SHARE 古谷誠章+NASCAによる、北海道・沼田町の、高齢者福祉施設「沼田町 暮らしの安心センター」
古谷誠章+NASCAが設計した、北海道・沼田町の、高齢者福祉施設「沼田町 暮らしの安心センター」です。
北海道沼田町で2015年10月に行われた指名型プロポーザルにより設計者に選定された、安心で暮らしやすいまちづくりを目指して建てられた、町民のための診療施設、およびデイサービスを中心とした高齢者福祉施設である。
沼田町の人口は現在約3200人と急カーブを描いて減少しており、極端な少子高齢化とともに、自分が運転しての車移動が次第に困難となるという、現代の地方都市が共通して抱える大きな社会問題に直面している。さらに、数十年前に建設された町立病院は建築自体が老朽化し、運営面でもすでに入院患者のための病棟部門が廃止されるなど、町の医療福祉施設の全体が見直しの時期を迎えていた。
このような中、沼田町の掲げた方針はコンパクトタウン化構想であり、石狩沼田駅を中心に町域と公共施設配置のコンパクト化を図り、半径600メートルの圏内に主要な施設を集約化して、管理運営の効率化を目指すものであった。
今回の計画は、コンパクトタウン構想の第一弾として、維持管理費がかさんでいた町内唯一の病院と高齢者向けのデイサービスセンターをコンパクトにまとめて再編し、加えて、地域住民の健康相談に応えるための「暮らしの保健所」やコミュニティ・カフェなどからなる「地域あんしんセンター」を一箇所に集めて新築するものである。「歩いて暮らせる距離に集約された集住型まちづくり」の緒として、徒歩で心地よく回遊できるルートの起点となり、歩いて行きたいと思える場所、人々との語らいを楽しめる場所となるような建築が期待された。
早稲田大学古谷誠章研究室では20年近く医療・療養空間の研究を行っており、医療・療養施設とは、通院・入院する人やそこに従事する人にとっては、そこに暮らす“住まい”のように考えることを提唱してきた。特に住民同志のコミュニケーションの乏しい地方都市にあっては、新しい医療福祉施設が住民にとっての「大きな家」になるために、怪我や病気の人や介護を要する高齢者だけが集う施設でなく、多様な世代のあらゆる人々が自然に日常を過ごす場所を作り出すことが肝要である。私たちが出した答えのひとつが、診療所の待合室についても、ただ診察を待つ空間と考えるのでなく、そこで人々が出会い、交流し、教え合い、支え合うような「情報交換の広場」のようにしようという計画である。
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以下、建築家によるテキストです。
はじめに
北海道沼田町で2015年10月に行われた指名型プロポーザルにより設計者に選定された、安心で暮らしやすいまちづくりを目指して建てられた、町民のための診療施設、およびデイサービスを中心とした高齢者福祉施設である。
沼田町の人口は現在約3200人と急カーブを描いて減少しており、極端な少子高齢化とともに、自分が運転しての車移動が次第に困難となるという、現代の地方都市が共通して抱える大きな社会問題に直面している。さらに、数十年前に建設された町立病院は建築自体が老朽化し、運営面でもすでに入院患者のための病棟部門が廃止されるなど、町の医療福祉施設の全体が見直しの時期を迎えていた。
このような中、沼田町の掲げた方針はコンパクトタウン化構想であり、石狩沼田駅を中心に町域と公共施設配置のコンパクト化を図り、半径600メートルの圏内に主要な施設を集約化して、管理運営の効率化を目指すものであった。小・中学校や保育所、高齢者の施設などもすべていわゆる徒歩圏内の範囲に再配置することで、車に頼らなくても町内を歩いて廻ることが可能となり、あわせて町民の健康増進にも役立てようとする試みである。敷地には再配置に伴って移転した旧沼田中学校の跡地があてられた。敷地内には今後も高齢者住宅や子育て支援住宅などの計画があり、プロポーザルではそれらを含む敷地利用計画のイメージも求められた。
コンパクトタウン構想
今回の計画は、コンパクトタウン構想の第一弾として、維持管理費がかさんでいた町内唯一の病院と高齢者向けのデイサービスセンターをコンパクトにまとめて再編し、加えて、地域住民の健康相談に応えるための「暮らしの保健所」やコミュニティ・カフェなどからなる「地域あんしんセンター」を一箇所に集めて新築するものである。「歩いて暮らせる距離に集約された集住型まちづくり」の緒として、徒歩で心地よく回遊できるルートの起点となり、歩いて行きたいと思える場所、人々との語らいを楽しめる場所となるような建築が期待された。
敷地内に計画される将来のグループホームやサービス付き高齢者住宅、子育て支援住宅などの滞在型の福祉施設とともに一連の施設がリング状に配置されるように構想し、それらを結ぶループ状の回遊路である「なかみち」が、そのまま各施設の中を貫通するように提案した。また雪の深い冬場にも使える屋内グラウンドや、道の駅のような施設も近傍に予定されることから、これらも同じように「なかみち」を介してつながっていく構想である。
施設全体を老若男女が集う大きなひとつの家のように
早稲田大学古谷誠章研究室では20年近く医療・療養空間の研究を行っており、医療・療養施設とは、通院・入院する人やそこに従事する人にとっては、そこに暮らす“住まい”のように考えることを提唱してきた。特に住民同志のコミュニケーションの乏しい地方都市にあっては、新しい医療福祉施設が住民にとっての「大きな家」になるために、怪我や病気の人や介護を要する高齢者だけが集う施設でなく、多様な世代のあらゆる人々が自然に日常を過ごす場所を作り出すことが肝要である。
私たちが出した答えのひとつが、診療所の待合室についても、ただ診察を待つ空間と考えるのでなく、そこで人々が出会い、交流し、教え合い、支え合うような「情報交換の広場」のようにしようという計画である。特に沼田町のように冬場に雪に閉ざされる北国では、屋内化された「まちの縁側」のような、診療所の待合、デイサービスセンター、地域あんしんセンターを結ぶ「なかみち」は、そんな意図を持って提案したものである。
診療所の入口に相当する部分は、そのまま「なかみち」の入口ゾーンを形成し、さらに多目的に利用できる集会エリアを経てデイサービスセンター前のロビーに至り、さらにラウンジ周辺には暮らしの保健室やコミュニティ・カフェが顔を出している。そして再びそのまま戸外にでた先は、将来計画される施設群に繋がる予定である。
もちろん高齢者の滞在する環境と、風邪などを引いた子どもたちがやってくる診療所が近接していることにはリスクがある。ノロウイルスやインフルエンザといった感染症対応の診察室を入口近くに設けて、患者同志の無用な接触を減らすなど、建築的に最大限の対策を施したうえで、多世代が日常的に交流できる場所を創り出そうとしている。人口が減少しコンパクト化を図る沼田町で、今まで以上に世代を超えた交流が促されるために、多世代が行き交い、並んで腰を下ろす「まちの縁側」はとても重要だと考える。
構造は北海道産トドマツ材を活用した木造とRC造の混構造を採用。屋根はヒートブリッジによるつらら・すが漏れ対策に配慮し、2層構造のコールドルーフを採用している。2つの構面は木束を介して、金物・釘等で緊結され2層一体として構 造的に働く。ハイサイドライトは2メートルの積雪時にも採光・換気窓として機能するとともに、無柱空間を実現するための逆梁としても寄与している。
地域住民同士がつくる「これからの公共性」
子育て支援・教育については一般的に施策が対象となる年齢層ごとに立てて、住民にサービスを提供する形となっている。それらはかつての地域コミュニティに存在した住民の共助ではなく、支援する側とされる側が線引きされたやや硬直したものとなりがちである。
少子高齢化により様々な行政サービスがコンパクト化されつつある中で、一方で住民のニーズは多様化しており、これからの公共建築は従来の枠組みを越えて、様々な目的を持つ人々を受け入れ、住民同士の自発的なコミュニケーションを促す仕組みが必要である。
このセンターに集まる人々が、サービスを受ける受け手でも別の何かの提供者にもなり、例えば健康や子育てや高齢者介護について、互いにアドバイスが出来たりと、日常的に思いを共有することが出来たりすることを願っている。
(NASCA / 古谷 誠章、桔川卓也)
■建築概要
建築名称:沼田町 暮らしの安心センター
所在:北海道沼田町雨竜郡南1条1丁目8番25号
建築主:沼田町
用途:診療所、デイサービス、市町村保険センター
設計監理:NASCA 担当/古谷誠章 桔川卓也 遠藤えりか
構造:江尻建築構造設計事務所 担当/江尻憲泰 小谷松雄次
設備:ESA+大瀧設備事務所+山道設備設計事務所
テキスタイル:安東陽子デザイン
サイン・ロゴ:KD
敷地面積:9,721.74m2
建築面積:1,990.14 m2
延床面積:1,894.08m2
階数:地上1階
最高高さ:7,700mm
軒高:6,960mm
階高:4,200mm
天井高:2,400mm、2,900mm、3,400mm
設計期間:2015年10月〜2016年03月
施工期間:2016年06月〜2017年08月
地域地区:都市計画区域及び準都市計画区域外、法22条地域
道路幅員:16m
主体構造:鉄筋コンクリート造+木造造
杭・基礎:木杭
———
施工
建築:岩田地崎建設株式会社
機械:株式会社木本動力工業所
電気:末廣屋電機株式会社
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撮影:淺川敏
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
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外装・屋根 | 屋根 | シート防水t1.5 |
外装・壁 | 外壁1 | コンクリートの上、ドライピット湿式断熱工法+フィニッシュコートビオシェル[色:B32-90D] |
外装・壁 | 外壁2 | ガルバリウム鋼板 立平葺き[クールブラック](北都板金工業) |
外装・建具 | 開口部1 | アルミサッシ |
外装・建具 | 開口部2 | 鋼製サッシ |
内装・床 | なかみち床 | |
内装・床 | 診療所ゾーン・デイケアゾーン床 | |
内装・床 | 休憩・図書ゾーン床 | |
内装・壁 | なかみち壁 | 珪藻土塗壁材 |
内装・壁 | 診療所ゾーン・デイケアゾーン壁 | PB+AEP |
内装・壁 | 休憩・図書ゾーン壁 | 珪藻土塗壁材 |
内装・天井 | なかみち天井 | 木構造現しの上、木材保護塗料 |
内装・天井 | 診療所ゾーン・デイケアゾーン天井 | 木構造現しの上、木材保護塗料・岩綿吸音板 |
内装・天井 | 休憩・図書ゾーン天井 | 木構造現しの上、木材保護塗料 |
内装・照明 | 休憩・図書ゾーン照明 |
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