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以下、建築家によるテキストです。

福岡県内の市街地に建つ4人家族のための住宅である。

計画地は、ある構想によって新たにつくられ、土地区画整理事業によって整備された街の一角にあり、周辺には大小様々な公園や、車で10分ほどの場所には海があるなど自然豊かで、環境にも恵まれている。

北側に道路、東西南側は隣地に囲まれ、南側の隣地側の境界には高さ3.6mほどの擁壁が建っているが、計画地を含むこの一画だけ計画地と同時に売り出されていた空き地のまま残されており、何が建つか予測のつかない状態で設計が始まった。

しばらくして、東側の隣地に居室のない平屋のガレージが建つことが判明したため、プランをL形とし、南側の擁壁、隣家のガレージという組合せで中庭を形成することにした。
そうやってほぼ同時進行で進む周りの状況を意識しながら、前庭やオープンガレージの計画、下屋や軒の奥行きや高さの調整、屋根の勾配、道路からのセットバック、垣柵等を設けない外構などにより、外部や内部、周辺環境との関係性を入念に検討した。

前庭と中庭に挟まれた“広間”と名付けた空間は二つの庭をつなぐ半内部という位置付けで、玄関であり客間でもあるパブリックな場所となっている。“広間”から“食堂”、“座敷”は間仕切られることなく連続しつつ、素材や色の選択によって居心地を変化させている。

2階へ上がるとプライベートな空間へと移り変わっていく。2階の“居間”と1階の“広間”は吹抜けで繋がりながらも、その境は木製框窓で仕切られている。また、この吹抜けは空調によって暖められた床下からの空気を上階へ届ける役割も果たしており、その居心地も相まって直線的な濃度の変化では測れない奥行き感を生んでいる。

建主は、当初シンプルに大きなリビングを要望として挙げていた。その後、友人の招待、畳敷きの小上がりでの昼寝、キッチンを挟んでの家族との会話、テラスでのBBQ、少し落ち着いた場所で仕事をし、その隣で子供が勉強をすること、ガーデニング、家庭菜園など、日常的にやりたい些細なことを少しずつ伝えてもらった。

その多くが、誰かと一緒に楽しみたいようなことばかりであった。そこから、大きなリビングのような空間の中に、人が集まり好きなように過ごせるいくつものリビングのような場所を内包する、というイメージが浮かんだ。全体の事として見えていたことが、個々でも同じように感じられてくる、という自己相似的な話が、新しい生活スタイルを生み出すヒントになるのではないかと考えた。

また、この家には寝室と呼ばれる部屋がないのだが、方向性を考えると必然のような気もする一方、子供がまだ小さく、生活の様相もめまぐるしく変わっていく中で、最初から寝室を設えることに対して実感が湧かなかった。

各スペースに名称を付けてはいるが、用途を決めきらず、部屋同士のバランスによって使い方も意識も変化する。それでも、2階の“居間”か“書斎”がしばらくは寝床になるだろうと想定していたが、当面は1階の“座敷”で家族4人一緒に寝ているらしく、2階の居間には部屋いっぱいに子供のおもちゃが広がっている、らしい。

■建築概要

名称：Yana
所在地：福岡県
用途：専用住宅
意匠設計：初谷遼建築設計事務所
構造設計：円酒構造設計／円酒昂、西江太成
施工：（株）東建設
大工：佐藤満夫、堀田勝実
基礎：為近工業
型枠：（株）池口建設
鉄筋：道原鉄筋工業
コンクリート：（株）松樹、（有）竹下工務店
木材加工：（株）市岡
左官：神田工務店
板金：（有）松村板金工業
クレーン：（有）古川クレーン、北九重機
建具：アドバンストーヨー（株）
家具：（有）協和木工
金属：（有）増田金物
内装：（有）ゴトウ装美
畳：馬場畳店
塗装：（株）フカガワ
ガス：西部瓦斯（株）
設備：（有）ヤマノ設備
電気：OG電工
空調：九州機電（株）
構造規模：木造、地上2階
敷地面積：236.70㎡
建築面積：82.67㎡
延べ面積：117.44㎡
設計期間：2022年4月～2023年4月
施工期間：2023年5月～2024年2月
写真：ISSEI、初谷遼建築設計事務所

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