SHARE 水谷元+三宅唯弘+野見山優亮 / 三宅唯弘建築設計事務所+atelierHUGEによる、福岡・能古島の「島の家 001」。福岡の離島を敷地とし、設計者と施主の移住生活の経験を通した、既存集落に相応しい現代の住空間の在り方を模索
水谷元+三宅唯弘+野見山優亮 / 三宅唯弘建築設計事務所+atelierHUGEが設計した、福岡・能古島の「島の家 001」です。福岡の離島を敷地とし、設計者と施主の移住生活の経験を通した、既存集落に相応しい現代の住空間の在り方が模索されました。
市街地の場合、不特定多数で共同生活を送っているため、匿名性が強く、顕名性が弱い。
既存集落の場合、歴史的に地域内で親族関係が完結するため、顕名性が強く、匿名性が弱い。
コミュニティが強く、お互いに助け合いながら生活をしているが、お互いの生活への干渉が強い側面があり、孤独が保証されにくい。親近感が増せば、まさに「家族のような関係」の居心地の良さを感じる反面、プライバシーの保証が難しくなる。能古島の場合、移住希望者の多くは理想のライフスタイルの実現と子育てのための良好な環境を手にいれることが主であるが、インフラの利便性の問題よりも人間関係に悩まされることがある。
住宅オーナーは能古島みらいづくり協議会の活動をきっかけに移住した第1号のご夫妻である。能古島での私自身の経験とオーナー夫妻の移住生活4年間の経験を通した、既存集落に相応しい現代の住空間が議論の中心になった。新築の計画が始まった時期は、移住当時は積極的だった住民との交流も落ち着いて強固なコミュニティへの弊害をオーナー夫妻が徐々に感じ始めた時期だったように思う。継続して能古島住民との良好な関係を築くためにも、プライベートな時間と空間を確保したいという思いを実現することが計画のテーマとなった。
敷地は島の玄関口である渡船場からほど近い集落にある。向かいに住宅のある南側の前面道路と東側にお寺に登る坂道が通り、北側には休耕田と山が位置し、西側には水路を挟んで住宅が位置する。計画当初から、在宅中に最も長く過ごす居間と食堂の居心地と面積の確保、最低限の寝室を希望されていた。方形の屋根に包まれたロフトのある居間と食堂の吹き抜け空間は、家族や地域住民との団欒ためのスペースである。
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以下、建築家によるテキストです。
『孤独』を保証する建築
市街地の場合、不特定多数で共同生活を送っているため、匿名性が強く、顕名性が弱い。
既存集落の場合、歴史的に地域内で親族関係が完結するため、顕名性が強く、匿名性が弱い。
コミュニティが強く、お互いに助け合いながら生活をしているが、お互いの生活への干渉が強い側面があり、孤独が保証されにくい。親近感が増せば、まさに「家族のような関係」の居心地の良さを感じる反面、プライバシーの保証が難しくなる。能古島の場合、移住希望者の多くは理想のライフスタイルの実現と子育てのための良好な環境を手にいれることが主であるが、インフラの利便性の問題よりも人間関係に悩まされることがある。
島の住宅001
住宅オーナーは能古島みらいづくり協議会の活動をきっかけに移住した第1号のご夫妻である。
能古島での私自身の経験とオーナー夫妻の移住生活4年間の経験を通した、既存集落に相応しい現代の住空間が議論の中心になった。新築の計画が始まった時期は、移住当時は積極的だった住民との交流も落ち着いて強固なコミュニティへの弊害をオーナー夫妻が徐々に感じ始めた時期だったように思う。継続して能古島住民との良好な関係を築くためにも、プライベートな時間と空間を確保したいという思いを実現することが計画のテーマとなった。
敷地は島の玄関口である渡船場からほど近い集落にある。向かいに住宅のある南側の前面道路と東側にお寺に登る坂道が通り、北側には休耕田と山が位置し、西側には水路を挟んで住宅が位置する。計画当初から、在宅中に最も長く過ごす居間と食堂の居心地と面積の確保、最低限の寝室を希望されていた。
方形の屋根に包まれたロフトのある居間と食堂の吹き抜け空間は、家族や地域住民との団欒ためのスペースである。この空間を北側に配置して地域動線となる道路から離隔距離を十分に取ると同時に、玄関を利用せずに直接アプローチできる開口部を設けている。この開口部は西側の庭での休日のアクティビティと食堂との連続した使用が可能なように十分な間口を確保している。玄関・収納・浴室・寝室は、方形屋根の吹き抜け空間を地域動線から守るようにL型の下屋に配置している。
都市という状況・都会的な風景
方形の屋根に包まれた居間空間には、ロフトにある夫が趣味を楽しむための場所、TVや動画を見てくつろぐための場所、お酒や食事を楽しむための場所、ストーブの火を眺めてくつろぐための場所がそれぞれ設定されている。ロフトの下には料理を楽しむためのキッチン、音楽を楽しむためのピアノが配置されている。このようにひとつの空間に思いのまま過ごせる場所が配置されている。
市街地に赴くと、カフェや公園など(場合によって街路空間のちょっとした場所)にも、自分のやりたいことを許容してくれるような場所が意図的・偶発的に配置・存在し、みんな同じ場所にいるのだけど、市民が思いのまま過ごしている風景が「都市」という状況を生み出している。私は、匿名性が強く干渉的でない状況を「都会的」と表現し、そういう「孤独だけど、さみしくない」都会的な風景を好んでいる。
島を拠点に戻してから10年近く経つが、島にもそのような風景があることに気づきはじめた。人間だけが対象ではなく、動植物が活発に生命を営んでいる風景にも同様に捉えるようになったからだ。春を過ぎると鳥の鳴き声、草花の息吹、夏になると夜でも静けさとは無縁に虫が鳴く。もはや自然の中を闊歩する喜びは都市を闊歩する喜びと同等となった。
元来、人が好きなところがあるが、人の話を熱心に聞くとそこには感情があり、思いがあることに気づく。住宅設計の現場においては「家族」という単位で計画を捉えがちだが、今回のような友人宅の場合、夫妻個別に独立した時間を過ごす事も増え、それぞれに住まいに馳せる異なる思いがあることに気づく。「家族は最初の他人」と表現されることがあるが、同じ空間を共有しているのに異なる時間を過ごしているという状況は「都市」であり、「都会的」な風景は住宅の中にもある。小さな集落と自然の中にも「都市」が見えた時、全体が繋がり始める。
能古島は市街地から10分のフェリーという立地条件にあることから、物理的に切り離されているが市街地と連続した生活を送れる地域である。僕の好む「都市」が1日の生活の中で連続して、在宅中の貴重な孤独の時間から、キッチンから二股に別れたアプローチをへて寝室という巣に帰る。諸室の配置と場所の設定や断面の工夫、開口部の開け方や素材の選択など、設計による空間体験を通した「都会的」な風景を田舎の住宅にもつくれたように思う。
能古島みらいづくり協議会について
全国的な人口減少と市街地への人口流出により、空き家や地域の環境維持保全に悩む地域は社会問題になっている。1970年代以降の産業転換やライフスタイルの変化により、核家族化が進み、世帯あたりの家族人数は減っている。そういった社会問題の危機に晒されているのは、能古島も同じである。
5年前から地域住民の呼びかけにより集まった有志で結成された「能古島みらいづくり協議会」は、小・中学校の地元生徒の減少を防ぎ止めることを目的に活動を始めたが、活動を通して「子供を増やすこと」だけが目的ではなく、増える空き家や高齢化による地域の住環境維持を認識し始めている。
能古島は「市街化調整区域」に指定されていることから、農業漁業などの生産環境の維持や市街化整備のコストを抑えることを目的に市街化が抑制された地域である。第1種低層住居専用地域の同等の建ぺい率・容積率、開発可能な用途が限定されており、賃貸業も行えない地域である。空き家の賃貸化に関しては、福岡市により調整区域を対象にした専用住宅の賃貸化制度が整備されており、能古島みらいづくり協議会では空き家地権者への賃貸化交渉と移住希望者の募集を行なっている。
■建築概要
意匠設計:水谷元+三宅唯弘+野見山祐介 / 三宅唯弘建築設計事務所+atelierHUGE
構造設計:満田衛資構造計画研究所
照明計画:Modulex福岡 佐藤政章
外構計画・造園:西海園芸 山口陽介
用途:専用住宅
所在地:福岡県福岡市
主要構造:木造
竣工:2019年
撮影:Blitz STUDIO 石井紀久
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | ガルバリウム鋼板一文字葺き |
外装・壁 | 外壁 | 焼き杉板下見張り |
内装・床 | 床 | 杉板フローリングの上、アウロワックス塗装 |
内装・壁 | 壁 | ビニールクロス貼り |
内装・天井 | 天井 | 構造用合板表し |
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