



nevertheless / 佐河雄介建築事務所が設計した、埼玉の「耕作する家」です。
畑に面する設計者の自邸です。建築家は、農業の連作障害への対策に“暮らし”との共通性を見出し、居場所を移動しながら生活する“奥行という階層”をもつ建築を考案しました。また、計画への幾何学的介入は“根源的な別の在り方”の生成を意図しました。
自邸である。
独立して事務所を構える時に、自宅近くに惹かれる貸オフィスがなかった。そんな折に、親族が持つ住宅街にポツンと残った畑の環境に惹かれ、畑に併設した倉庫の一部を間借りして仕事をしていた。はじめは板一枚を買ってきて、机1つに蚊取線香で仕事を始めた。そのうち暑さに耐えかね、倉庫内に小屋をつくることにした。近所の材木屋から格安で木材を提供してもらい、セルフビルドでつくり上げた。それから現場に行く以外はほとんどの時間を畑の前で過ごした。
畑の前に毎日いると、学ぶことが多かった。野菜の旬は本当に一瞬で、それぞれの旬を逃さないように注意深く観察した。そして、旬を1番熟知しているのは野鳥ということがわかった。
農業では、同じ場所に同じ作物を栽培し続けると、土壌の栄養バランスが崩れ、生育に障害をきたす「連作障害」という現象がある。そのため、同じ作物を育てる際には、毎年少しずつ場所を移して栽培する。この現象は人の暮らしや営みでも同じことだと考えた。
均質空間がそれぞれに与えられてもいずれバランスを崩す。だからこの住宅は、時間と共に変化する家族の関係性に応じて、小さな居場所を住人が移動しながら生活することで、部分と全体が呼応するような場のつくり方をしている。具体的には、同サイズの個室を平面的に反復するのではなく、奥行という階層をもって空間を連ねている。
もう一つの試みとして、屋根を円弧状に切り欠いたように、軸組として率直なプランをつくる一方で平面・断面にいくつか幾何学的な介入をしている。出自とつながりをつくる畑や土間といった強いコンテクストで連関をつくりながらも、幾何学という極めて強い形を用いることで、ある種関係性を切断している面を持ちたいと考えたからだ。
大屋根や土間といった伝統空間がもつ本質的営みと異質な幾何学形状の介入が、家族や時間とは別の次元の、もっと根源的な別のあり方を生成させるようなきっかけだと今のところは考えている。
仕上げにはラワン合板のほか、白・ベージュ・ピンクの3色を散りばめた。アクリル絵の具で調色しながら選んだ色は、部屋ごとに定められた秩序をもたず、部位ごとに自由に配された。そのため、光の揺らぎに応じてコントラストが浮かび上がったり、淡く溶け合ったりし、空間にささやかな変奏を生み出している。










