中村俊哉+藤井愛 / ship architectureが設計した、茨城・つくばみらい市の住宅「野の家」です。
敷地は10年ほど前に新しく鉄道が開通し、それまで荒野だったところを新しく区画整理し住宅地として整備したまちの一角です。
初めて設計の相談を受けたときはまだ住宅もまばらで多くは野原のままでしたが、設計を進めるあいだにも、辺りにはどんどん住宅が建ちあがり、野原であった誰のものでもないような場所がつぎつぎとフェンスで囲った「敷地」となって私物化していく様を目の当たりにしました。
一般的な郊外新興住宅地の風景が広がってゆく中で、「野」がもつ非所有性や開放性の価値もまた際立つように感じられました。
野と住宅地という矛盾するコンテクストが重なる中で、二者択一ではなく、どちらも引き受けるような住宅を目指しました。
この場所で住宅を設計するにあたり、まず2つの指針をたてました。
「木造2階建てのまち並みに参加すること」
「野のもつ開放性・非所有性を感じられること」
矛盾する風景を肯定的に捉え、その中で新たな関係性を見出すことを目指しました。
敷地は地区計画により最低敷地面積が設定されているエリア内にあり、80坪もあるため、建物以外の余白をどう設計するかも同時に考える必要がありました。また道路をはさんだ敷地の東西両隣には野原の公園があり、敷地もシロツメクサやツクシなどの季節の草花が生い茂って野原とひとつづきになっている特徴がありました。
そこで両隣の野との連続感を損なわないように、間口を絞った東西方向に長いボリューム(3,640×13,650mm)を隣家間の中央に配置しました。間口を抑えることで東西の野への視覚的な抜けを良くすることと、内部空間のほとんどが窓辺になり、より野を感じやすい寸法となることを意図しています。