


小笹泉+奥村直子 / IN STUDIOが設計した、東京・小金井市の住宅「スケールの家」です。
都市計画と税制で“標準化”した住宅地に計画されました。建築家は、施主の経験を起点に“均質なスケール”の逸脱を求め、都市的サイズで“尺度を抽象化”した居住空間を考案しました。そして、“都市に浮遊”し自由をもたらす建築を作る事も意図されました。
均質なスケールの住宅地に家を設計することになった。
建主は快適で住みやすい家を望まれていたのだが、よくよく話を深めてみると、どうやら大きな空間を望まれていることも分かってきた。建主はかつて海外に住んでいて、そこで大きな空間で生活をしていたときに自由を感じていたそうである。こうして、均質なスケールの住宅地から逸脱したスケールの住宅をつくることになった。ここに人の生活の自由がもたらされそうな予感がした。
設計にあたり、まずはなるべくスケールオーバーに計画しようと、物理的なスケールである寸法を拡大した。高度地区付きの第一種低層住居専用地域で可能な最大の外形のなかに、都市のスケールともいえる7×8×4mの大きな室を確保し、4×4mの大きな窓を空けた。そしてその残りを個室とした。大きな窓からは自分の庭と隣地の庭を望み、高く持ち上げられた個室からは地平線まで広がる武蔵野の住宅地を望むことになる。
さらにスケールレス化を図った。つまり、知覚的なスケールである尺度を抽象化した。窓は正方形とし、内外装は白で仕立てた。2階建ての建物に対して立面は3層に分節した。窓はときに層や角をまたぎ、フロストガラスからわずかに生活をほのめかす。スケールレスを主調としたうえで、大きな室は身の丈の高さだけ木で造作して生活機能を担保した。
こうして、見慣れたものの組み合わせからなる住宅が、スケールの操作によって見慣れぬ様相を手に入れた。宗教建築はプロポーションと光で慣習的な雰囲気を脱したが、この住宅ではスケールの操作で慣習的な雰囲気を脱している。これが慣習的な家らしさに縛られない自由な気分をもたらす。
一方で、この異質な住宅のスケールは住宅地の文脈に接続する。道のスケールに似た室、空地のスケールに似た窓、高く持ち上げられて住宅地の上に顔を出す2階の個室などは、再帰的に住宅地に根ざしている。そして窓から望む具体的な住宅地の風景は、都市に住む実感を繋ぎ留める。