村上譲+菊田康平 / Buttondesignが設計した、東京・荒川区の住戸改修「尾久のアパートメント」です。
陽当たりと風通しの良い建物角の区画での計画。建築家は、集合住宅でも“開放的な空間”との要望に、外部との繋がり等で“空間の広がり”を創出する設計を志向しました。そして、触覚に着目して床に屋外を感じさせる“砂利の洗い出し仕上げ”を用いました。
東京都荒川区の築40年のマンションリノベーションです。
建物内の角に位置し3面がぐるっとバルコニーに囲われ陽当たりと風通しの良い環境に3人家族が暮らします。
リノベーションの場合、採光や通風を一から自由にコントロールすることはできません。そこで、施主の理想とする設計が可能かどうかを検討するため、物件購入前からプロジェクトに関わり、判断材料となる簡単なプランニングサポートを行いました。
施主から求められたのは、マンションであっても開放的な空間であること。この要望に応える方法として、私たちが普段から大切にしていることが自然と当てはまると感じました。それは、「開放感」を単に室内の床面積でとらえず、外部とのつながりや景色を暮らしの中に取り入れることで空間の広がりが生まれる、という考えです。インテリアデザインの中にも建築的な思考を持って設計をする、私たちだからできる提案を試みました。
今回のプロジェクトでは、人の皮膚から感じる感覚に着目しています。視覚以外で私たちが屋内と屋外の違いを感じるのは、吸い込む空気や肌で感じる温度。足の裏で踏みしめる感触もあると思います。自然の中でふと靴を脱いでみたくなる経験が自分にもあったことから、靴を脱いで過ごす室内では使われることのない、砂利の洗い出し仕上げを床材に取り入れました。子供の頃に裸足で外を駆け回っていたような感覚を取り入れたかったのです。
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以下、建築家によるテキストです。
東京都荒川区の築40年のマンションリノベーションです。
建物内の角に位置し3面がぐるっとバルコニーに囲われ陽当たりと風通しの良い環境に3人家族が暮らします。
リノベーションの場合、採光や通風を一から自由にコントロールすることはできません。そこで、施主の理想とする設計が可能かどうかを検討するため、物件購入前からプロジェクトに関わり、判断材料となる簡単なプランニングサポートを行いました。
施主から求められたのは、マンションであっても開放的な空間であること。この要望に応える方法として、私たちが普段から大切にしていることが自然と当てはまると感じました。それは、「開放感」を単に室内の床面積でとらえず、外部とのつながりや景色を暮らしの中に取り入れることで空間の広がりが生まれる、という考えです。インテリアデザインの中にも建築的な思考を持って設計をする、私たちだからできる提案を試みました。
今回のプロジェクトでは、人の皮膚から感じる感覚に着目しています。視覚以外で私たちが屋内と屋外の違いを感じるのは、吸い込む空気や肌で感じる温度。足の裏で踏みしめる感触もあると思います。自然の中でふと靴を脱いでみたくなる経験が自分にもあったことから、靴を脱いで過ごす室内では使われることのない、砂利の洗い出し仕上げを床材に取り入れました。子供の頃に裸足で外を駆け回っていたような感覚を取り入れたかったのです。
実現に当たっては普段の生活に支障がないように、砂利の角が立たず、また凹凸も不安を感じない程度に抑えた微妙な加減を左官職人と一緒につくりあげました。それによって、平たい一枚岩のうえを裸足で歩くような心地よさが生まれています。床に座って過ごす場所にはウールのカーペットを敷くことで足裏の感触に違いが生まれ、ワンルームの中でも領域を分けることができています。
入念な断熱を施しているので床の温度はほとんど室内と同じですが、心地の良いひんやり感と繊細な凹凸からは自然の中で過ごすような感覚を呼び起こし、空間の広さとは異なる開放感を感じることに繋がっていきます。靴を脱いで暮らす日本では決して常套な手法ではありませんが、床の仕上がりひとつで生活の質を変えることができました。
快適性だけを求めた住まいが豊かだとは限りません。今回の計画は、人の持つ感覚に寄り添いながら、暮らし方について回帰する試みとなりました。
■建築概要
所在:東京都荒川区
主要用途:住宅
設計:Buttondesign
施工:KICHI&Associates
延床面積:78.00㎡
竣工:2023年11月
写真:小松正樹