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TOTO通信の2021年春号「特集:建築家のもうひとつの仕事」のオンライン版が公開。寳神尚史・藤田雄介・菅原大輔・小泉誠に設計ではない仕事の話を聞く

TOTO通信の2021年春号「特集:建築家のもうひとつの仕事」のオンライン版が公開されています。寳神尚史藤田雄介菅原大輔小泉誠に設計ではない方の仕事について話を聞いています。寳神には不動産ディベロッパーの側面、藤田には、建具ブランド展開の側面、菅原にはコミュニティカフェ運営の側面、小泉には物販店舗の運営の側面がある事で知られています。

建築家が、建築設計以外の仕事にチャレンジすることが増えてきた。
たとえば、家具や建具を別の建築家向けに販売したり、設計事務所にカフェを併設して街との接点を生んだり。
あるいは、土地と建物に自らお金を出し、オーナーを兼ねて商業施設や集合住宅を設計することもある。
これらは、設計業を存続していくための経営上のサバイバルの方策でもあるが、設計のクリエイティビティを外部から刺激する動力としても働くのではないか。
建築家たちの「もうひとつの仕事」を紹介する。

井原正揮+井原佳代 / ihrmkによる、東京・港区の集合住宅「はつせ三田」
井原正揮+井原佳代 / ihrmkによる、東京・港区の集合住宅「はつせ三田」 photo©稲継泰介
井原正揮+井原佳代 / ihrmkによる、東京・港区の集合住宅「はつせ三田」 photo©稲継泰介
井原正揮+井原佳代 / ihrmkによる、東京・港区の集合住宅「はつせ三田」 photo©稲継泰介

井原正揮+井原佳代 / ihrmkが設計した、東京・港区の集合住宅「はつせ三田」です。

オーナー住戸付き賃貸住宅というのは一般的に、最上階にオーナーが住み下階を賃貸住戸としたりするものだが、再開発で引越しを余儀なくされた一家のために、「オーナー住戸」に皆で住むのではなく、将来の家族構成や社会の変化に耐えられるような新たな住まいを提案することとした。

全部屋賃貸住戸という形をとり、家族はそれぞれの住戸を「個室」として選んで住む。
全ての住戸は階数や住戸間のヒエラルキーを作らず、全て異なるプランとすることで時間に対する柔軟さを(家族構成の変化に応じて建物内を移り住んでいく)、専有部/共有部間を閉じるでも開くでもなく、破線状のエッジとすることで身体に対する適度な距離感を(今までの住まいと同じ感覚でそれぞれの気配を感じる)、それぞれ併せ持った「大きな家」である。

建築家によるテキストより
H・アルキテクトスが、2021年4月にバーバード大学の主催で行った講演「Where the Invisible Becomes Visible」の動画

スペイン・バルセロナを拠点とするH・アルキテクトスが、2021年4月12日にバーバード大学の主催で行った講演「Where the Invisible Becomes Visible」の動画です。

H ARQUITECTES is an architecture studio founded in 2000 by David Lorente, Josep Ricart, Xavier Ros and Roger Tudó. They combine their professional activity teaching in the ETSAV-UPC, ETSAB-UPC and Harvard GSD.

Their works have received several national and international awards, including the European Award for Architectural Heritage Intervention 2019; shortlisted EU Mies Van der Rohe Award 2019, 2017; MAPEI sustainable building 2017; Brick Award 2016; Ugo Rivolta 2015; Public Prize FAD 2015; Shortlisted FAD Award in 2015, 2012, 2009; Fritz Höger Preis 2014; Sacyr Award 2012; Hise Award 2012; Enor Award 2011; SAIE Award 2011.

宮崎浩+プランツアソシエイツの設計で完成した「長野県立美術館」の動画。林昌二建築の建替えや谷口吉生建築に隣接する事でも注目

宮崎浩+プランツアソシエイツの設計で完成した「長野県立美術館」の動画です。日建設計の林昌二が設計した建築の建替えであったことや、谷口吉生が設計した「東山魁夷館」に隣接する事でも注目されていました。2021年4月15日にオープンしました。施設の公式サイトはこちら
また、長野県のサイトには竣工写真が12枚掲載されています。こちらのPDFでは簡易的な平面図を閲覧することもできます

以下は、美術館公式の紹介テキスト。

当館は1966年「長野県信濃美術館」として開館。50数年にわたり、長野県民らに愛されてきました。開館以来50数年を経て、全面改築。2021年4月「長野県立美術館」と名称も新たに生まれ変わりました。新たな本館の建物は、「ランドスケープ・ミュージアム」のコンセプトのもと、城山公園周辺の美しい景色と調和しつつ、その屋上からは国宝善光寺本堂を望む、みごとな眺めをお楽しみいただけます。
館内は充実した展示スペースのほか、無料で楽しめるゾーンも多く、老若男女、誰もが気軽に訪ねられる、公園のように自由な、まさに「開かれた美術館」をお楽しみください。

平田晃久が、群馬の「太田西複合拠点公共施設」設計プロポで最優秀者に特定。提案書も公開
平田晃久が、群馬の「太田西複合拠点公共施設」設計プロポで最優秀者に特定。提案書も公開 image courtesy of 平田晃久建築設計事務所

平田晃久建築設計事務所が、群馬の「太田西複合拠点公共施設」設計プロポーザルで最優秀者に特定されています。また提案書もPDFで公開されています。次点者は、新居千秋都市建築設計でした。

令和3年3月19日(金)に、技術提案書を提出した業者からプレゼンテーション及びヒアリングを実施し、その後、選定委員5名により厳正な審査を行った結果、以下のとおりとなりました。

川原達也+エレン・クリスティナ・クラウゼ / KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTSによる、ベルリン建築ギャラリーでの自身の個展「EQUIVOCAL」。会場構成も自身の作品として構想
川原達也+エレン・クリスティナ・クラウゼ / KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTSによる、ベルリン建築ギャラリーでの自身の個展「EQUIVOCAL」。会場構成も自身の作品として構想 photo©KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTS
川原達也+エレン・クリスティナ・クラウゼ / KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTSによる、ベルリン建築ギャラリーでの自身の個展「EQUIVOCAL」。会場構成も自身の作品として構想 photo©KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTS
川原達也+エレン・クリスティナ・クラウゼ / KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTSによる、ベルリン建築ギャラリーでの自身の個展「EQUIVOCAL」。会場構成も自身の作品として構想 photo©KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTS

川原達也+エレン・クリスティナ・クラウゼ / KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTSによる、ベルリン建築ギャラリーでの自身の個展「EQUIVOCAL」です。会場構成も自身の作品として構想されています。会期は2021年4月24日まで。展覧会の公式ページはこちら

EQUIVOCALと名付けたこの展覧会は,われわれの最初の10年の活動を振り返る現在ベルリンで開催中の個展となります.

EQUIVOCALとは,「幾つもの意味にとれる」とか「多義的」などと訳されますが,これはコーリン・ロウがその著作で頻繁に使うことばです.彼の批評の多くは,目で見てわかること(感覚)と,理解してわかること(知性)との重層的な,ときに対立的な関係を踏まえての観察に拠っていますが,われわれのタイトルの意味も彼の用法にならっています.

建築家によるテキストより

展覧会にはこれまでのプロジェクトから大小さまざまなスタディモデルのみを持ち込み,またギャラリースペース全体を使ったインスタレーションもあわせて制作しました.三角錐をさかさまにした各モジュールは,梱包材として使われる紙のバンドを薄くそいだものを転用しています.コンセプトモデルに見られるようなモジュールの立体は,紙バンドの線が作る面を通して現れ,これらモジュールを互いに回転させながら配置したインスタレーションは単純な長方形のギャラリースペースにたくさんのプリーツ(ひだ,折り目)を作り出します.

建築家によるテキストより
白井晟一の建築展「白井晟一 入門」が、自身が設計した渋谷区立松濤美術館で開催

白井晟一の建築展「白井晟一 入門」が、自身が設計して1980年に完成した渋谷区立松濤美術館で開催されます。第一部の会期は2021年10月23日~12月12日。第二部の会期は2022年1月4日~1月30日。

白井晟一(1905-83)は、戦後日本において独自の存在感を放った建築家です。京都に生まれ、ドイツで哲学を学んだ後に独学で建築の道に進み、大衆社会へと突き進む時代状況に警鐘を鳴らすかのような、重厚な作品群を発表しつづけました。
本展の第1部では、全国にいまなお残る白井建築を中心に、初期の木造住宅から後期の記念碑的建築までを紹介。これまであまり触れられることのなかったその人的・文化的ネットワークにも注目し、新たな白井晟一像を探ります。
第2部では、白井晟一晩年の代表作である松濤美術館を開館当初の状態に近づける、「建物公開」を行います。通常、展示室に設営されているさまざまな壁面パネルが取り外されることで、限られた条件の下に白井が創造した、光や空間の広がりを感じることができます。また、ヨーロッパやアジア各地から集められた愛蔵の調度品も展示。白井晟一のオリジナルな美術館構想を体験的に明らかにします。

『建築家ビャルケ・インゲルス氏:「快楽主義的持続可能性」を語る』(Bloomberg)

『建築家ビャルケ・インゲルス氏:「快楽主義的持続可能性」を語る』という動画が、Bloombergに掲載されています。BIGが設計した屋上がスキー場になっている発電施設と、その背景にある思想について語っています。日本語字幕付。

以下の動画はyoutubeにアップされた英語字幕版。

デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツによる、兵庫・川辺郡の「猪名川霊園礼拝堂・休憩棟」
デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツによる、兵庫・川辺郡の「猪名川霊園礼拝堂・休憩棟」 photo©Keiko Sasaoka
デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツによる、兵庫・川辺郡の「猪名川霊園礼拝堂・休憩棟」 photo©Keiko Sasaoka
デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツによる、兵庫・川辺郡の「猪名川霊園礼拝堂・休憩棟」 photo©Keiko Sasaoka

デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツによる、兵庫・川辺郡の「猪名川霊園礼拝堂・休憩棟」です。
同事務所は基本設計・デザイン監修を手掛けています。詳細なクレジットは末尾を参考ください。

こちらは建築家によるテキストの翻訳

猪名川霊園は、大阪から北へ約40km離れた兵庫県にある北摂山系の険しい場所に位置しています。墓地は段々畑のようになっていて、一番高い場所にある神社へと続く記念碑的な階段で二分されています。そして、この階段がプロジェクト全体の軸となっています。

ヴィジターセンターとチャペルは、外の世界と内の静かな空間との間の顕著な境界として設計されています。中央の階段に沿って、神社と対をなすように、ビジターセンターとチャペルは中庭を囲むように配置されています。来訪者は、南東側の階段状のファサードに設けられた中央の広いフレーム付きの開口部につながる外部プラットフォームからこの空間にアプローチします。

プログラムは単一の傾斜した屋根面の下に形式的に配置されており、エントランスから神社までのヴューラインに沿っています。ヴィジターセンターの部屋は中庭に面していますが、隠れ家的なチャペルは独立しています。チャペルへは、外から直接アクセスするか、庭から緩やかなスロープを上って、独立した廊下を通って行くことができます。暖房と人工照明を最小限に抑えた、飾り気のない静かな部屋は無宗派の瞑想空間として、純粋な形で提供されています。両側の庭園からの間接的な日差しを頼りに、チャペルを訪れる人々は静寂に包まれ、日照時間の変化や季節の葉の変化などの自然の指標を通して、本質的な時間のリズムに意識がむけられます。すべての庭園の植栽は、日本の牧草地や森林の色調や質感からインスピレーションを得ています。厳選された草、低木、野草が注意深く配置されています。

中庭の対角線上にあるのがヴィジターセンターです。屋根の下端にある2つの大きな部屋は、家族の集まりや記念日に利用できます。ヴィジターラウンジは、休憩や食事ができるカジュアルなエリアです。メモリアルルームは、布に和紙を貼ったプリーツカーテンで3つの小部屋に分けることができ、儀式の後の正式な食事の場となっています。

床、壁、屋根は純粋な建築要素として形成されており、同じ土のような赤色のコンクリートを使用しています。内部の床や地面はホーニング仕上げ、通路の壁や屋根はサンドブラスト仕上げとなっており、全体的にモノリシックな外観となっています。このプロジェクトのために特別にデザインされた家具は、シンプルでカジュアルな塗装が施された木製の椅子、ベンチ、テーブルで構成されており、機会に応じて配置を変えることができます。

敷地の両端を結ぶ軸線に沿って、山頂から建物に向かって階段の途中に水が流れるようになっています。階段の下側、チャペルの近くに差し掛かると、水の流れは緩やかになり、溜まりとなって樋に集められ、敷地の下に新たに設けられた地下水路を通って近くの運河へと流れていくようになっています。

ネリ&フーによる、韓国・ソウルの、ファッションブランドMCMの旗艦店「MCM HAUS」。既存の5階建の建物等を改修
ネリ&フーによる、韓国・ソウルの、ファッションブランドMCMの旗艦店「MCM HAUS」。既存の5階建の建物等を改修 photo©Dirk Weiblen
ネリ&フーによる、韓国・ソウルの、ファッションブランドMCMの旗艦店「MCM HAUS」。既存の5階建の建物等を改修 photo©Dirk Weiblen

ネリ&フーによる、韓国・ソウルの、ファッションブランドMCMの旗艦店「MCM HAUS」です。既存の5階建ての建物と付属の駐車場タワーを改修した建築です。店舗の場所はこちら

以下、建築家によるテキストの翻訳

プロジェクトの概要は、ソウルの高級地区である江南(カンナム)にあるMCMの新しい旗艦店として、既存の5階建ての建物と付属の駐車場タワーを改修することでした。ネリ&フーは、MCMの強いブランドストーリーとドイツのルーツを考慮し、ブランドの伝統へのこだわり、クラフトマンシップとディテールへのこだわりに忠実でありながら、デジタル時代の進歩を祝福するMCMの姿勢を体現するような旗艦店のデザインを目指しました。
ネリ&フーは、新しい旗艦店のデザインコンセプトとして、製造業における実験的な試みと、クラフトマンシップや伝統的な芸術を融合させたバウハウスの動きにインスピレーションを得ました。 新店舗は、江南地区の単なる建築物としてではなく、MCMブランドの新たな「家」としての役割を果たすべきであると考えました。
つまり、工業、グラフィック、家具、インテリアデザイン、建築など、バウハウスの芸術的媒体の総体を体現する家でなければならないのです。

バウハウスの精神は、旗艦店の新しい金属製のファサードに表現されており、建物は重厚なコンクリートの土台の上に、厳選された窓の開口部を持つ骨董品箱のようになっています。 既存の建物は2つの独立したファサードとして構成されていましたが、主な課題は容積率を維持しつつ、1つの建物として認識されるような新しいファサードを作ることでした。 新しいファサードを支えるために、追加の構造補強が必要となりました。
新しいファサードは、駐車場タワーと店舗エリアの間の不規則なスラブエッジのギャップを埋めるために直線化され、単一の塊を形成しています。 クライアントの限られた予算と4ヶ月という工期を考えると、ファサードのソリューションは、経済的な手段で最大限の視覚的インパクトを与える必要がありました。 北向きのファサードに対応して、自然光をできるだけ多く反射させるためにブロンズ色の金属を選択し、400mmの深さの窓を設けて、レリーフと影を導入しました。この大きな開口部は、視覚的に、商品や内部の活動をフレーム化するのにも役立っています。ブロンズ色の金属メッシュは、大きな開口部を覆うようにヴェールをかけ、ファサードに奥行きとテクスチャーのレイヤーを与えています。頑丈なコンクリートの台座は、歩行者のスケールに合わせたストリートスケープの存在感を示し、視覚的に商品のための専用のショーウィンドウを提供しています。

杉本博司と榊田倫之による新素材研究所のモノグラフ『Old Is New 新素材研究所の仕事』をプレビュー
杉本博司と榊田倫之による新素材研究所のモノグラフ『Old Is New 新素材研究所の仕事』をプレビュー

現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之による新素材研究所のモノグラフ『Old Is New 新素材研究所の仕事』がamazonで発売されています。本記事では書籍の中身をプレビューします。

こちらは杉本が本書籍に寄せたテキスト。

表紙の絵柄について

この本のジャケットには抽象画が採用された。しかしこの絵は初めから抽象画として描かれたものではない。それは偶然に絵となったものだ。私は熱海にあるMOA美術館全面改修にあたって、全長17メートル、高さ4メートルの壁を6面、日本の伝統工法である黒漆喰でおおうことにした。漆喰は土だ、そしてコテで塗られる。現代建築は乾いた材料を好む。しかし伝統工法は湿式工法が多い。この巨大な壁面を目地なしで仕上げるには1面を1日で終わらせなければならない。熟達の職人が3人集められた。1人ひとりコテの運びが違う。伝統工法を用いてこれだけの巨大面を仕上げたことは、日本建築史上ないのではないかと自負している。漆喰そのものが稀になった現在、普通は白の漆喰に炭の粉を混ぜて黒にするのはさらに稀だ。乾くのに時間がかかる。数日後、その面に立ち現れたのはほぼ無意識のコテの痕跡だ。私はそこに意識を超えた美しさを見出すのだ。大昔、人が意識と無意識の狭間で描きはじめた洞窟壁画もこのようにはじまったのに違いない。
Old Is New、忘れられた古代の魂、私は現代にあって、その魂の姿をもう一度見てみたいのだ。
(杉本博司)

書籍より
杉山幸一郎による連載エッセイ “For The Architectural Innocent” 第9回「与条件を立てる / 素材絵画」
杉山幸一郎による連載エッセイ “For The Architectural Innocent” 第9回「与条件を立てる / 素材絵画」

 
※このエッセイは、杉山幸一郎個人の見解を記すもので、ピーター・ズントー事務所のオフィシャルブログという位置づけではありません。

 


 
与条件を立てる / 素材絵画

 

text:杉山幸一郎

 
 
ピーターズントーは、これまで数多くの建築を設計してきましたが、その中に実現した集合住宅は2つしかありません。
バーゼル近郊にある«シュピッテルホーフ集合住宅 / Spittelhof Housing (1996) »と、クールにある«マサンサの老人ホーム / Home for Senior Citizens (1993) »です。

今回は、«マサンサの老人ホーム »について考えてみたいと思います。

このアルプスの山の麓に建つ有料老人ホームは、ある程度のケアが必要であるけれど、自分一人で生活ができる人が入居対象となっている、いわば高齢者のための集合住宅のような施設です。

各住戸にはリビングダイニングと寝室があり、クローゼットを挟んで引き戸によって緩く隔てられています。さらに廊下側にはキッチンのボックスと水回りが付け加えられ、反対側にはバルコニーもある。
そこから眺める夕日は、クールに住んでいる人なら誰もが知っている最も美しい日常の一コマです。

玄関から入って、共用廊下を通って各住戸に入る。そして奥のバルコニーへ。
教科書にあるような平面計画でタイポロジーとしてはとても単純です。

同じ敷地内には他にもいくつかの建物が建っています。それらを、ひとまとまりとして使うこともあるのか、今回紹介する建物にはレクリエーションのための部屋はありません。代わりに廊下が十分な幅をもって計画され、また床から天井まで続く開放的なガラス窓のおかげもあって、大きな共有リビングのようなスペースになっています。

同じクール (Chur) に建っている、以前紹介した«ローマ遺跡のためのシェルター(第6回の記事を参考)»から7年後の1993年に竣工。80-90年代にかけて設計された木造の«ズントーアトリエ(第4回の記事を参考)»や«ベネディクト教会(第7回の記事を参考)»に比べるとこの老人ホームはひとまわり大きいプロジェクトです。

そして、現在のズントーデザインに見られるような、多様な素材の用い方から始まり、開口部や建具のデザイン、何より全体を取りまとめる建築アイデア«Architectural Idea»の明確さにおいて、現在の文脈に最も沿っている、初期のプロジェクトではないかと僕は考えています。

藤本壮介とWOHA マン・サム・ウォンによる「未来の建築―新しい空間とつながりの創造にむけて」をテーマに行われた講演の動画。国際文化会館の主催で行われたもので日本語同時通訳版

藤本壮介WOHA マン・サム・ウォンによる「未来の建築―新しい空間とつながりの創造にむけて」をテーマに行われた講演の動画です。2021年2月5日に国際文化会館の主催で行われたもので日本語同時通訳版です。英語でのオリジナル版はこちら

インド太平洋地域の未来を創るリーダーによるウェビナーシリーズ。第4回は、世界的に活躍する建築家の藤本壮介氏と東南アジアを代表する建築事務所WOHAの設立者であるシンガポールの建築家マン・サム・ウォン氏にご登壇いただきます。

住環境や労働環境の変化が著しいコロナ時代において、人と人、人と自然のつながりや空間は今後どのように変わっていくのでしょうか。それらのつながりや空間の創造に携わる両氏に、未来の建築像について伺います。

三井嶺建築設計事務所による、神奈川・逗子市の住宅「逗子の家『森の図書館』」
三井嶺建築設計事務所による、神奈川・逗子市の住宅「逗子の家『森の図書館』」 photo©三井嶺建築設計事務所
三井嶺建築設計事務所による、神奈川・逗子市の住宅「逗子の家『森の図書館』」 photo©三井嶺建築設計事務所

三井嶺建築設計事務所が設計した、神奈川・逗子市の住宅「逗子の家『森の図書館』」です。

急峻な小山の麓に建つ、数万冊の蔵書を納める図書館のような住まい。

「図書館」の片隅に「司書」として住む場所があればよいとの要望だった。ゆえにリビング・ダイニングといった室名の部屋はない。住宅として必要な寝室・キッチンなどの他は全て閲覧室と書架に充てている。

本に集中できるよう、”透明”に替わり意識に溶ける構成要素を考えた。

1. 緑色の壁と小さな景色。
森の記号としての緑色をメインに、意識に溶け込む色を配した。山や空を印象的に切り取る窓による小さな景色は、色のついた壁へと拡張され、壁の存在は薄れる。

2. 時間軸を混在させる本棚。
博物館から貸与を受けたもので、あえて残した傷やラベルが時間の厚みをもたらし、意識にストレスなく馴染む。

3. わずかにむくりをつけた三次元曲面の屋根。
山から覆いかぶさる木々の枝をモチーフに、小さな木材を敷き重ねた。山の勾配に合わせるように緩やかなカーブを描きつつ、短手にもほんのりとむくりをつけた3次元シェルの構造が閲覧室を柔らかく包み込む。さらに中央部にスリットを切り、隙間を押し広げるようにして光をわずかに取り込んでいる。木が束となった構造は、スリットを切られたことで量塊の重々しさが薄れ、移ろう光を受けることで木漏れ日の降る森の木々へと再び還元される。

窓は少なく物理的には閉じた空間ではあるが、透明であるよりも建築の存在は意識に溶け、本の中の世界へと思いを馳せることができる。

建築家によるテキストより
武保学 / きりんによる、三重・伊賀市の店舗「場所を見守る土産物店」
武保学 / きりんによる、三重・伊賀市の店舗「場所を見守る土産物店」 photo©山内紀人
武保学 / きりんによる、三重・伊賀市の店舗「場所を見守る土産物店」 photo©山内紀人
武保学 / きりんによる、三重・伊賀市の店舗「場所を見守る土産物店」 photo©山内紀人

武保学 / きりんが設計した、三重・伊賀市の店舗「場所を見守る土産物店」です。

小さな建築であっても、いやむしろ小さな建築であるからこそ都市の文脈におけるあり方を表明することが、充実した都市空間をつくりだしていくと信じている.

今回、三重県伊賀市の中心部に5坪ほどの店舗を計画した.
店内には忍者や伝統工芸の組紐など、この地方にちなんだモチーフでデザインされたお土産物が並ぶ.

建築家によるテキストより

この店舗の向かいには、坂倉準三設計による「旧伊賀市庁舎」が建っている.
役所機能は移転したが、建物は今後図書館などの複合施設として活用される予定である.
ただ老朽化による改修コストの増大や建物の保存に対する根強い反対意見もあり、2年間空き家状態が続いている.

全国的に解体される流れにある近代の名建築を現代に生かすことができれば、ここは他のどこにもない価値を持った場所になる.
そういう場所のオリジナリティに目を向けて、場所をいつくしむ人が増えることを願っている.

建築家によるテキストより

場所を意識させる仕掛けとして、店内正面に大きな鏡を設置した.
商品の衣服を合わせる姿見としての役割と同時に、外の風景の広がりを店内に取り込んでいる.
内部に足を踏み入れた人は、静けさの中で鏡に溢れる風景と対峙することによって外に居るときよりも鮮明にこの場所特有の空気を感じることだろう.
それは車窓からの眺めが、実際の景色よりも記憶に残りやすいのと似ている.

建築家によるテキストより
「妹島和世氏が手掛けた日本女子大学・目白キャンパス 正式オープン」(建設通信新聞DEGITAL)

「妹島和世氏が手掛けた日本女子大学・目白キャンパス 正式オープン」という記事が、建設通信新聞DEGITALに掲載されています。妹島のコメントも紹介されています。

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