SHARE 八島正年+八島夕子 / 八島建築設計事務所による、長野・上水内郡の別荘「野尻湖の小さな家」
八島正年+八島夕子 / 八島建築設計事務所が設計した、長野・上水内郡の住宅「野尻湖の小さな家」です。2021年に発売された八島正年と八島夕子による書籍『10の住まいの物語』の概要も掲載します。
長野県北部、新潟県との県境に位置する妙高戸隠連山国立公園内の野尻湖のほとりに建つごく小さな別荘である。建主は神奈川県の葉山にて二世帯住居(葉山一色の家/2015年竣工)を設計中に、訪れた旅先で偶然この敷地を見つけ、二拠点生活を決意する。どちらも緑豊かな土地ではあるが、自然環境の違いや家族との距離感のあり方など、二か所あるからこそ、それぞれ異なる暮らし方を楽しむものとして設計を進めた。
計画にあたって、周辺環境を維持するためにできるだけ木を切らないことと、国立公園の規制もあり、必要最小限の面積(5m×5m)で設計を行うこととした。建物は地表の湿気や積雪対策のため、1階をRC造の倉庫、2階を木造の居住空間とし外壁は周辺の環境に馴染むようにレッドシダーのシングルシェイクとした。屋根は軒を出した方形で外壁を痛めないよう雪を全方向に落とす形状としている。
自然環境の中に身を置く場所として、簡素な山小屋の方がより自然な状態だという考え方ももちろんあるが、日常生活の仕様から離れすぎないことで気楽に使える場所を目指すと同時に、大きさに見合った適度な簡略化をし、食寝分離と台所を充実させ、コンパクトであるが質の高い空間にできたと思う。
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以下、建築家によるテキストです。
長野県北部、新潟県との県境に位置する妙高戸隠連山国立公園内の野尻湖のほとりに建つごく小さな別荘である。建主は神奈川県の葉山にて二世帯住居(葉山一色の家/2015年竣工)を設計中に、訪れた旅先で偶然この敷地を見つけ、二拠点生活を決意する。どちらも緑豊かな土地ではあるが、自然環境の違いや家族との距離感のあり方など、二か所あるからこそ、それぞれ異なる暮らし方を楽しむものとして設計を進めた。
敷地は都心から車で4時間ほどのところに位置し、夏には青々とした緑の山に囲まれ、冬になれば2~3mの雪が積もる豪雪地帯でもある。公道から細い山道を下った湖北側の南斜面中腹にあり、さらに斜面を下った湖畔に桟橋を有している。
計画にあたって、周辺環境を維持するためにできるだけ木を切らないことと、国立公園の規制もあり、必要最小限の面積(5m×5m)で設計を行うこととした。建物は地表の湿気や積雪対策のため、1階をRC造の倉庫、2階を木造の居住空間とし外壁は周辺の環境に馴染むようにレッドシダーのシングルシェイクとした。屋根は軒を出した方形で外壁を痛めないよう雪を全方向に落とす形状としている。
内部は家族4人が休暇を過ごすための最小限の機能(台所、居間食堂、寝所、水場)を収めた。建主は日頃から「食」を大切にしており、計画地は春の山菜や筍採りにはじまり、冬にはワカサギ釣りなど食に関する楽しみが多いため、台所は重要な場所として建物全体の面積に対して比較的大きな割合で確保した。反面、居間食堂は4畳ほどのスペースにL字のソファを造作しており、開放的な大自然で遊んだ後は湖を眺めながら家族や友人と親密な距離感で食卓を囲めるように考えた。
自然環境の中に身を置く場所として、簡素な山小屋の方がより自然な状態だという考え方ももちろんあるが、日常生活の仕様から離れすぎないことで気楽に使える場所を目指すと同時に、大きさに見合った適度な簡略化をし、食寝分離と台所を充実させ、コンパクトであるが質の高い空間にできたと思う。
飲料水などの生活用水は地下水をくみ上げており、空調は輻射パネルで冷暖房から除湿までまかなっている。これは敷地が遠方に位置することから、薪の調達や清掃といったことに時間を割かずに滞在時間を最大限活用するための工夫でもある。また、過酷な自然環境に対応するための用具(除雪機や草刈機など)は全て1階の倉庫へ収納する形とし、住環境を整えた。
建主はこの小さな家を手がかりに、土地や地域に馴染み、ゆくゆくは少しずつ小屋を増やし、生活の中心を都心からこの地に移すことも考えているという。
大自然の中で家族が小さくよりそうかたちがつくられていくと嬉しい。
■建築概要
名称:野尻湖の小さな家
所在地:長野県上水内郡
設計:八島建築設計事務所
主用途:別荘
構造:混構造(1階RC造、2階木造)
施工:株式会社 ミズケン
敷地面積:2159㎡
建築面積:25.05㎡
延べ床面積:36.73㎡
竣工:2016年3月
写真:川辺明伸
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・壁 | 外壁1階 | |
外装・壁 | 外壁2階 | |
内装・床 | 居室全般 | |
内装・床 | 小屋裏 | |
内装・壁 | 居室全般 | EP塗装 |
内装・壁 | 台所壁 | |
内装・建具 | サッシ | 木製建具:プロファイルウィンドウ(アイランドプロファイル) |
内装・設備 | 冷暖房 |
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八島正年と八島夕子による書籍『10の住まいの物語』の概要
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住まいには、その人の生き方や価値観がそのまま見えてくる。
この本は八島建築設計事務所が手がけたライフスタイルの異なる10軒の住まいを訪ね、それぞれの家族の家を建てることになったきっかけや建築中の思い、現在の暮らしぶりを豊富な文章と写真で紹介している。〈普段、住宅をつくる際には基本設計の段階から私たちは手書きのパースを描くのだが、そこにはできるだけ暮らしのイメージを書き込むようにしている。食卓の風景や庭で過ごす時間、帰宅時に自分の家がどんな様に見えるか。人生で初めて建物をつくるという作業に関わることになった施主がより具体的に自分の生活をイメージしやすいようにするためだ。つくるのは暮らしを営む器であり、そこに暮らすことで「家」は「住まい」へと変わる。
この書籍をつくるにあたって、改めて自分たちの設計した建物を「どうやって伝えるか」と思索したとき、設計者の目線だけでなく、施主の暮らす家へ初めて訪れたライターの視線から見える建物の印象や、インタビューによって家族がどんな家を求めてそして現在の暮らしぶりはどんな様子か、日常生活を切り取った写真と共に表現する方法を選んだ。そこへ設計者自身による水彩画のイメージスケッチ、設計の解説、調度品なども描き込んだ緻密な俯瞰図によって建築の特徴を表すなど様々な表現を追加することで、一般の方だけでなく建築を専門としている方にも楽しんでいただける本になったのではないかと思う。「家」から「住まい」へと変貌を遂げる魅力を感じていただけると嬉しい。〉掲載物件
森の中の図書館:おおたかの森の家
住まいは人生の器:神木本町の家
庭を取り込むリビング:武蔵野の家
どこに座ってもいい感じ:深沢の家
伸びやかな終の住処:辻堂の家
三世代がつながる暮らし:続・辻堂の家
猫と楽しむもうひとつのリビング:吉祥寺南町の家
住み継ぐ暮らし:梶原の家
行き来する暮らしかた:葉山一色の家+野尻湖の小さな家
丘の上の白い方舟:山手町の家
■書籍概要
『10の住まいの物語』
出版社:エクスナレッジ (2021/1/23)
発売日:2021/1/23
言語:日本語
単行本(ソフトカバー):224ページ