arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングから開口部越しにバルコニーを見る。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングからニッチを見る。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする バルコニー側からリビングダイニングを見る。夕景 photo©下村写真事務所
堤庸策 / arbol とwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」です。
コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まいです。建築家は、“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案しました。また、既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”としています。
コロナ禍を経て、多くの人が「本当に必要なものとは何か」を見直すきっかけを得ました。この住まいの住み手もまた、自宅という空間に対する意識が大きく変化したと語っておられます。
好きな家具や植物、アートなど、自分にとって大切なものだけを引き寄せる暮らし。それらを美しく引き立て、静かに受け止める背景としての住まいを整えることが、このリノベーションの出発点となりました。
今回のリノベーションでまず取り組んだのが、空間の大きな整理でした。住まい手のご希望は「和室をなくして、光が届く広いリビングにしたい」「細かい仕切りや廊下はできるだけなくしたい」という明快なもの。その意図を受け、既存の間取りを一新し、ワンルームのような広がりと一体感を持たせた空間へと再構成しています。
もともと存在していた和室は撤去し、リビングの一部として取り込みながら、視線と光がのびのびと行き交う空間に。壁ではなく天井に曲線をもたせることで、仕切らずに“場”の気配をつくる工夫も盛り込みました。
天井に描かれた大きな円弧の造作は、空間に柔らかい緊張感をもたらしつつ、光の陰影をやさしく受け止め、家具の輪郭を引き立てる存在になっています。マットな質感の左官調仕上げ「マーブルフィール」と間接照明の組み合わせが、陰影のレイヤーを生み出し、静かな奥行きをもたらしています。
空間全体において、「光が入る広いリビングがほしい」「廊下をなくしたい」「細かく仕切らずにすっきりと」という施主の希望は、空間の構成に大きく影響しました。その中でも、リビング南側の処理は設計上の要所のひとつでした。
もともとこの部分には、マンションの共用部に面した開口部がありました。しかし、そこから見える景色に心地よさはなく、採光の期待も薄い。そこで私たちは、「あえて閉じる」という選択を採用しました。
新たに立ち上げた壁面には、楕円形に切り抜いた開口部を設け、そこにワーロン材のスライド建具を組み込みました。これにより、外の視線や雑多な要素を遮りながら、やわらかい光と奥行き感だけを室内に取り入れることができます。
開口部の奥には、間接照明とTVボードを計画的に配置。テレビや照明を空間に馴染ませながら、まるでアートピースのように“演出する”工夫を施しました。これは、「生活感を隠したい」「機能性と美しさを両立させたい」という住まい手の意図に応えたものであり、“閉じることで魅せる”という、住まいづくりにおけるひとつの逆転の発想でもあります。
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arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする エントランス側からリビングダイニングを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする 正面:リビングダイニング、右:エントランス photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングから開口部越しにバルコニーを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする バルコニー側からリビングダイニングを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする バルコニー側からリビングダイニングを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする バルコニー側からリビング;ダイニングを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングからエントランス側を見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングからニッチを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングからニッチを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングの家具類 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニング側からベッドルームを見る。 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする ベッドルーム photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする ウォークインクローゼット photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする キッチン photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする 洗面所 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする キッチン側から洗面所を見る。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする トイレ。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする エントランス。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする エントランス側からリビングダイニングを見る。夜景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする 正面:リビングダイニング、右:エントランス。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングから開口部越しにバルコニーを見る。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする バルコニー側からリビングダイニングを見る。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングからニッチを見る。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする リビングダイニングからニッチを見る。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする ベッドルーム。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする ベッドルーム。夕景 photo©下村写真事務所
arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」。コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まい。“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案。既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”とする 平面図 image©arbolとwalk scape
以下、建築家によるテキストです。
光が触れる、グレージュの静謐。
──北欧とモダンのあいだを漂う、ミニマルリノベーション──
「帰ってくる場所」としての選択
計画地は、阪神間でも特に落ち着いた空気が漂う西宮の一角。学生時代から長く親しんできたこのまちに、暮らしの拠点を設けるという選択は、住み手にとってごく自然な流れだったように感じます。
初めてお会いしたのは、梅田のオフィスで開かれたarbolの相談会にて。その後もゆっくりとご自身のライフスタイルや価値観を見つめ直しながら、「いつかこの場所で、自分の感性に寄り添う住まいを持ちたい」という想いを大切に育ててこられました。
数年の時間を経てあらためてお声がけいただき、設計が始まりました。
コロナ禍を経て見直した“暮らしの輪郭”
コロナ禍を経て、多くの人が「本当に必要なものとは何か」を見直すきっかけを得ました。この住まいの住み手もまた、自宅という空間に対する意識が大きく変化したと語っておられます。
好きな家具や植物、アートなど、自分にとって大切なものだけを引き寄せる暮らし。それらを美しく引き立て、静かに受け止める背景としての住まいを整えることが、このリノベーションの出発点となりました。
光を導き、廊下をなくすワンルーム的な空間構成
今回のリノベーションでまず取り組んだのが、空間の大きな整理でした。住まい手のご希望は「和室をなくして、光が届く広いリビングにしたい」「細かい仕切りや廊下はできるだけなくしたい」という明快なもの。その意図を受け、既存の間取りを一新し、ワンルームのような広がりと一体感を持たせた空間へと再構成しています。
もともと存在していた和室は撤去し、リビングの一部として取り込みながら、視線と光がのびのびと行き交う空間に。壁ではなく天井に曲線をもたせることで、仕切らずに“場”の気配をつくる工夫も盛り込みました。
天井に描かれた大きな円弧の造作は、空間に柔らかい緊張感をもたらしつつ、光の陰影をやさしく受け止め、家具の輪郭を引き立てる存在になっています。マットな質感の左官調仕上げ「マーブルフィール」と間接照明の組み合わせが、陰影のレイヤーを生み出し、静かな奥行きをもたらしています。
見せないことで整える収納と水まわり
機能性と美しさの両立は、この住まいの大きなテーマのひとつでした。特に水まわりに関しては、「生活感を隠したい」「機能的かつすっきりとまとめたい」というご要望に応え、元の配置は大きく変えずに、空間構成と素材の工夫で調和を図りました。
キッチン、浴室、トイレの床には、住まい手の理想だったマットなタイルを採用。ひと続きの素材感で空間をつなぎながら、視覚的なノイズを抑え、クリーンな印象を保っています。
また、玄関から水回りまでをゆったりとつなぐ動線上には、大容量のウォークインクローゼットを配置。「物が多いので、すっきりと片付けられるスペースがほしい」という要望に対し、収納力だけでなく、生活導線と一体化させることで、日々の暮らしの快適さにもつながる設計としています。
南側ニッチの工夫 ──「閉じて魅せる」逆転の発想
空間全体において、「光が入る広いリビングがほしい」「廊下をなくしたい」「細かく仕切らずにすっきりと」という施主の希望は、空間の構成に大きく影響しました。その中でも、リビング南側の処理は設計上の要所のひとつでした。
もともとこの部分には、マンションの共用部に面した開口部がありました。しかし、そこから見える景色に心地よさはなく、採光の期待も薄い。そこで私たちは、「あえて閉じる」という選択を採用しました。
新たに立ち上げた壁面には、楕円形に切り抜いた開口部を設け、そこにワーロン材のスライド建具を組み込みました。これにより、外の視線や雑多な要素を遮りながら、やわらかい光と奥行き感だけを室内に取り入れることができます。
開口部の奥には、間接照明とTVボードを計画的に配置。テレビや照明を空間に馴染ませながら、まるでアートピースのように“演出する”工夫を施しました。これは、「生活感を隠したい」「機能性と美しさを両立させたい」という住まい手の意図に応えたものであり、“閉じることで魅せる”という、住まいづくりにおけるひとつの逆転の発想でもあります。
この一角に、空間全体のリズムと奥深さが宿りました。
家具と色、感性のままに整える
住まいの中心には、「好きな家具を置いて過ごしたい」という明確な想いがありました。北欧のやさしさとミッドセンチュリーの素材感を織り交ぜるような家具を空間に迎え入れ、それを引き立てる余白を空間設計で整えています。
空間全体には、白ではなく淡いグレージュを基調に採用し、やわらかく品のある雰囲気を演出。住まい手のご希望である「モダンさと上品さを持ちながら、色も楽しみたい」というバランスを意識し、観葉植物や絵、ポイントカラーのアイテムが調和するよう配慮しています。
また、寝室はパブリック空間と明確に差別化。トーンを落とした素材や間接照明を用い、落ち着きと安心感を高める設えとしました。「寝室は空気感を変えたい」という住まい手の要望に、空間全体の設計言語を崩すことなく丁寧に応えています。
空気の質までデザインする
arbolからの提案で採用されたのが、オンダレスによる「第1種ダクトレス排気」システム。これは、室内と外気の温度差を最小限に保ちながら、新鮮な空気を取り込み続ける高性能な換気方式です。
換気性能を高めながら、冷暖房の効率も向上させるエコな設備は、目には見えないけれど、快適性に大きく影響する部分。素材や光と同じくらい、“空気”という設計要素にもこだわりました。
また、写真には映らないながらも重要なのがカーテンの設え。普段から閉めたままの生活を想定し、2箇所のカーテンには質感と色味にこだわった素材を使用し、空間に自然に溶け込むよう配慮しています。
最小限の中に、豊かさを見出す
この住まいには庭もなく、華美な装飾もありません。それでも、素材と光、奥行きと余白、そして“好きなもの”に対する誠実な眼差しが、空間を豊かに彩っています。
暮らしに必要なものだけを丁寧に置き、それを支える背景を整える。潔くそぎ落とされた空間だからこそ、静かに語りかけてくるものがある──そんな住まいが完成しました。
■建築概要
所在地:兵庫県西宮市
基本設計・実施設計・現場監理:arbol 担当/堤庸策、walk scape 担当/飯田航起
施工:株式会社稔工務店
照明:大光電機株式会社 担当/花井架津彦
空調:ジェイベック株式会社 担当/高田 英克
キッチン・浴室:神戸スタイル(吊戸棚は造作)
インテリアスタイリング:raum
構造:RC造(鉄筋コンクリート)
床面積:約76.56㎡
設計期間:2024年9月~2025年2月
工事期間:2025年3月~2025年7月
テキスト:madoca
撮影:下村写真事務所