佐竹永太郎+奥野幹 / teamSTARが設計した、神奈川・横須賀市の「Villa A」です。
眼前に海が広がる敷地での計画です。建築家は、海底を思わせるホールから“貝殻をイメージした螺旋階段”を登り、富士山と海に向けた“アーチ屋根”に覆われた主要階に到達する構成を考案しました。また、屋根の形は土地の高低差に合わせ階段状としました。
秋谷海岸に位置することから名づけられたこのヴィラからは、日本のヨット文化発祥の地である葉山町近郊の太平洋を一望できる。
敷地は南西向きの丘の斜面にあるが、屋根は富士山に向かって西向きに配置されている。
地下1階のエントランスホールは海底を思わせ、白い螺旋階段は深海から海面に向かって上昇する螺旋状の貝殻をイメージしている。
階段の最上階からは、太平洋の印象的な眺望が広がる。建物の構成は、敷地特有の高低差に合わせたもので、アーチ型の屋根の階段状のグラデーションがそれを物語っている。
環境への影響を最小限に抑えるため、床面は敷地の自然勾配に沿った高さとし、搬出・搬入する土の量を減らしている。エントランス、リビングルーム、ダイニングルーム、ロフトエリア、設備の整ったキッチンからは、それぞれ独自のオーシャンビューを楽しむことができる。また、エメラルドグリーンの床はサンゴ礁や浅瀬の海を連想させ、メインフロアの配色はヨットに乗っているような印象を与える。
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以下、建築家によるテキストです。
秋谷海岸に位置することから名づけられたこのヴィラからは、日本のヨット文化発祥の地である葉山町近郊の太平洋を一望できる。
敷地は南西向きの丘の斜面にあるが、屋根は富士山に向かって西向きに配置されている。
地下1階のエントランスホールは海底を思わせ、白い螺旋階段は深海から海面に向かって上昇する螺旋状の貝殻をイメージしている。
階段の最上階からは、太平洋の印象的な眺望が広がる。建物の構成は、敷地特有の高低差に合わせたもので、アーチ型の屋根の階段状のグラデーションがそれを物語っている。
環境への影響を最小限に抑えるため、床面は敷地の自然勾配に沿った高さとし、搬出・搬入する土の量を減らしている。エントランス、リビングルーム、ダイニングルーム、ロフトエリア、設備の整ったキッチンからは、それぞれ独自のオーシャンビューを楽しむことができる。また、エメラルドグリーンの床はサンゴ礁や浅瀬の海を連想させ、メインフロアの配色はヨットに乗っているような印象を与える。
建物の構造は主に鉄筋コンクリート造であるが、屋根は7m×900mmの横架材で連続したアーチを構成する木造構造である。
テラスには、インフィニティ・プール、薪サウナ、アウトドア・キッチン、外から簡単にアクセスできるジャグジーがあり、友人や家族をもてなす理想的な空間がデザインされている。
その結果、オーシャンフロントのヴィラにリゾートのアメニティが備わり、ゆったりとしたライフスタイルにぴったりな、目の前に広がる青い海との深いつながりを感じられるヴィラが完成した。
ヨットや橋と共通する木造ヴォールト屋根
CLTによるアーチ型屋根の採用
海というモチーフから、ヨットや橋と共通する木造建築を探した。アーチ型の屋根の素材にコンクリートは重すぎる。そこで、木材という軽量な素材が選ばれた。しかし、木材単体では構造材として弱いため、梁のない強固な平面構造が実現できる素材としてCLTを採用した。
自然環境と連続する木造屋根
屋根ヴォールトは、金物を使わず木製部材を用いて構成した。素材の特徴を最大限活かした構造とし、そのまま内部の仕上として使用。ヴォールトは富士山に向けて傾けた。木造ヴォールト屋根は、自然豊かな海辺の環境を取り込み、室内にいることを忘れさせる開放感に貢献している。
ヨットや橋と共通する木ならではの工法
CLTのヴォールト屋根はアーチ橋のように、両端から組み立て、最後に上部を連結する施工計画。また、幅900mm、長さ7200mmのCLTパネルは、木舟の底に使われる木製ジョイントのようにLVLを切り出した部材により連結する。この工法の実現のため、レシプロカル構造という特殊な構造を採用した。
屋根の軽快さを生む傾斜柱・RC壁との接合部
屋根を支える鉄骨の柱は斜めに立っており、ヨットのような軽やかさを生む。屋根とRC壁はデザインとして分離し、屋根のアーチ形状が際立つデザインとした。その結果、接合部は、水上、水下で異なるが、それぞれ個別に検討を行い要求性能を満たした。
木造ヴォールトを実現する「レシプロカル構造」
レシプロカル構造は相持ち構造ともよばれる構造形式で、梁の支える / 支えられるという関係性を取り払い、お互いに支え合うことでスパンをとばした空間を生み出すことが可能となる。通常、線材により特徴のある幾何学的なパターンで構成されることが多いが、面材により円弧を近似した多角形となっていることが特異である。
採用の経緯
・ヴォールト形状に対して力学的に適している
・表面のラミナの繊維(強軸)方向を長手に渡し意匠性を高める・CLTの長手の継目をずらして存在感を薄める
・大部分の部材を同じ形状で加工し合理化する
・一般的なレシプロカル構造より仮設が軽減できる
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綿密に計画した施工計画
76ピースの建方
76ピースを1カ月かけて組み立てる計画であり、各ピースを組み立てるまでは屋根が安定しないため、ヴォールトの開き止めや支保工を使って屋根の形状を調整する必要があった。パネル分割して工場での製作・現場搬入、人力での建方作業を可能にし、難度の高いヴォールト屋根を傾斜地において実現できた。
木の動きを考慮した施工技術
屋根は木造であるため、寸法誤差が生じないように計画されている。しかし、木材は自然素材であるため、温度や湿度によって反ったり、膨らんだり、動いたりして、わずかな寸法誤差が生じる。さらに、ガラスやサッシに荷重がかかると、その重みで位置が下がる。こうした自然素材の歪みや荷重によるたわみをあらかじめ考慮し、最終形状から逆算して施工を行った。
単純なアーチ屋根にはない敷地形状との関係
断面形状は半径4,700mmの単純なアーチ屋根の連続であるが、軸線が著名な山である富士山に向いているため、エッジは屋根と直交せず、45度の角度をなしている。そのためエッジの形状は複雑で、CLTパネルごとにLVLの形状を変える必要があった。異なる形状はすべて3Dで検討され、LVLパネルから切り出された。
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■建築概要
題名:Villa A
所在地:神奈川県横須賀市秋谷
主用途:ヴィラ
設計:teamSTAR
クリエイティブディレクター / アーキテクト:佐竹永太郎(STAR)
メインアーキテクト:奥野幹(Moo-flat design)
アシスタント:簗瀬晃希(STAR)
マネジメント:山田慎一郎(Yamada Studio)
サポート:江口剛一(adl b)
構造設計:soaps
設備設計:EM design
照明デザイン:安原正樹(Plus y)
施工:株式会社キクシマ
施工監修:武家田建設株式会社
構造:RC+S+W(屋根CLT)
階数:地上2階、地下1階
敷地面積:770.51㎡
延床面積:385.96㎡
設計期間:2021年6月~2023年7月
施工期間:2023年8月~2023年9月
竣工:2023年9月6日
写真:千葉顕弥