SHARE 鈴木岳彦建築設計事務所による、東京・練馬区の「TUNNEL」
鈴木岳彦建築設計事務所が設計した、東京・練馬区の「TUNNEL」です。
鈴木はOMA出身の建築家です。
延床面積3坪の、極小の離れの計画である。
若いITエンジニアである施主は、平日は都心の職場近くに暮らし週末には練馬区石神井公園の実家に帰ってきてのんびりとした時間を過ごす、というライフスタイルを実践している。
そのライフスタイルをより豊かにするために、施主は仕事や趣味の作業に没頭できる小さな離れの建設を望んでいた。作業にはラップトップ一台あれば事足りる。水回りは母屋のものを使えば良い。収納も最小限で構わない。ヒアリングを経て、ほとんどがらんどうと言っていいような空間を作る計画がスタートした。
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以下、建築家によるテキストです。
延床面積3坪の、極小の離れの計画である。
若いITエンジニアである施主は、平日は都心の職場近くに暮らし週末には練馬区石神井公園の実家に帰ってきてのんびりとした時間を過ごす、というライフスタイルを実践している。
そのライフスタイルをより豊かにするために、施主は仕事や趣味の作業に没頭できる小さな離れの建設を望んでいた。作業にはラップトップ一台あれば事足りる。水回りは母屋のものを使えば良い。収納も最小限で構わない。ヒアリングを経て、ほとんどがらんどうと言っていいような空間を作る計画がスタートした。
敷地を確認すべく石神井公園を訪れて驚いたのは、公園に残る野性的な自然と、この地域が内包する歴史の豊かさだった。二つの池を中心とした公園は起伏に富み、その地面は自生した草木や植樹による並木、林立する巨木など多様な植物に覆われていた。土地の起伏は、歴史的にこの場所を人間の生活空間における要所たらしめてきた。池を見下ろす台地からは縄文時代の竪穴式住居跡が出土し、室町時代には豊島氏の居城である石神井城が築かれている。
もう一つの驚きは、計画敷地が大きな空地によってこの豊かなコンテクストから切り離されていることだった。メッシュフェンスによって囲われたこれらの空地は、石神井公園拡張用の将来用地として東京都が所有する土地だ。施主が子供のころから変わらぬ景色であり、今後も長きに渡り空地のままであることが予想された。
デジタルなつながりに没入しつつも、周辺環境とのつながりを回復する。その契機となるような空間を考えることが、この場所で建築をつくることの意義となるのではないか。
敷地やその周辺を歩きながら考えたのはそのようなことだった。この小さな建築とそこで時を過ごす人を、隣地の空地を飛び越えてその先に満ちた自然と歴史に再接続させることが、計画のテーマとなった。
建物内を上下左右に蛇行し西から北へと抜ける、トンネルのような空間を作った。
ある場所とある場所を結びつけるという、トンネルの喚起するイメージがきっかけだが、ここで「トンネルのような」と言っているのは正確には次のふたつの性質を指している。
・その両端部で外界に対して開いていること
・内部が平面と曲面によってチューブ状に構成されていること
このふたつの性質を扱うことによって、単なるイメージを超えた接続性を実現しようと試みた。
一方の端部は建物の西側に向けた、H=1200の背の低い掃き出し窓とする。建物東側には床と壁を滑らかに連続させ、身をもたれて床座するのにちょうどよい半径300の小さな曲面を設える。ここに座ると空地の先に広がる縄文遺跡の森がチューブと窓によってフレーミングされ、視界に広がる。
もう一方の端部は建物の北側に向けた、床上4mの位置のFIX窓とする。窓から連続した曲面天井は、半径1500の大きな円弧を描いて床まで降りてくる。この大きな曲面が窓から入る天空光を柔らかく反射し、室内をぼんやりと光で満たす。
ふたつの端部は共に空地を挟んで石神井の森に向いている。風通しの良い環境の中で、西側の掃き出し窓から流れ込んだ空気はチューブ内を上昇し、北側FIX窓脇で排気される。
森を縁取る視覚的フレーミングとなり、身をもたれる身体的振る舞いのきっかけとなり、天空光を拡散し、空気の通り道となる。ふたつの端部とチューブ表面の扱いによって生まれた空間は、小さく包み込まれているような親密性と遠くの外部環境へつながっていくような接続性を併せ持つものとなった。
チューブ表面は全て木質仕上げとし、大きな木塊をくりぬいたような表情とした。外装は杉荒材の胴縁材を目透かし貼りの上黒く塗装することで、石神井公園の樹木の肌に近づけている。
■建築概要
名称:TUNNEL
所在地:東京都練馬区
構造:木造在来工法
規模:地上1階
竣工:2019年5月
建築面積:9.9㎡
延床面積:9.9㎡
設計・監理:鈴木岳彦建築設計事務所
施工:(株)ディアーコーポレーション
写真:西川公朗写真事務所