SHARE 坂茂建築設計による、スイス・ビールの「オメガ・スウォッチ本社 (スウォッチ本社/Cité du Temps/オメガファクトリー)」
坂茂建築設計が設計した、スイス・ビールの「オメガ・スウォッチ本社 (スウォッチ本社/Cité du Temps/オメガファクトリー)」です。
スウォッチAGは10月3日、約5年の施工期間を経て竣工した新社屋(スイス・ビール市)にて、落成式を執り行いました。世界最大級の木材構造建築物となる新社屋を設計したのは、世界的に著名な日本人建築家、坂茂(ばんしげる)氏。スウォッチAG社史に新たなページを刻むこの新社屋は、同社の時計のように既成概念にとらわれない設計となっています。
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以下、プレスリリースによるテキストです。
スウォッチAGは10月3日、約5年の施工期間を経て竣工した新社屋(スイス・ビール市)にて、落成式を執り行いました。世界最大級の木材構造建築物となる新社屋を設計したのは、世界的に著名な日本人建築家、坂茂(ばんしげる)氏。スウォッチAG社史に新たなページを刻むこの新社屋は、同社の時計のように既成概念にとらわれない設計となっています。
建築家 坂 茂氏
1957年東京生まれ。 2014年にプリツカー賞を受賞した国際的な建築家です。坂茂氏の設計は繊細かつ慣例にとらわれない構造を特徴とし、建築における技術革新のみならず災害支援への多大なる貢献で広く知られています。スウォッチ・グループは 2007年に竣工した東京・銀座のニコラス・ G・ハイエックセンターの建設で、坂氏と初めてコラボレーションをしています。これに続く2011年、坂氏の設計が、スウォッチ・グループが実施したスウォッチ社屋、オメガ社屋および Cite du Temps(シテ・ドゥ・タン)の設計コンペティションで選ばれました。独創的でありながら実用性も兼ね備えた建築コンセプト、そして各建物において各ブランドの精神を尊重する能力が高く評価されました。坂氏はさらに敷地の文脈も考慮し、プロジェクト全体に反映
しています。
建物
なめらかに光を反射し美しい曲線を描くスウォッチ本社屋の全長は 240m、幅は 35m、高さは最も高い位置で27mにおよびます。従来のオフィスビルの概念を覆すデザインが想像力を掻き立て、まるで芸術作品のように見る人に建物の解釈を委ねてきます。一方で、建物を取り巻く周囲の環境にも美しく調和するよう設計されています。
総面積11,000㎡の広大なヴォールト形状をしたファサードは、エントランスに向かってゆるやかに上昇し、 Cite du Temps(シテ・ドゥ・タン)へと繋がります。建物内外には、曲線、色、透明性など様々な要素が散りばめられており、建築材料も通常とは異なった使われ方をしています。
ファサードをかたち作るのは、木造のグリッドシェル構造です。環境への配慮と持続可能性の実現のため選ばれたのが、木という伝統的な素材でした。自由度の高い建材である木は、極めて高い精度の加工が可能です。これはミリ単位の精度が求められたこのプロジェクトに不可欠な要素となりました。木材を用いることで、設計段階から最新の3Dテクノロジーを用い、4,600に上る個別の木部材の形状と設置箇所を精密に定義することが可能となったのです。
個々の梁は完璧な精度で組み上げられています。木造グリッドシェルはオフィス空間の外皮の役割も果たすため、多種多様な技術的要件も満たす必要がありました。そのため、各種設備配管のネットワークが木製の梁に直接組み込まれ、ファサード全体に張り巡らされました。
2,800個に及ぶファサード・エレメントの取り付けは、木構造の組み立てが終了する前に開始されています。各エレメントは最大50のパーツで構成され、それぞれの機能および設置される位置に基づき個別に設計されました。エレメントの種類は大きく分けて、光を完全に遮断するソリッド・パネル、そして光を通す半透明および透明パネルの3種に分類できます。
ソリッド・パネルには、極めて耐候性の高い膜材が使用され、主として日射を防ぐ必要のあるファサード頂部を中心に配置されています。一部は排煙のため開閉可能になっており、太陽光パネルが装備されているものもあります。
半透明タイプのパネルは、薄い二枚のフィルムに覆われています。フィルム間を空気で満たしクッション状に膨らませることで形状を安定させ、その内部に断熱層として中空のポリカーボネートパネルを内包しました。雪や氷の重量にも耐えるこのクッションは、常時少量ずつ給気することで適度な張力が保たれています。
透明パネルには、断熱のため全 4枚のガラス板が採用されました。中間層にはロールブラインドが組み込ま
れています。半透明パネル同様に常時給気することで、結露の発生を防いでいます。
ファサードには、10~20㎡の階下を見渡すバルコニーが計9カ所設置されました。ガラス製ファサード上の小さな白いドット模様が直射日光を防ぎ、天井には精密な穿孔を組み込んだ 124個の木製スイス十字が散りばめられ、オフィス内の音響環境を整える役割を果たしています。
建物内部
スウォッチ本社屋の延べ床面積は25,000㎡。スウォッチ・インターナショナル社およびスウォッチ・スイス社のすべての部署が入ります。 4つの上方階の床面積は階が上がるごとに減少し、ガラス製の手すりが設置された各階のギャラリー部分から下の階を見渡すことができます。また通常の職場スペースに加え、多種多様な共有エリアも建物全域に設置されています。地階のカフェテリアはスウォッチ社員およびその顧客に開放されているほか、随所に休憩スペースが設けられています。プライバシーを尊重した空間としては、個別の「アルコーブ型キャビン」が設置されました。キャビンは最大 6名で利用でき、電話や作業に集中する必要がある際に利用できます。 3階を奥に進むと、どの階にも行けない階段「読書用階段」に突き当たります。大きく開
けた「読書用階段」からの眺めを前に、想像力を働かせるために休憩をとったり同僚とブレーンストーミングをしたりと、様々な目的で使用できます。
また建物内には、 2階に届く程の高さの5本のブラックオリーブの木も配されました。ブラックオリーブは室温で育つ常緑樹で、一年中見事な葉を維持してくれます。
地下には、テクニカルルーム、換気センター、アーカイブに加えて、地下駐車場があり、自動車 170台、自転車182台を収容できます。
ロビー
ゆったりとスペースをとったエントランスエリアには、高さ 27mに達する全面ガラス窓が設けられ、開放的で明るい空間が広がります。このガラスのファサードは天井を構成するグリッドシェル枠に合わせるため蛇腹
折りのような形状をとり、これにより強い風圧にも耐えられる構造となっています。
ガラス窓の下部には、自動で開閉する 5.5mのガラス製シャッターを設置しました。このシャッターは、風圧に十分な耐性を持ち、断熱効果も高く、完全に開放可能なガラスのファサードとしての機能を果たしています。
ロビー内にはガラス製エレベーターが2基設置され、 3階のギャラリーからはエントランスエリアが見渡せます。また4階に設置されたガラス製の歩道橋は、スウォッチ本社とCite du Temps(シテ・ドゥ・タン)をつないでいます。
持続可能性
すべての建物は、地下水を利用した冷暖房や太陽光発電システムにより、二酸化炭素排出量の削減に貢献しています。その他にも、ベロスポット・ステーションでの電動自転車の共有・充電、自動制御の日よけ、断熱効果の高いガラス窓、LED照明、高効率の換気システム、輻射冷暖房およびペーパーレス化など、持続可能なオフィスの実現に向けた取り組みがなされています。最新技術を駆使したスウォッチ社の新社屋は、最先端の建築とワークスタイルが環境保全と両立可能なことを示しています。
またファサードの木材にはスイス国産の木材のみが使用され、品種は主にスプルスが選ばれました。使用木材量は合計1,997.におよびますが、これは、スイスの森では2時間足らずで再成長する木材量にあたります。
新社屋全体の使用エネルギーは、太陽光発電による熱源と地下水利用を中心にまかない、スウォッチ本社およびCite du Temps(シテ・ドゥ・タン)共に、換気、冷暖房、照明といった建物の機能が自律的に働くようになっています。スウォッチ社は隣接する Cite du Temps(シテ・ドゥ・タン)と、 2017年に操業開始したオメガ・ファクトリーと熱源を共有しています。地下水の汲み上げ用井戸が建物内に 9基設置され、旧貯油タンク 2個が貯水槽に改造され活用されています。さらに総面積1,770m2、442個の曲面状のソーラーパネルがファサードのハニカム構造に組み込まれ、年間 212.3MWhの発電が可能です。これはスイス国内 61世帯の年間平均電
力使用量に相当します。
Cite du Temps (シテ・ドゥ・タン)
Cite du Temps(シテ・ドゥ・タン)の設計も坂茂氏が手掛けました。建物の大きさは 80mx 17mx 28m。スウォッチ社の新社屋とは異なる趣を持ちつつ、本社屋と美しい調和を見せるよう設計されました。すべて木
造で構成された2階より上の空間とは対照的に、地上階には 15mスパン5mピッチで配された14組のコンクリートアーチが並ぶピロティが広がります。 2階にはオメガミュージアムが、 3階にはプラネット・スウォッチが配されています。最上階の 5階にはスウォッチグループ専用のニコラス・G・ハイエックカンファレンスホールがあり、そのユニークな楕円の形状とスウォッチ新社屋から繋がる木造グリッドシェルの屋根が、ひと際目を引くデザインとなっています。
ファクトシート
スウォッチAG新社屋
建築家:
坂茂(ばんしげる)1957年東京生まれ。第36回プリツカー賞受賞。
ファサード:
– ファサード表面積は11,000㎡
– スイス産木材100%を使った4,600本に上る木部材
– それぞれ異なる機能を持った10種類、2,800個のファサードパネル
-10㎡~20㎡のバルコニー9カ所
ロビー:
– 高さ22m
– 高さ22mに達する蛇腹折り状の全面ガラス窓
– 全開することで、ロビーと外部空間を一体化できるガラスシャッターが4基(それぞれの重量は約1トン)
建物:
– 長さ240m、幅35m、高さ27m
– 総階数5階、延べ面積25,000㎡
-5本のブラックオリーブの木(学名Bucida buceras) – 地下駐車場は170台の自動車、182台の自転車を収容可能
持続可能性:
– スイス産木材100%、主にスプルースを使用
– 使用木材量1,997㎡:スイスの森では2時間足らずで再度成長する木材量に相当
-スウォッチ本社、オメガ・ファクトリーおよび Cite du Temps(シテ・ドゥ・タン)すべてで、地下水活用システムによる建物の冷暖房を採用。地下水くみ上げ用の井戸は9基、旧貯油タンクを改造した貯水槽は2個
– 曲面状のソーラーパネル442枚、太陽光発電設置面積は1,770m2
屋外施設:
-120本を超える木が新しく植えられた緑地
– 最大時速が30kmに制限された交通緩和ゾーン
– 世界初のドライブスルー方式のスウォッチ・ストア- ビール市の自転車レンタルシステムであるベロスポット・ステーション10カ所
Cite du Temps (シテ・ドゥ・タン):
– 長さ80m、幅17m、高さ28m
– 地上階は、15mスパン、5mピッチのコンクリートアーチが14組連続したピロティ空間
-3階には「プラネット・スウォッチ」、2階には「オメガ・ミュージアム」が配された。
-5階には、400人収容可能な楕円形のカンファレンスホール。全床面積は350㎡。
– 約150万個のモザイクタイルが曲面のカンファレンスホールを覆う。
-2階から上はすべて木造。カンファレンスホールの上に、スウォッチ本社から繋がる木造グリッドシェルの屋根がかかる。