SHARE 五十嵐淳建築設計事務所による、福島県いわき市の住宅「4つの矩形」
五十嵐淳建築設計事務所が設計した、福島県いわき市の住宅「4つの矩形」です。
僕は風除室をキッカケに、中間領域(縁側やサンルームなど)についての思考と実践を続けてきた。寒冷地で生まれ育ち、そこに身を置きながら設計を続けているため、中間領域に重きを置いて考えることになった。設計を始めた当初は「守るための中間領域」という意識をもっていた。内部空間から外部空間に向かう人間の意識の「あいだ」にある空間である。
今、「守るためだけではない中間領域」の可能性を考えている。それは、内部と外部の双方向からの「あいだ」のあり方を考えることで、冬の厳しさだけではなく、すべての状態を享受できる中間領域を目指すことだ。今回は、敷地の中央に建物を配置した。これは地方の街の広い宅地区画に、コストも含めた限られた与条件の中、フットプリントの小さな建築を配置する時のひとつの選択肢である。方位と近隣の状態により多少のヒエラルキーは発生するものの、建物の4方に等しく「空き地」が生まれる。内部から空き地(外部)に向かって設計を進めると、空き地に身を置く人間の感覚が重要に思えた。内部からの拠り所としての大きな軒下空間だけでなく、外部からの人間の拠り所にもなるような、双方向からの「あいだ」をつくることを試みた。
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以下、建築家によるテキストです。
建築と状態とのキッカケをつくること
僕は風除室をキッカケに、中間領域(縁側やサンルームなど)についての思考と実践を続けてきた。寒冷地で生まれ育ち、そこに身を置きながら設計を続けているため、中間領域に重きを置いて考えることになった。設計を始めた当初は「守るための中間領域」という意識をもっていた。内部空間から外部空間に向かう人間の意識の「あいだ」にある空間である。これは、北欧の自然の厳しさを背景につくられたアルヴァ・アアルトの建築のプロセスに似ている。人は内部空間に身を置き、そこから外部を感じとって接するのである。風除室は、冬季に冷たい外気の室内流入を防ぐ「守る中間領域」の建築として寒冷地でつくられた。従来の風除室は、とても狭くチープで、建物に取りつくように配置されている。室内環境を改善する重要な役割を果たしているのに、その姿や空間はとても寂しい。そんな風除室を、もっと楽しい存在として扱いたいと考えた。私の自邸では、玄関先に申し訳程度に設置される風除室を、子供部屋ほどの大きさにした。すると、そこに居場所が生まれ、外部とほどよい距離感がつくられた。「守るための中間領域」を設計した空間であるが、夏には室内がそこに溢れだした。それは内部から外部へ向かう意識の「あいだ」の空間であり、外部から内部へ向かう「あいだ」ではなかった。今、「守るためだけではない中間領域」の可能性を考えている。それは、内部と外部の双方向からの「あいだ」のあり方を考えることで、冬の厳しさだけではなく、すべての状態を享受できる中間領域を目指すことだ。今回は、敷地の中央に建物を配置した。これは地方の街の広い宅地区画に、コストも含めた限られた与条件の中、フットプリントの小さな建築を配置する時のひとつの選択肢である。方位と近隣の状態により多少のヒエラルキーは発生するものの、建物の4方に等しく「空き地」が生まれる。内部から空き地(外部)に向かって設計を進めると、空き地に身を置く人間の感覚が重要に思えた。内部からの拠り所としての大きな軒下空間だけでなく、外部からの人間の拠り所にもなるような、双方向からの「あいだ」をつくることを試みた。「4つの矩形」には「4つの領域」が存在する。1つ目の中心にある矩形は最も安定した状態の空間である。2つ目はそれを囲む半地下の矩形で、風除室からの思考と継続性のある空間である。3つ目の大きな軒下空間の矩形、4つ目の空き地の矩形は、なにか機能を限定しない、どこか投げ出したような状態となるような中間領域を意識した。建築は外部(地球)の気まぐれな状態から、ある種の安定した状態を得るために生まれた存在である。風除室はある限られた状態に対する応答である。それを変化させたり肥大化させたりしながら様々な設計をしてきた。双方向からの「あいだ」はもっと自由で機能を限定しないことが重要である。大きく腕を広げたおおらかな軒下空間は、人間の多様な活動のキッカケとなり、おおらかな中間領域となる可能性に満ちている。中間領域は、環境への応答だけではなく、人間の歓びへの応答である。 (五十嵐淳)
■建築概要
延床面積:119.85㎡
設計期間:2012年4月~2017年1月
施工期間:2017年3月~2017年8月
設計:(株)五十嵐淳建築設計事務所
構造設計:長谷川大輔構造計画
施工:八木澤工務所
写真:繁田諭