
SHARE 【ap編集長の建築探索】vol.026 坂牛卓+中川宏文 / D.A.「纏うオフィス」

「ap編集長の建築探索」は、23年の歴史ある建築ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の編集長である後藤連平が、訪問した建築を紹介する連載シリーズです。論考のようなかっちりとした形式ではなく、現地で感じた雰囲気や空気感が伝わるような“ライブ感”のある文体で綴ります。読者の皆様も自身が建築を体験するように読んでいただければ幸いです。
坂牛卓+中川宏文 / D.A.「纏うオフィス」
坂牛卓さんと中川宏文さんが主宰するD.A.が設計した、東京都下のオフィスの内覧会に伺った。
坂牛さんは、建築家のみならず教育者であり、近年は著述家としても活躍されていて、建築関係者向けの専門書から、一般向けの新書まで執筆されている。個人的にも様々な本を拝読しているが、最近では篠原一男について書かれた『建築家・篠原一男のモダニズム』に特にお世話になった。
この連載でも感想を書いた篠原設計の「上原曲り道の住宅」を見学する際に、この本で予習と復習を行い建築についての見識を深めることができた、、、!この場を借りてお礼も書いておきたい。ありがとうございました。
そして、中川さんは、東京理科大坂牛卓研究室の出身で、坂牛さんのもとでスタッフとして設計を続けてきて2021年からパートナーとして、坂牛さんと設計活動を行っている。また、設計をしながら文化服装学院でも学ばれていて、自身のブランドを早々に立ち上げ、なんとKAIT広場でコレクション発表を実現してしまうという異色の経歴をもつ人物、、、!
そんな二人が手掛けた最新の建築ということで期待して伺った、、、!
先程、中川さんのファッションへの傾倒について言及したのだけれど、坂牛さんもファッションについて造詣が深い。そのような背景もあり、このオフィスは、ファッション的な観点からも考えられて設計されているそうだ。
坂牛さんによれば、建築を、衣服・骨・肉という感じで、その要素を分離して考えるのだという。そう聞いて、改めてこの建築の外観を見てみると、何か薄いドレスを纏っているようにも見えてくる。
手前味噌ながらぼく自身もファッションが好きで、その分野における動向を建築分野と比較して色々と考えることがあるので、この視点には多いに刺激を受けたし、今後も考えてみたいと思った、、、!
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さて、そろそろこの建築の実体験に戻ってきたいと思う。
まず、受付に貼られたQRコードを読み込んで、スマホで図面を見る。(最近はこの仕組みを採用している建築事務所も多い)
機能としては、1階に倉庫。2階にデスクワークのスペースとそれに付随する水廻りの部屋。3階は、小割りで部屋がいくつかあり会議室や応接室となっている。
また、各階の平面図の共通する特徴として、非常に整理されていて機能的にまとめられていることも印象的だった。シンプルで無駄がなく計画されていて、ここで働く人たちが快適に働く姿が想像できる気がした。
そんな、平面図の印象とは裏腹に、この建築の中を歩き回っていると、特異な空間体験が創出されている感覚があり驚いた、、、、!
なぜ、このような印象の乖離が生まれているのだろうと考えながら歩き回っていて気づきがあった。
シンプルで機能的な平面の中に、また平面に現れない断面の中に、視覚や体験を操作するようなアイデアが仕込まれているのだ。そして、それは必ずしも大きな操作ではなくむしろ小さな操作なのだけれど、空間体験にはとてつもなく大きな変化を生み出していることに気づく、、、!
たとえば、2階に上がったところの廊下の形。面積は小さいのだけれど三角形のような形となっていて、それにより正方形の事務所空間の角から45度の角度を振って入室することになる。この入り方によって、正方形の部屋がなんというか菱形の特別な部屋のように感じられるようになっている。
また、3階の応接室に設けられた地窓。この地窓がファサードにおいて大きな役割を果たしている。立面の中間部に窓があることで、外から見ると何階建てなのかが分かりにくくなっていて、不思議な雰囲気が外観に付与されている。
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そして、3階の個室群は、天井付近では繋がっていて、またシルバーに塗装された仕上げによって、光が回り込んでいて言葉にするのが難しい深みを感じされる空間が展開されている。
改めて書くけれど、これらのような操作が、平面図から受ける静的で整った印象と、実体験の動的で深みのある経験とが、大きなギャップとして感じられて非常に面白かった、、、!!
それは、施主のために高度に機能的に作りながらも、同時に建築的な豊かさを生み出す、高度な空間レトリックと言えるのかもしれないと感じた。
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また、こういう空間のつくり方って過去にあるのだろうかと考えていたのだけど、思い出したのは、ヨーロッパの古典建築に用いられている知覚操作のこと。
ギリシャ神殿の柱は、その柱が真っ直ぐに見えるように、あらかじめ中央部が少し膨らむように作られている。また、古典的な建築では、奥に行くに従って柱の位置を狭めていくことで、実際の距離以上に通路の長さを感じされるような視覚操作も行われている。
このような視覚、知覚の操作は古来より建築の世界で用いられてきた。
このD.A.によるオフィスで行われていた地窓の操作や、正方形の部屋に斜めから侵入させることで菱形の空間に感じさせる操作は、この古典建築の視覚操作の系譜に繋げることも出来るのではないか。そう読解した、、、、!
最後に書いておこうと思ったのだけれど、これまでに書いてきたことは、坂牛さんと中川さんから聞いたことではないし(衣服の話や地窓のところは伺ったのだけれど)、完全にぼく自身がこの建築での体験と、これまでの経験からくる仮説でしかないとも言える。
でも、建築という唯一の答えのない創作分野に向き合って、自身でもなにか作っていく(ぼくの場合はメディア)ということは、こうやって自身の経験の中から数多の仮説を見つけ出して、何らかの形で実践して、自分の信じる答えらしきものを見つけていくことでしか先に進めないのではないだろうか。
そして、こんなにも仮説を引き出してくれる建築が、素晴らしいものであるのも間違いないとも思っている。
このエッセイを読んでくださっている皆さんにも、ぜひ実際に様々な建築を訪問して、自分なりの仮説を生み出してほしいと改めた思った。
坂牛さん、中川さん、お施主さん、ご竣工おめでとうございます!
(訪問日:2026年6月21日)
後藤連平(ごとう れんぺい)
アーキテクチャーフォト編集長
1979年、静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織設計事務所と小規模設計事務所で実務を経験した後に、アーキテクチャーフォト株式会社を設立。23年にわたり建築情報の発信を続けており、現在は、建築と社会の関係を視覚化するウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の運営をメインに活動。著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)など。

