
SHARE 【ap編集長の建築探索】vol.025 青木淳+リチャード・タトル「ほぼ、空」

「ap編集長の建築探索」は、23年の歴史ある建築ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の編集長である後藤連平が、訪問した建築を紹介する連載シリーズです。論考のようなかっちりとした形式ではなく、現地で感じた雰囲気や空気感が伝わるような“ライブ感”のある文体で綴ります。読者の皆様も自身が建築を体験するように読んでいただければ幸いです。
青木淳+リチャード・タトル「ほぼ、空」
青木淳さんと、美術家のリチャード・タトルさんの展覧会「ほぼ、空」を拝見した。
会場は、初台の東京オペラシティアートギャラリー。(会期は2026年9月23日まで)
そして、本展をキュレーションをしたのは、同ギャラリーのシニアキュレーターである能勢陽子さん。前職の豊田市美術館では、石上純也展を企画担当した人物。今後も建築とアートを架橋する展覧会を企画してくれることも期待してしまう、、、!
最初に拝見したと書いたのだけど、既に別日で二回見学(体験)した。1回目は、プレス向けの内覧会で、青木さん、タトルさんの解説を聞きながらツアー形式で。2回目は翌日の展覧会初日に、自分のペースでこの展示を体験したくて訪問した。
意図せず、二つの形式でこの展覧会を経験することになった。もちろん、解説付きのツアー形式でも展覧会を楽しむことができたのだけれど、圧倒的に豊かな体験だと感じたのは後者、、、!本当に素晴らしい体験をすることができた!
自分の思うがままに展示室内を何度もぐるぐると回っているうちに、いろいろな気づきや発見、疑問が浮かび上がってる感覚があり、次第にそれは静かな心震えるような感動さえも呼び起こしてくれた、、、、!
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感覚を研ぎ澄まして体験することで自分の中で思考がどんどん進んでいく感覚がある展示というか。
何かの本で知覚心理学者のメルロ・ポンティが、「セザンヌの絵の前では目が考える」と書いていたのだけれど、この展覧会も見て回るうちに、勝手に目が色々なものを捉えて考えることを促される感覚がある。
具体的な展示の説明は後で書こうと思うのだけれど、この展覧会をぼくが一言で言うならば「空間づくりの教科書」だと強く思った、、、!
つまり、この展覧会を体験することで、空間をつくるということを頭で理解するのではなく「実感」できる存在だと思った。
この「教科書」という表現を気に入っていて、そのような建築に出会った使うことがあるのだけれど、これはその昔エルウィン・ビライ先生から、京都府立大学で教鞭をとった建築家の河西立雄さんが、ペーター・メルクリの「彫刻の家」をこう評していたと聞き、とても納得感を感じたことから僕も使うようになった。
この展覧会の会場に踏み入れて、空間の中に身を置き、見て周り、時間を過ごす。その時間の中で、空間をつくるということの意味や方法について自然と考えが促され気づきを得ることが出来る。そんな展覧会と言える、、、、!
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展覧会が素晴らしくて、勢いで綴ってきてしまったのだけれど、この辺りで、内容を簡単に説明したいと思う。
展覧会にあたって、まずタトルさんが三つのエレメント「柱、バスケット、色の帯」を提案したのだという。(青木さんによれば、タトルさんが「青木さんは建築家だから『柱』が良いですね」と提案したのだという)
そして、これらの三つの要素を青木さんがギャラリーの各空間に配置していく(実際には、青木さんとタトルさんの対話の中で計画は進んでいき、開幕二週間前からは二人で毎日長時間、ギャラリー内に滞在して展示を詰めていったのだという、、、!)
これら三つの要素がギャラリー内の様々な空間に、多様な形で配置される。例えば「柱」は、天井高のある空間にそびえ立っていたり、スラブを貫通するかのように存在していたりする。時には壁にめり込んでいたりする。
見上げたり、見下ろしたり、明るい中で見たり、暗い中で見たり、遠くから見たり、近くから見たりする。そんな様々な状況の中で、三つのエレメントを見ていると、また感じていると、その存在やそれを取り巻く空間に自然と思考が向いていく、自問自答することを促される。
また、ギャラリー自体も通常の使い方がなされていない。いつものこのギャラリーの用途がリセットされて、ショップであったところがギャラリーに、収蔵品展示室だった場所が、企画ギャラリーに。廊下のような繋ぎの空間であった場所が展示空間になったりする。そうして全ての空間が連続するようになっている。
そのような試みがなされている。
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序盤で「教科書」と言ったのは、先に少し書いたように、この展覧会の中で、本当に多様な経験をして考えることができるような側面を備えていると感じたからだ。
三つのエレメントは、アート作品でもあり空間をつくるモノでもある。展示室には明るい場所と暗い場所がある。柱は近くからも見れるし遠くからも見れる。また、見上げることもできるし見下ろすこともできる。バスケットには、植物が入れられていて無機的でもあり有機的でもある。展示室は自然光の場所もあれば人工光の場所もあるので光の条件が刻々と変わる。展示室には人がいる場合もあればいない場合もある。などなど。
そして、これらはハッキリと二分されているのではなく、グラデーショナルに繋がっている。だから、ぐるぐる回っていると、本当に多様な体験をすることができるし、ギャラリーという要素が限定された空間だからこそ、そこで得られた感覚を要素還元してその要因を考察しやすくもなっている、、、、!
この展覧会を訪問して自分の思うように動いたり佇んだりしながら思索していくことで「空間のつくり方」を自然と感覚的に理解することができる。改めてになるが、それが「教科書」と表現した理由だ、、、!
そして、振り返って改めて思うのだけれど、青木さんとタトルさんがコラボレーションしたからこそ、この展覧会になっているのだなとも。
芸術家であるタトルさんが、エレメントを作り上げたからこそ、それがモノではなく「作品」としての性質が付与されていて、そこに見え方や解釈の深みが格段に増している。
また、タトルさんが関与することで、計画自体にも理論では解ききれない難解さも加わっている。たとえば、柱の配置に関しては、そもそも、打ち合わせ時に、タトルさんが図面に向かって投げた石が落ちた場所が出発点なのだという、、、!(そんな計画の仕方があるのかと思った!)
最後に書いておきたいと思うのだけれど、本展は本当に写真で捉えるのが難しい(というかできない)。二人の作家が全身全霊で、知覚と体験にフォーカスして作り上げた展覧会なのだと思う、、、!なので、是非会期中に足を運んで、自身で体験してみてもらいたいと強く思った、、、!
青木さん、タトルさん、能勢さん、関係者の皆さん、開幕おめでとうございます!
(訪問日:2026年7月17日・18日 / 写真は内覧会時に許可を得て撮影)
後藤連平(ごとう れんぺい)
アーキテクチャーフォト編集長
1979年、静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織設計事務所と小規模設計事務所で実務を経験した後に、アーキテクチャーフォト株式会社を設立。23年にわたり建築情報の発信を続けており、現在は、建築と社会の関係を視覚化するウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の運営をメインに活動。著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)など。




