小山光+KEY OPERATIONが設計した、神奈川・葉山町の別荘「Hayama Huts」です。
住宅が建ち並ぶ地域に計画されました。建築家は、隣地等への配慮と周辺からの視線を考慮し、プールを備えた中庭を5つの小屋が取り囲む“景色に馴染む集落”の様な建築を考案しました。また、断面寸法や勾配も既存住宅との良好な関係を意識して決定されました。
山と県道207号線に挟まれたこのエリアは狭い小道に面して小さめの住宅が建ち並び、海岸沿いと異なり、別荘地の割には建物の密度が高く、隣地境界際まで隣地の建物が迫っている。また北側の山へ向かって勾配があるため、南北に接する土地はひな壇状になっており、南側の住宅は低いためあまり視界に入らないが、北側からは見下ろされる位置関係にある。
設計初期には隣地の住宅と距離をとりながら小さな外部空間を作る案もあったが、クライアントからプールを設ける事を望まれたため、隣接する住宅と視線が合う北側や東側に対してヴォリュームをL字に配置して、中央のデッキエリアのプライバシーを確保するオプションを検討し始めた。しかしながら敷地全体に伸びる長いヴォリュームを配置すると、隣接する住宅の住民に威圧感を与えるため、ヴォリュームを分けて、小さな建物がプールのある中庭を取り囲むレイアウトとした。
構成としては、ダイニング棟、リビング棟、宿泊棟、駐車場と浴室のあるサービス棟、倉庫棟の5つの建物からなる。アプローチのある私道側にはサービス棟と倉庫棟が面していて、私道側には窓もないため、小屋が素朴に並んでいるような佇まいとなっている。この二棟の間を抜けると、中庭に入ることができる。
サービス棟とダイニング棟の間は小さな玄関となっていて、その北側は駐車場からアプローチできる勝手口と対面する形となっている。サービス棟は洗面脱衣室が玄関と直結していて、プールに入るゲストが直ぐに着替えられるように配慮している。その奥にはサウナ付きの大きなバスルームがあり、バスルームから直接プールサイドに出ることができる。
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以下、建築家によるテキストです。
一色海岸から徒歩3分の奥まった私道に面した1000m2の敷地に計画された別荘。
葉山は、江戸時代まで漁村だったが、明治以降、御用邸をはじめ、宮家や要人の別荘が建てられ始めた。
このエリアは明治時代の政治家、桂太郎の別荘、長雲閣があったところで、この敷地にも大きな邸宅があったが、年月が経つにつれて徐々に土地が分割され、再建築ができない敷地として取り残されてしまった。この私道は3つの敷地で共有されており、他の敷地は裏側の別の道路で接道しているが、この敷地は私道のみの接道で、有効な接道長さが確保できておらず、長い間空地のままだった。
私道の反対側に既に住宅を所有していたクライアントがこの土地を取得し、すでに所有していた私道の一部を合わせる事によって接道が満たされて、建築を建てる事ができるようになった。
山と県道207号線に挟まれたこのエリアは狭い小道に面して小さめの住宅が建ち並び、海岸沿いと異なり、別荘地の割には建物の密度が高く、隣地境界際まで隣地の建物が迫っている。また北側の山へ向かって勾配があるため、南北に接する土地はひな壇状になっており、南側の住宅は低いためあまり視界に入らないが、北側からは見下ろされる位置関係にある。
設計初期には隣地の住宅と距離をとりながら小さな外部空間を作る案もあったが、クライアントからプールを設ける事を望まれたため、隣接する住宅と視線が合う北側や東側に対してヴォリュームをL字に配置して、中央のデッキエリアのプライバシーを確保するオプションを検討し始めた。しかしながら敷地全体に伸びる長いヴォリュームを配置すると、隣接する住宅の住民に威圧感を与えるため、ヴォリュームを分けて、小さな建物がプールのある中庭を取り囲むレイアウトとした。
構成としては、ダイニング棟、リビング棟、宿泊棟、駐車場と浴室のあるサービス棟、倉庫棟の5つの建物からなる。アプローチのある私道側にはサービス棟と倉庫棟が面していて、私道側には窓もないため、小屋が素朴に並んでいるような佇まいとなっている。この二棟の間を抜けると、中庭に入ることができる。
サービス棟とダイニング棟の間は小さな玄関となっていて、その北側は駐車場からアプローチできる勝手口と対面する形となっている。サービス棟は洗面脱衣室が玄関と直結していて、プールに入るゲストが直ぐに着替えられるように配慮している。その奥にはサウナ付きの大きなバスルームがあり、バスルームから直接プールサイドに出ることができる。
ダイニング棟の前面は中庭に面する大きな開口があり、引き戸の窓を開けるとプールのある中庭と一体的なスペースとなる。この開口の前にはオーニングもついたパーゴラがあり、プールサイドに日影を作ると共に室内への光を調整している。
ダイニング棟とリビング棟は建物の屋根部分では分かれているが、足元では空間が連続している。二棟の隙間にはトップライトがあり、中庭のパーゴラのルーバーが室内にも連続している。
リビング棟は敷地のレベルに合わせてダイニングよりも40cm床レベルが上がっているが、屋根も高めに作られているので、気積が大きくなっている。各建物の高さは基本的には内部の機能に合わせているが、むしろ周辺の住宅との関係を重視して決められている。
北側の住宅は平家で敷地境界よりかなり奥に位置しているが、今まであった眺望をなるべく遮らないように、ダイニング棟は境界側を低く抑えた片流れの屋根として、中庭のプライバシーも確保している。
北東の奥にある住宅は、以前この敷地の所有者が親族だったこともあり、敷地境界側まで3階建の住宅が迫っている。敷地内の高低差は私道側から北東の奥にかけて2m近くあり、北側の隣地とは高低差が1.2mほどあるが、この北東の隣接住宅の敷地はほぼ同じ地盤面になっている。そのためこの住宅に面するリビング棟は敷地境界側に対して内部の床レベルを地盤面よりも1.6m埋めて、なるべく隣接する住宅の眺望を損なわないようにして、東側の軒先は地盤面から高さ80cm程度まで抑えている。
西側の軒先は地盤面から4.8mまでの勾配をつけて、隣地住宅の海への眺望と中庭のプライバシーを両立させている。
敷地の南東に位置する宿泊棟は東側に隣接する別荘が南側の海への眺望を直接持っているので、お互いのプライバシーを確保するために2階建としている。オーナーの住まいは私道を挟んだ反対側の別荘にあるため、この別荘はゲストが宿泊することを想定している。1階部分にはゲストの寝室2部屋とバスルームを設けて、2階はグループで宿泊した時に雑魚寝ができる 大部屋とした。
宿泊棟リビング棟の隙間にも玄関と同様の動線空間があり、中庭から直接宿泊棟にアプローチすることができる。この宿泊棟とリビング棟以外のエリアは基本的に土足の想定で、ダイニングとリビングの段差の所とこの隙間のエリアで靴を脱ぐようになっている。
1階のゲストルームの廊下は足元のみに窓を設け、お隣と視線が合わないようにしている。
突き当たりのバスルームは南側の庭の景色を楽しめるように窓を設けた。
このあたりには日露戦争の戦勝祝いに植えられたクスノキが多く生えており、そのうちの3本はこの敷地にあり、心地よい木陰をプールサイドに落としてくれる。中庭にあるクスノキは宿泊棟寄りに位置しているので、宿泊棟はクスノキが生育しやすいように中庭側に下がる片流れの屋根とした。
2階のワンルームは隣地側の窓を高めにしてお互いに視線が合わないようにしているが、中庭側は軒先も窓も低く抑えられており、中庭のくすのきを見ながら窓際に腰掛けることができる。南側の窓からは一色海岸の先の海を望む事ができる。
南側の隣地は高低差が2mあるため、隣地の住宅は屋根しか視界に入らない。そのためこの中庭は南側にのみ開いている。南側にはウッドデッキの端部にデッキを立ち上げたようなベンチを設けた。東側の宿泊棟の前は階段状になっていて、くすのきの木陰で涼むことができる。西側はサービス棟の浴室の窓が中庭に面していて、サウナから直接プールに入ることができる。倉庫前には外部用のシャワーもある。北側はパーゴラの下には外部用のダイニングテーブルを置き、外部でも食事を楽しむができる。
それぞれの棟の隙間は、プールサイドの中庭から周縁部に抜ける動線で、海陸風と光の通り道にもなっている。分散した建物を緩やかに繋ぐ役目を果たしているのは、溶融亜鉛メッキで仕上げたルーバーのパーゴラで、ダイニング棟の南側のデッキを覆って環境調整するだけでなく、トップライトの日除けとして各建物の隙間に入り込んでいる。
私道に面するアプローチ部分は、元々塀として使われていた大谷石を再利用して、アプローチにある駐車場と私道のレベル差を押さえる低めの土留とした。ここは主に車で来るゲストのための駐車場とその取り回しのためのエリアのため、水捌けの良いポーラスコンクリートで仕上げ、建物沿いと屋内駐車場のあるサービス棟のあるレベルが変わるところに植栽を入れている。ここにもクスノキの大木があり、アプローチ全体に優しい木陰を落としている。
建物の外壁はパイン材などのソフトウッドにトウモロコシの穂軸やサトウキビの搾りかすを原料として生成したフリルアルコールを木材に含浸、熱を加えて重合させてハードウッド化したケボニー材を使用した。木材は硬くなり、腐朽に対する抵抗性が上がり、耐久性を維持するための塗装などのメンテナンスが不要になる。設置当初は茶褐色だったのが、すでに最初に取り付けた宿泊棟はライトブラウンに変化してきており、最終的にはシーランチのようなシルバーグレイに落ち着く。
分散されたそれぞれの棟は構造的にも別々の木造の建物として設計されている。唯一ダイニング棟とリビング棟は足元部分を開放的に連続させるために、構造的に一体化した鉄骨造の建物内として計画された。
設計当初の簡単な小屋を建てたいというクライアントの意向と、周辺環境に配慮して、設計過程で機能が増えて別荘の規模が大きくなってきても、小屋が集まる構成にしたことで、一色の景色に馴染む小さな集落のような佇まいになった。
■建築概要
建物名称:Hayama Huts
所在地:神奈川県葉山町
主要用途:住宅
家族構成:4人
設計:小山光+株式会社キー・オペレーション一級建築士事務所 担当:小山光、松岡伸明、黒川麻衣
構造:有限会社構造設計工房デルタ 担当:久田基治、太田侑也
設備:有限会社コモド設備計画 担当:上野詩織
電気:有限会社コモド設備計画 担当:山下直久
外構・造園(設計・施工):株式会社ヤードランドスケープ 担当:梅津収一
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施工
会社名:株式会社ダブルボックス 担当:灰田務、福島昂、浅井光太郎
設備:北原設備 担当:北原雅人
基礎・デッキ:グラスガーデナー 担当:小林浩喜、小林麿
金物:スチールクリエイト 担当:中垣伸一
大工:矢崎吉春、蛯澤勝也、中平純一
家具:コルボワット 担当:小川靖子
プール:デジョユジャパン 担当:小竹将通
薪ストーブ :ディーエルディー 担当:中村光宏
サウナ:メトス 担当:辻慎一
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主体構造・構法:木造軸組構造・鉄骨造
基礎:べた基礎(柱状改良)
階数:地上2階
軒高:7,355mm
最高高さ:7,705mm
敷地面積:1,047.27m2
建築面積:254.21m2(建蔽率24.28% 許容40%)
延床面積:309.24m2(容積率27.23% 許容190.01%)
1階床面積:258.09m2
2階床面積:51.15m2
設計期間:2019年2月~2021年2月
工事期間:2021年2月~2022年6月
写真:小川重雄
動画:青木聖也