SHARE 橋本尚樹+増崎陽介 / NHAによる、山梨・北都留郡の「丹波山村新庁舎」。東京と繋がる街道があり山村留学も行う地域。交通と移住という“人の流れ”を育む場を目指し、街道に“正対した構え”で全体が“一室空間”となる建築を考案。土砂崩れも想定して主機能はRCの基壇部に収める
橋本尚樹+増崎陽介 / NHAが設計した、山梨・北都留郡の「丹波山村新庁舎」です。
東京と繋がる街道があり山村留学も行う地域での計画。建築家は、交通と移住という“人の流れ”を育む場を目指し、街道に“正対した構え”で全体が“一室空間”となる建築を考案しました。また、土砂崩れも想定して主機能はRCの基壇部に収められました。施設の場所はこちら(Google Map)。
はじまりは2020年の夏、新庁舎の設計施工者選定プロポーザルで私たちの太陽工業・橋本尚樹建築設計事務所共同企業体が選定されプロジェクトはスタートした。
丹波山村は山梨県の北東部、東京都との県境に位置する青梅街道沿いの小さな村。奥多摩の山々に周囲を囲まれた谷間の集落群からなっている。人口は約530人、関東一人口の少ない村とされている。
村は二つの人の流れに支えられて存続している。
一つは東京と甲府を結ぶ青梅街道という交通の大動脈。もう一つは、山村留学や地域おこし協力隊といった“つながり”である。どちらを欠いても村は存続するのが難しい。村の核となる新庁舎は、この二つの流れを絶やさずにより一層育める場となってほしい、テーマはこうして決まっていった。
まず建築は交通の大動脈に正対する。かつて街道を賑わせた丹波宿の風景に習うように、建築は街道に正対した構えをとる。
つぎに村民やそうでない人も分け隔てなく受け入れ、共存の場をつくるために個室を極力排除して庁舎全体が大きな一室空間となるように計画する。村の生命線である都市との“つながり”を発展させるためには、庁舎はひろく村の内外に開かれている必要がある。建築計画的に言えば、山と街道の平面的なずらしと、屋根と平面の立体的なずらしによって、一室空間がつながりつつも小さく親密な(そして私的な)空間を内包することを目指した。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
はじまりは2020年の夏、新庁舎の設計施工者選定プロポーザルで私たちの太陽工業・橋本尚樹建築設計事務所共同企業体が選定されプロジェクトはスタートした。
丹波山村は山梨県の北東部、東京都との県境に位置する青梅街道沿いの小さな村。奥多摩の山々に周囲を囲まれた谷間の集落群からなっている。人口は約530人、関東一人口の少ない村とされている。
村には小学校と中学校が一つずつあり私はたまたま中学校の入学式に出席する機会を得た。新入生は2人、在校生は4、5人のこぢんまりとした式だった。あとで知ったが2人の新入生はいずれも村外からの山村留学生で卒業後また村を出ていくのが通例らしい。このプロジェクトを通じて村で出会った人の多くが、期限の有無はあれど村外から移住をしてきた人たちであった。
村は二つの人の流れに支えられて存続している。
一つは東京と甲府を結ぶ青梅街道という交通の大動脈。もう一つは、山村留学や地域おこし協力隊といった“つながり”である。どちらを欠いても村は存続するのが難しい。村の核となる新庁舎は、この二つの流れを絶やさずにより一層育める場となってほしい、テーマはこうして決まっていった。
まず建築は交通の大動脈に正対する。かつて街道を賑わせた丹波宿の風景に習うように、建築は街道に正対した構えをとる。
つぎに村民やそうでない人も分け隔てなく受け入れ、共存の場をつくるために個室を極力排除して庁舎全体が大きな一室空間となるように計画する。
村の生命線である都市との“つながり”を発展させるためには、庁舎はひろく村の内外に開かれている必要がある。建築計画的に言えば、山と街道の平面的なずらしと、屋根と平面の立体的なずらしによって、一室空間がつながりつつも小さく親密な(そして私的な)空間を内包することを目指した。
「“みんな”から“わたし”の公共性へ」
このプロジェクトを通じて多くの村の人々と出会った。はじめは530人の村民像をひとつにまとめて描いていたが、時間が経つにつれて個人の顔が浮かぶようになっていった。“みんな“の庁舎づくりは、たくさんの“わたし”の庁舎づくりに変わっていったように思う。
まず集団があって顔の見えない個人があるのではなく、想像のできる個人が集まって集団となる。公共建築は個人(わたし)の存在を引き受ける器であるということ。村民全員の顔が見えるといっても過言ではない人口530人の村で改めて建築の公共性を考えた。
(橋本尚樹 / NHA)
建築計画概要
新庁舎は鉄筋コンクリート造の1階基壇と、その上にかかる木造大屋根というシンプルな構成から成る。
敷地の斜面に対して半分埋められた基壇が背後の山の土を押さえており、執務室やサーバー室といった庁舎の基幹部分がこの基壇に納められることで、万一土砂崩れが起きても最低限の役場機能は守られる。
その上に、1階と2階をまたぐひとつながりの屋根をかけ、庁舎の玄関にあたるロビーや大小の会議室といったその他の機能をすべてこの屋根の下に納めることにした。
断面構成が大方決まり、敷地図を眺めていると、ふと、敷地斜面の等高線が街道に対して幾分斜めになっていることに気づいた。正面の街道の方向と関係なく、斜面が傾いている。そこで、屋根を街道に対して平行に架ける一方で、基壇をこの等高線に沿って斜めに配置してみた。すると、基壇の周囲に三角形のロビーや前庭、テラスといった大小いくつかの親密なスペースが生まれた。
このように、新庁舎の成り立ちは、そのほとんどがこの「山」と「道」との関係性によって説明される。
・敷地において最大の脅威となる土砂災害(急傾斜地崩壊)から庁舎を守るため、背後の法面補強工事を提案し、新庁舎工事に先立って実施した。
・僻地の山道での運搬を考慮し、屋根の大スパンは木集成材の短材の組み合わせで構成した。
・大屋根の下には間仕切りがない。街道を引き入れ、山につながる、淀みない通路のような平面をつくり、決して多いとは言えないからこそ貴重な人の流れの経由地として、庁舎を位置付けた。
・そのため、新庁舎には議場がない。議員数6名の村に年間数十日しか使われない専用の議場は要らない、というのが当初から変わらぬ村の考えだった。ふだんは村の人々がワークショップや会合に使うスペースを、ときに区切って議会にも使うことができる、という通常とは逆の形をとった。
・庁舎正面にある「街道ひろば」と「街道テラス」は、街道を練り歩く村のお祭り、「お松ひき」(1月)や「ささら獅子舞」(7月)の会場のひとつとなる。
・僻地ではインフラが一旦停止すると復旧に時間がかかる。各種の省エネに加え、レジリエンス向上のため斜面に太陽光パネルを設置して、結果としてNearlyZEBを取得した。
丹波山村は、室町時代に遡る古い歴史を持つにもかかわらず、昭和に火災で村の大方が焼けたことから、現在その面影は少ない。
ただ、どの時代も変わらず村は「山」に抱かれ、「道」はつながっていたはずで、それがこの村の歴史を大きく左右してきた。新庁舎は、この2つの紛れもない現実を辿りながら、それをできるかぎり素直に形にしたものだ。
それが、この土地でこれからも生活していく、村の人々の決意を後押しするものにならないだろうか。
(増崎陽介 / NHA)
構造計画概要
分節された5枚の木造屋根を室内の構造体の操作によって1つの大きな屋根とし、その屋根を建物外周に配置された3つのRC基壇に着地させる構造計画とした。
分節されたそれぞれの屋根を、X方向は鉄骨のフィーレンデール梁を屋根間に貫通させることで、Y方向は集成材の圧縮、引張ブレースを応力が循環するように屋根間をかけ渡すことで一体化しつつ、同時に、大きなスパンを飛ばす役割を持たせた。
屋根を一体化したことにより、水平力を伝えるRC基壇の配置は屋根全体に対してバランスよく配置できればよいこととなり、内部の耐震要素を省略した。
街道から見た時には周辺住宅と同じくらいのスケールの屋根でありながら、庁内に入ると木部材が山に向かって駆け上るようなおおらかな1枚の大屋根となった。
(松田真也 / MOF)
■建築概要
題名:丹波山村新庁舎
所在地:山梨県北都留郡丹波山村2450
主用途:庁舎
設計監理:NHA | Naoki Hashimoto Architects
建築:NHA 担当/橋本尚樹、増崎陽介、成瀬皓太
構造:MOF 担当/松田真也、江田拓也、諸藤仁美
設備:明野設備研究所 担当/高栖巧
照明:飯塚千恵里照明設計事務所 担当/飯塚千恵里
施工:太陽工業
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急傾斜地対策工事
設計:中央復建コンサルタンツ
施工:太陽工業
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構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造、木造
階数:地上2階
敷地面積:3429.33㎡
建築面積:868.13㎡
延床面積:1078.85㎡
設計:2020年8月~2021年8月
工事:2021年9月~2023年1月
竣工:2023年1月
写真:吉田誠
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | 屋根架構:カラマツ集成材(齋藤工業) |
外装・壁 | 外壁 | コンクリート打放しこたたき仕上げのうえ、珪酸塩系無機質コーティング剤(光が丘興産) |
内装・床 | ロビー床 | 特注PC平板(東洋工業)+モルタル研ぎ出し仕上げ |
内装・床 | 2階床 | |
内装・床 | 村長室床 | |
内装・壁 | 壁 | コンクリート打放しこたたき仕上げのうえ、珪酸塩系無機質コーティング剤(光が丘興産) |
内装・壁 | 村長室壁 | |
内装・天井 | 大屋根天井 | |
内装・照明 | 大会議室照明 | |
内装・照明 | カウンター照明 |
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