SHARE 建築コレクティブGROUPによる、磯崎新の処女作を改修したアートスペースでの建築展「手入れ/Repair」のレポート。床の改修工程を再考し“戯曲”の公演を加えることで、直線的な施工プロセスを改変し、その時限りの多様な空間を立ち上げる
- 日程
- 2021年11月8日(月)–11月21日(日)
建築コレクティブGROUPによる、磯崎新の処女作を改修したアートスペースでの建築展「手入れ/Repair」をレポートします。床の改修工程を再考し“戯曲”の公演を加えることで、直線的な施工プロセスを改変し、その時限りの多様な空間を立ち上げる建築展となっています。会場は、東京都新宿区のWhitehouseです。会期は2021年11月21日までですが、会員制のため非会員の公開日は20日(土)となっています(詳細は末尾に記載)。
こちらは、アーキテクチャーフォトによるレポート
建築コレクティブGROUPによる建築展「手入れ/Repair」が、東京都新宿区のアートスペース「WHITEHOUSE」で行われている。
ご存知の方も多いと思うが、このWHITEHOUSEは、建築家の磯崎新が約60年前に、そのキャリアの最初に手掛けた建築であり、美術家・吉村益信の住居件アトリエとして建設された。その後、この建築の所有者は幾度も変わり増改築されたのち、2021年に会員制アートスペース「WHITEHOUSE」として新たに使われ始め現在に至る。
そして、GROUPは、この建築が2021年にWHITEHOUSEとして生まれ変わるにあたり、建物と塀の間の幅1.5mほどの細長い外部空間を、バー・カフェ・アートスペースのための庭として改修を手掛けた(この改修は「新宿ホワイトハウスの庭」という作品名で発表されている)。このように、今回展示を行っているGROUPはWHITEHOUSEに関わりをもった建築家である。
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本展「手入れ/Repair」は、このWHITEHOUSEの1階部分の床の改修過程を公開する建築展である。しかし、もちろん、ただそれだけの展示ではない。
今回の展覧会の始まりは、このアートスペースの床に不具合が出たことに始まる。60年以上使い続けられた床であるので改修が必要な時期が来たというわけだ。そして、この修繕がGROUPに依頼された。相談を受けたGROUPは、自身の手で改修作業を行い、同時にそれを公開するという建築展を行うに至った。この建築はアートスペースであるから、その修繕の過程を“展覧会”として公開するのは自然なことだったのだと想像できる。
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2000年以降、建築家が行う建築展がどうあるべきかという視点が明確になり、様々な試みが行われ続けてきた。実寸大スケールの空間を構築することで、体験を提供しようとする試み。動画メディアを用いて時間の流れや空間の雰囲気を伝えようとする試み。様々な切り口での建築展が行われてきた。この流れを振り返ってみると、その修繕の過程を展覧会として公開するアプローチは、その延長線上にあるようにも思える。
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途中、本展は改修過程を公開する建築展であるが、「もちろん、ただそれだけの展示ではない」と書いた。それは、この展覧会では、ただ床の改修が公開されるのでななく、展覧会としてより多様であるために、様々な視点によるアイデアがこの改修工程の時間軸に重ねられているからである。具体的には、この改修現場にて、安全を確保したうえで、何回か「戯曲」を公演するのだという(この戯曲もWHITEHOUSEが建つ新宿の歴史を参照して構想されたものだそうだ)。そして、その用途を満たすためにGROUPが、それぞれの開催時に合わせ、その改修過程のなかで存在している建築資材によって即興で空間づくりを行うのだという。
つまり、通常は、完成に向かって直線的にまた効率的に進められるのが当然である工程表の中に、改修とは一見関係がないイベントが挿入されているのである。これは、工程の中に、床を修繕するだけではなく、別レイヤーの目的が追加されているとも言い換えられる。そして、その目的が追加されたことにより改修現場という空間が、ただの改修過程の空間ではなく、用途を与えられた空間、つまり建築としての側面を持つものとして認識され始めるのである。
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GROUPによる、改修の工程表に別レイヤーの目的を追加するという行為は、当たり前だったものをメタ的に捉え、それを組み替えることで、結果として改修中の空間を創造的なものとして変化させる。そのような可能性を表明する仕組みのデザインだとも感じた。
最後に書いておきたいのは、今回の改修が床の修繕であり、その施工面積が限られているゆえに安全性の確保が可能で成立しているという側面があるということだ。基本的に現場は危険が伴う場所であり、これが壁や躯体に触ることになれば安全性の問題は高まるだろうし、施工中の空間でイベントが行われるというアイデアは実現されなかったようにも思う。そういう意味では、このアプローチの展開可能性には議論の余地があるだろう。
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しかし、工程表を創造的に改変することで、改修現場の中に、その時限りの特別な空間を生み出そうとする今回のGROUPの試みには新たな建築を開く可能性があるように感じる。
当たり前に目にしているものの前提に立ち返り、それを再考し改変する事で、新しいものが生まれる。そんな建築への向き合い方を閲覧者に強くさせる建築展となっているように思われた。
GROUPによるステートメント
手入れ/Repair
床を剥がして建物の手入れ(Repair)をする。床下には真っ黒い土が見え、これが約60年間封じ込められていた地面だと気づかされる。人が集まるための物質的条件である地面は、手入れの解体と再構築に常に関わり、そのたびことに現れる。
不具合や動作不良に追いつめられた人間は、自らの身体とありあわせの道具を用いて、手入れをおこなう。不具合はふとした瞬間に生じ、そこに蓄積した時間をあらわにするものだ。手入れは、具合の悪さをさしあたり乗り切るために行われるが、それは同時に、対象が抱え込んでいる忘却された時間への介入でもある。居たくないところから逃げ出すにしろ、集まるところをつくるにしろ、居場所にまつわる不具合やトラブルは、地面に対する何らかの身ぶりや工作を通して解決されるほかなく、自らで選び取った場で生き通すための創造行為は、地面と身体の接面において様々な葛藤と工夫を生じさせる。
60年代のフーテン族、新左翼暴動事件、唐の状況劇場。90年代のダンボール村。現在のトー横キッズたち。新宿は断続的かつ局所的に、自治的な場の確保に向けた出来事が生じ続けている稀有な土地だ。しかし、居場所をつくるための地面との接点の新たな発明は、法の整備と取り締まりの制度へとプログラムされ、再帰的なものとして、繰り返し都市の構造に組み込まれてきた。集合し、現れるための形式は、即座に、「壊す」ための口実へ成り代わる。
この展示は、建物への物質的な介入と、建物が存在している土地の歴史や記憶への応答を、手入れというフォームのもと、ひとつながりの工程のなかで、入り混じった仕方で開示する試みである。展示室の床板を一旦すべて取り外してから、床下の基礎を補強し修繕した床板を取り付けるまでの一連の工程が、約二週間の会期を通して公開される。
露出した約60年前の地面が再び閉じられるまでのこの一連のプロセスのなかに、60年代から現在にかけて新宿で発生した5つの事件が、儀礼的な修復の身ぶりとして織り込まれる。都市空間での居場所の確保にむけた“危険”な身体はここで、「壊す」ための口実から、「直す」ための身ぶりへと転じる。
■展覧会概要
GROUP[手入れ/Repair展]
会場:Whitehouse(東京都新宿区百人町1丁目1-8)
会期:2021年11月8日~11月21日(会員制のため非会員の公開日は13日と20日)
閉館日:火・金
開館時間:13:00~20:00
入場料:無料
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手入れ:GROUP(井上岳、大村高広、齋藤直紀、棗田久美子、赤塚健)
戯曲:三野新
衣装:well
写真:高野ユリカ
音楽:涌井智仁
法律:飯野晃司
施工監修: 稲永英俊
什器:藤村祥馬
グラフィック:田岡美紗子
キュレーション:涌井智仁