴重な学びになるのは勿論、アーカイブされていく内容は歴史となりその時代性や社会性をも映す貴重な資料にもなるはずです。
猪熊純(いのくま じゅん)
2004年東京大学大学院修士課程修了。2006年まで千葉学建築計画事務所勤務。2007年成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。2008年より現職。
代表作に「LT城西」「柏の葉オープンイノベーションラボ」「豊島八百万ラボ」「ソウルメトロ・ノクサピョン駅デザイン改修」「ナインアワーズなんば駅」など。
主な受賞に、2015年日本建築学会作品選集新人賞 JID AWARDS 2015 大賞 第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 出展 特別表彰
著書に、『シェアをデザインする』、『シェア空間の設計手法』
URL:https://www.narukuma.com/
今、手掛けている「仕事」を通して考えていることを教えてください。
シェアする場を設計すると宣言してから10年以上経ちました。
人口縮小するなかで、低密度化しかねない郊外に人の集まるハブを作ったり、平均世帯人数が3人を切る時代の住まいを考えたり、きっと出来ることはたくさんあるはず、と思ってシェアハウスやコミュニティカフェなどを作ってきました。
最近は結果として、我々に求められる仕事は当初の想像を超え、イノベーションオフィス・商業施設・アート施設・宿泊施設なども手掛けています。
こうした中で、私は「シェア」が集まるためのもの場であるのはもちろんのこと、近代的なツリー状の社会システムを複雑化させる仕掛けとしても、有効だと考え始めています。
今、読んでいる「文章」とそこから感じていることを教えてください。
『共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること』という書籍です。
動物行動学者である著者のドゥ・ヴァールは、哺乳類の豊富な観察を通して、動物は本来的に共感をベースに生きており、それが種の反映につながっている、という主張を行っています。
「共感」は概念的に「シェア」に近く、客観的に見つめにくいものだったのですが、人間ではないものを相手に書かれたこの書籍は、とてもクールな視点を持ち込んでくれた気がします。
アメリカ的な新自由主義は、ドーキンスの「利己的な遺伝子」の拡大解釈だと言われますが、共感の時代にも生物的な視点を持ち込むのは面白いと思いました。
今、印象に残っている「作品」とその理由を教えてください。
オランダのロッテルダム中央駅です。
巨大なTOD(公共交通指向型開発)に建築家やランドスケープアーキテクトを参加させ、極めてラディカルな案によって、ロッテルダムの人の流れを大きく変えたそうです。
実際の建築もオランダらしい大胆な造形と空間で、圧倒的でした。
日本も渋谷駅などはかなり面白い状況が生まれていますが、まだまだ建築家が都市開発に関わる事例は多くありません。今後、建築家と大手設計事務所・大手ゼネコンが協力して一つの開発に取り組むモデルを日本で目指すなら、きっと参考になると思います。