


山路哲生建築設計事務所が設計した、東京・世田谷区の「代田の家」です。
住宅街の“当たり前の再編集”も意識した計画です。建築家は、奥行の深い土地で“広がり”を獲得する為、短辺方向の壁面の代わりに“ブレース”を吹抜などに配する建築を考案しました。そして、時代と呼応する“斜めの大黒柱”としても位置づけました。
建て主は夫婦と小さな子どもの家族でそれまでは都内にマンション住まいをしており、二人目の子どもを見据えて戸建てへの住み替えを検討されていた。
敷地は東京世田谷区の住宅街。一方通行の前面道路をもち、間口に対して奥行きの深い敷地をしている。
高密度な都市の住宅地にはありふれた形状であり、耐力壁を取ろうとするとどうしても短辺方向に袖壁や間仕切り壁がでてきてしまう。
プライバシーと耐震性の確保を理由に窓が小さく、間仕切り壁に仕切られた住宅が一般的だが、それでは2LDKの元のマンションと変わりがないためどうにかならないものだろうか、という相談を受けた。
そこで短辺方向の耐力を確保するために、ファサードと吹き抜けた階段室にブレースを露出させた。
そうすることで、開けた道路側に最大限大きな開口を設けることができるとともに、室内の間仕切り壁を無くし、平面的にも断面的にもずるずると繋がる広がりのある住まいをつくることができる。
中央の階段室に「動線」に加えて、「通風・採光」更に「水平耐力」という機能性を集中させることで、その他の室の自由度を高め、明るく風通しの良い住まいを実現した。
当該敷地は第一種低層住居専用地域にあたる。東京都において最も大きい面積を占める用途地域であり、世田谷区においても用途面積の約50%ものエリアを占めている。ありふれた敷地のありふれた条件だからこそ、「あたりまえの再編集」が必要だと考えた。
邪魔者のように隠されてきた耐力壁(ブレース)を吹き抜けのある家の中央に露出させる、という単純な操作だけで、家族内外のコミュニケーションが劇的に開放され、ブレースそのものにさえ愛らしさが感じられるようになった。美術館に置かれた小便器、デュシャンの泉のように。また地下から2階のリビングへ直通の階段を追加することで、書斎(勉強部屋)とリビングの体感的距離を縮めている。無くても動線は繋がるのだが、その直通階段によって2階と地下が1階によって切り離された場所にならず、どの部屋においても隣り合うような関係性を生み出している。
直通階段に沿うように地下から伸びるブレースは短辺方向の耐力を引き受ける構造材であるとともに、地下と2階、また家族同士を繋ぐ神経線維のようなものでもある。つまりそれは現代における大黒柱と呼んでまったく差し支えないだろう。