SHARE 藤田雄介 / Camp Design inc.が改修を手掛けた、東京・世田谷区の「羽根木の住宅」と論考「生産の生態系から生成される建築」
藤田雄介 / Camp Design inc.が改修を手掛けた、東京・世田谷区の「羽根木の住宅」です。
建築を設計することとは、市場にある部材を選び組み合わせることに他ならない。だが、現代では部材の数は無数にあるように見えるが、実際に選び取れるものの選択肢は決して多くない。その状況の中で、設計側が生産の渦に自ら携わったエレメントを投げ込んでいくことで、建築の質感を変えることが可能ではないだろうか。
そのような意図から我々は「戸戸」を通して、建具という境界に関わるエレメントを対象に、独自の現象性や感触をもたらす部材を流通している。その中で布襖のように、思いもよらずユーザーや設計者のアイデア・製作する職人の技術などが、部材の新たな使い方や展開を見出してくれることがある。アップグレードするだけでなく次なる部材が生みだされ、その連鎖は生態系のように根を広げていく。このような生態系を建築家それぞれが育むことができれば、大量生産品によるものとは異なる質感を持った建築を生成していくことができるのではないだろうか。
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以下、建築家によるテキストです。
生産の生態系から生成される建築
この住宅は2×4住宅の改修であり、リビタのHOWS Renovationシリーズのものである。2×4は在来構法と比べると、改修する上での自由度が少ない。既存は1階が田の字型に分けるように耐力壁が入り、2階は中央の壁と梁で広々とした空間をつくっていた。共に間取りの大きな更新は難しいことから、主な設計対象を羽根木の街との連続性とそのあわいの境界である外皮に求めていった。
羽根木は環状7号線から1本入った場所だが、閑静な住宅街であり緑も少なくない。あるエリアは昔からの森を出来るだけ残し、職住近接の有名建築家による集合住宅が集まっている。そのため、1階には内土間のある部屋を設け、外土間のあるテラスから直接アプローチできるようにし、小商いや仕事場での使用がしやすいスペースになっている。また外壁色は周辺の外壁を色見本でサンプリングし、多く採取された色を一段階濃くしたものにして、街並みに参加する佇まいにしている。
外皮においては、基本的な性能である構造、断熱、採光通風に加え、現象的な効果を壁に付与させることを試みた。そこで壁と同じ天井高いっぱいの布を張った建具を用い、電線が間近にあるなどノイズの多い周辺の風景に帳をかけて、布を通して窓からの光が行灯のように灯る、閉じつつも柔らかい光に満たされた静謐さを獲得した。この建具を布襖と呼んでいるが、元は布框戸という布を張り替えられる建具を改良したものである。それに興味を持った友人の建築家から、同じくリビタとの仕事である〈鷺宮の家〉(設計:能作淳平)で、開口部の断熱障子として框戸に見えない布張り建具の依頼があった。このときは、既存アルミサッシを利用することから断熱性を向上させる意味合いが強かった。今回は、2×4住宅であることを意識して、開口部にフィットさせるのではなく壁の一部としての建具とした。
布を張ることにこだわったのは、素材感を建材に寄せず柔らかい質感を求めたためである。この他、先述の布框戸・布屏風・木のドアノブやレバーハンドルやつまみなど、建具は全て我々が生産しているものを用いている。これにより、住宅全体としての質感に変化をもたらしている。
建築を設計することとは、市場にある部材を選び組み合わせることに他ならない。だが、現代では部材の数は無数にあるように見えるが、実際に選び取れるものの選択肢は決して多くない。その状況の中で、設計側が生産の渦に自ら携わったエレメントを投げ込んでいくことで、建築の質感を変えることが可能ではないだろうか。
そのような意図から我々は「戸戸」を通して、建具という境界に関わるエレメントを対象に、独自の現象性や感触をもたらす部材を流通している。その中で布襖のように、思いもよらずユーザーや設計者のアイデア・製作する職人の技術などが、部材の新たな使い方や展開を見出してくれることがある。アップグレードするだけでなく次なる部材が生みだされ、その連鎖は生態系のように根を広げていく。このような生態系を建築家それぞれが育むことができれば、大量生産品によるものとは異なる質感を持った建築を生成していくことができるのではないだろうか。
■建築概要
企画:リビタ
設計:藤田雄介 / Camp Design inc.
構造:横尾真 / OUVI
建具:坪原木工
施工:青木工務店
写真:長谷川健太
建築面積:77.69㎡
延床面積:152.01㎡
建築築年:1997年
竣工年月:2019年11月