「建築と今」は、2007年のサイト開設時より、常に建築の「今」に注目し続けてきたメディアarchitecturephoto®が考案したプロジェクトです。様々な分野の建築関係者の皆さんに、3つの「今」考えていることを伺いご紹介していきます。それは同時代を生きる我々にとって貴重な学びになるのは勿論、アーカイブされていく内容は歴史となりその時代性や社会性をも映す貴重な資料にもなるはずです。
“建築と今” / no.0004「中村竜治」
中村竜治 (なかむら りゅうじ)
1972年長野県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了後、青木淳建築計画事務所勤務を経て、2004年中村竜治建築設計事務所を設立。主な仕事に、へちま(サンフランシスコ近代美術館、ヒューストン美術館収蔵)、とうもろこし畑(東京国立近代美術館「建築はどこにあるの?7つのインスタレーション」)、JINS京都寺町通、神戸市役所1号館1階市民ロビー、Mビル(GRASSA)、FormGALLERYなど。著書に『コントロールされた線とされない線 』LIXIL出版。主な受賞に京都建築賞優秀賞など。
URL:https://www.ryujinakamura.com/
今、手掛けている「仕事」を通して考えていることを教えてください。
前橋の商店街再生のプロジェクトに関わりました。
商店街の角地に建つ小さなレストランの設計です。隣の店舗も同じプロジェクトの一貫として、ほぼ同時期に建替が計画され、どんな建物になるか分からないという、少しやりづらい状況で設計が始まりました。
隣を設計する建築家は、建物の裏に庭をつくり、表だけで繋がっている商店街を、その背後の隙間を利用し、「商店街の裏を繋いでいく」という魅力的な案を考えていました。それに対し、完全に寄り添うというよりは、道路から裏庭へ通じる小道を提供しつつも、「裏」という感じを壊さないように、裏庭へは素っ気ない素ぶりをし、付かず離れずの関係としました。裏庭の背景となる以上、表側も含めてごく一般的な建物としてふるまうことを心がけました。
都市やまちづくりの本などで、建物は街の一部としてあることは頭では理解しているつもりでしたが、想像していたのとは異なる感情が沸き起こりました。敷地模型で周囲の建物を淡々と作るときにも似た、ある意味冷めた状況ですが、何故かとても自由で楽しい気分になったのを覚えています。
焦点がずれたことで、感情含め様々なものの重心がずれ、そのぶん自分が設計する建物を軽く自由に扱えるようになったとうことでしょうか。今回の状況は少し特殊ですが、普遍的なことにも思えました。そんな焦点のずれた設計の仕方ついて考えています。
ちなみに、新建築2018年9月号月評 で中山英之さんが「非人間的な質」と題してとても興味深い批評を書かれています。合わせて読まれると面白いかもしれません。