石黒泰司+和祐里 / アンビエントデザインズが設計した、東京・渋谷区の「tracing」です。
展示・販売・撮影を行う施設です。建築家は、施主の望む“キオスク”のイメージに応える為、キオスクの構成要素を“トレース”して壁面に加えて陳列物等も設計しました。また、“作法のある仕上げ”で内装の論理的構築を試みる事も意図されました。施設の公式サイトはこちら。
ポップアート、ファッション、コマーシャル等の企画展をおこなう「ギャラリー」、展示関連の物販をおこなう「ストア」、撮影・収録のための「スタジオ」からなる複合施設の内装計画。
平面計画は、計画地が表参道の路面テナントであること、奥行きの深い平面形状であることを考慮し、手前からストア、ギャラリー、関係者のみが利用するスタジオという順序で配置している。
クライアントから提示された施設のイメージは、路上や駅に設置される「キオスク」であった。
そこで、通りに面するストアスペースの壁面を一般的な「キオスク」を構成する要素のスケールとプロポーションの「なぞり書き=トレース」により設計することによって、キオスクらしさをつくり出すことを目指した。
その思考はVMDやサインデザインへと展開する。
たとえばVMDにおいては一般的にキオスクに陳列される商品のサイズに類似した工業製品を陳列し、サインデザインにおいてはストアとギャラリーを隔てる建具の立入禁止の表示として、日本庭園に用いられる止め石(とめいし)の形式をインテリアに合わせた透明な天然石とビニルロープで設えた。
商業性の高い計画地において、クライアントの活動を視覚的に伝達することに重きを置き、なぞり書きという作法で空間の設えをおこなったプロジェクトである。
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以下、建築家によるテキストです。
なぞり書きのインテリア
ポップアート、ファッション、コマーシャル等の企画展をおこなう「ギャラリー」、展示関連の物販をおこなう「ストア」、撮影・収録のための「スタジオ」からなる複合施設の内装計画。
平面計画は、計画地が表参道の路面テナントであること、奥行きの深い平面形状であることを考慮し、手前からストア、ギャラリー、関係者のみが利用するスタジオという順序で配置している。
クライアントから提示された施設のイメージは、路上や駅に設置される「キオスク」であった。
そこで、通りに面するストアスペースの壁面を一般的な「キオスク」を構成する要素のスケールとプロポーションの「なぞり書き=トレース」により設計することによって、キオスクらしさをつくり出すことを目指した。
その思考はVMDやサインデザインへと展開する。
たとえばVMDにおいては一般的にキオスクに陳列される商品のサイズに類似した工業製品を陳列し、サインデザインにおいてはストアとギャラリーを隔てる建具の立入禁止の表示として、日本庭園に用いられる止め石(とめいし)の形式をインテリアに合わせた透明な天然石とビニルロープで設えた。
商業性の高い計画地において、クライアントの活動を視覚的に伝達することに重きを置き、なぞり書きという作法で空間の設えをおこなったプロジェクトである。
イメージの空間
内装設計、とりわけ小規模商業系の用途においては、設計の手立てとしての「断面」が禁じ手になることが多い。おかしな言い回しであるが、商業空間においては「空間」の問題を考えることが難しいと感じていた。しかしながら、それは間違っていた。ということがこのテキストの帰結である。
内装設計の範疇において、限られた小さな面積を必要な機能で満たすためには、平面の計画が要となる。そして、そこに施される仕上げ、いわゆる「壁や床、天井をどのような色や質感、かたちを施すか」ということについては、論理的な筋道はほとんど存在しない。よって、選択や評価はクライアントやデザイナーの感覚的判断に委ねられる。
「tracing」においては、「平面計画という土台の上に自由な仕上げがある」というような、その構造に抗うことは行わず、「自由な仕上げ」という部分を「作法のある仕上げ」に置き換えることを試してみることにした。これによって、論理的な筋道のない「仕上げ」の設計に、ひとつの方法を見出すことができるのではないかと考えたのだった。
今回の作法は、「クライアントから提示されたリファレンスを、それが持つ寸法と様式に限定してトレースすること」である。そうすることで、細部のディテールやプロップまで、寸法と様式に限定した引用が連続し、結果としてはちぐはぐで、提示されたものからは遠いものでありながら、初見の通行人までがリファレンスであるキオスクを容易に想像することができるという現象を得た。
「作法のある仕上げ」の設計は空間に内在する「イメージ」の問題を考えることであったのだと気づいた。「イメージ」は受け手の想像力に働きかけ、体験や経験を個人のなかに生み出すという点において、とても空間的、シークエンシャルだ。断面という身体的な空間とは異なる、イメージという視覚的な空間が存在することを発見した。
■建築概要
題名:tracing
所在地:東京都渋谷区神宮前5-3-13
主用途:店舗・展示場・撮影所
設計:石黒泰司(アンビエントデザインズ)
サインデザイン / VMD:和祐里(アンビエントデザインズ)
施工:イノウエインダストリィズ
階数:地上2階建の1階部分
構造:鉄筋コンクリート造(既存建築物)
延床面積:112.70㎡
設計:2020年4月-2020年6月
工事:2020年7月
竣工:2020年7月
写真:千葉正人