
SHARE 【ap編集長の建築探索】vol.029 谷口幸平 / and to 建築設計事務所「グリムシングハウス」

「ap編集長の建築探索」は、23年の歴史ある建築ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の編集長である後藤連平が、訪問した建築を紹介する連載シリーズです。論考のようなかっちりとした形式ではなく、現地で感じた雰囲気や空気感が伝わるような“ライブ感”のある文体で綴ります。読者の皆様も自身が建築を体験するように読んでいただければ幸いです。
谷口幸平 / and to 建築設計事務所「グリムシングハウス」
ある雨の日のこと、谷口幸平さん率いるand to 建築設計事務所が設計を手掛けた都内の住宅「グリムシングハウス」に伺う機会を得た。
谷口さんは、中村拓志さんが主宰するNAP建築設計事務所で経験を積み独立した建築家で、様々なアワードも受賞も多い実力者だ。特に別荘や規模感のある住宅の設計を数多く手がけており、素材の使い方の巧みさも印象的である。
丁度、このグリムシングハウスの1年点検が行われるということで、谷口さんにお声がけを頂き訪問に至った。偶然にも、訪問の少し前に「アーキテクチャーフォト」にてこの作品を紹介させて頂いており、写真の中のイメージを頭の中に残しつつ、現実の空間の体験をすることになった。
住宅街の比較的細めの道路を歩いていくと、このファサードに出会う。
写真で見ると、ヴォリューム感がある印象だったのだけれど、実際に目の前にすると、ガレージ上のヴォイドや、玄関上のハイサイドライトが視線の抜けを作っていて、圧迫感を感じることはなかった。
そして、次に目に入ったのは、竹を型枠としたコンクリート壁のテクスチャー。これも写真で伝えるのが難しいのだけど、実に雰囲気があり良い味わいだった、、、! 丁寧さとラフさと一点ものの感覚のどれもがあるというような、、、。
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そもそも、この住宅は谷口さんたちが得意とする、いわゆる「豪邸」というカテゴリーに当てはまると思うのだけれど、この竹型枠のコンクリート壁が、建築的な面白さのみならず、誰もが感じられるクラフト感、手仕事感、ラグジュアリー感を持ち得ていて凄いなと思った。
僕は谷口さんたちの初期作品から写真で拝見していたのだけれど、その特徴として、建築の空間性とラグジュアリーな感覚のどちらも諦めることなく高いレベルで融合させようとする意志と姿勢を感じていた。
それをこの建築の様々な場所でも感じたのだけれど、この竹型枠コンクリート壁もそれを強く感じた部分だった。
また、この壁の前に植栽として実際の竹が配置されているのも面白い。
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中に入ると、大きく面積を取って上階にある居室までに長いアプローチが取られている。外部的な内部空間であり、街と住まいの間にあり、その関係を調停する空間。そして、家に帰ってきた時の気分を“アゲ”てくれる空間でもある、、、、!
また、手すりは、金属パイプを加工して作られているのだけど、これも竹を抽象化させたようなデザイン。こちらも工芸を感じさせつつ、その記号的な意味でも内外を繋いでいる。
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階段を登り廊下を抜けると、靴を脱ぐ場所があり、キッチンとダイニングの空間がある。
そして、その奥には暖炉を備えた、二層吹抜けのリビング空間が配置されている。
このリビング空間が、この住宅建築の中心となる場所なのだけれど、様々な視点で見下ろすことができる場所となっていて興味深かった。
ダイニングから少し見下ろす視点、2階への階段の踊り場から見下ろす視点、2階の第二リビングから見下ろす視点。
違った高さと方向からリビングを見下ろすことができて、様々な空間の関係性の中心として位置づけられていることがよくわかった、、、!
また、庭にも出させてもらったのだけれど、隣地との段差がうまく生かされた配置計画と植栽計画によって、都市の中にありながら自然を十分に感じさせてくれる空間となっていて、非常に居心地が良かった!!
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ここまで、空間の説明を書き綴ってきたのだけれど、今回は谷口さんに加えてお施主さんのお話も伺えたことがとても良かった。
お施主さんからは、とても楽しそうにこの家を作り上げるまでの打ち合わせ時のエピソードを聞かせてもらった。
特に印象的だったのが、谷口さんのこだわりポイントの話。谷口さんは空間の中で素材として重いものが下にあり、軽いものが上に位置していないと違和感を感じるのだそうだ。その感覚が、打ち合わせでも多数発動して、様々な場所のデザインも決まっていったのだという。
これを聞いて、谷口さんは自身の価値観に非常に敏感であり、またそれを自覚している人なのだなと思った。ぼくはこれは作家には確実に必要な能力だと思っていて、「自分だけの好き」や「自分だけの価値観」を見つけて、それを精度高く具現化することが独自の作家性に繋がっていくのだと考えている。それを、お施主さんと谷口さんと話している中で思い出した。
また、1階の屋外テラスで谷口さんと長い立ち話をさせてもらったのだけど、その時の話も非常に面白かった。
その中からひとつトピックを紹介すると、建築家としての生存戦略の話があった。建築家がこの現代という厳しい時代にどうサバイバルしていくのかは、僕自身の興味でもあるので、楽しく話ができた、、、!
谷口さんは、自身の第一作品である住戸リノベを設計している際に、その空間性を高めるのはもちろんのことだけれど、如何に新築の仕事につながる作品になるのかも深く考えていたのだという。リノベでありながら、植栽を窓辺に持ち込む計画や丁寧に仕上げられたその空間は、結果としてその写真を見る人の想像力を喚起して、リノベ作品ながらも、この作品を見て、新築の依頼が来ることもあるのだという。このエピソードは凄いなと。
建築家が設計する際に、空間性以外のことを考えるということに、もしかすると異論があるかもしれないのだけれど、ぼくは建築というものはそんなに狭い器ではないと思っていて、建築家が考えれば考えるほどその思考を盛り込んでいける大きな器だと思っている。なので谷口さんのお話には大いに共感したし、学びを得た、、、!
また、ここでは詳細を書く余裕がないのだけれど、豪邸を主体として手がける建築家としてのポジショニングの話もとても面白かった!
長くなってしまったのだけれど、そろそろ(強引に)まとめに入りたいと思う。
谷口さんの建築からは、最初に少し書いたように、建築の空間性を追求する姿勢と、施主が求めるラグジュアリーな感覚の、両者を追求して融合させようとする姿勢を強く感じた。
例えば、ダイニングから庭に出るところに貼られている石材の話になったのだけれど、谷口さんは、その石を質感の感じられる豪華な素材であるという側面と、光を適切に反射して空間に現象を起こす機能的な側面の両側から考えて、使うことを判断した。というお話を伺った。
このエピソードは、谷口さんの姿勢を明確に表すものだと感じた。社会的ニーズに応えつつ作り上げる住宅を建築として世に発信する姿勢である。
そして、谷口さんが主戦場としているのは、いわゆる「豪邸」という分野なのだけれど、そのほかのカテゴリー、例えば店舗内装でもそのような、ニーズに応えながら建築としていくという姿勢は可能だろうと思えた。
そしてそれは、社会の中で建築を作るという視点において、とてもリアリティのあるスタンスだとも思えるし、実務の中で「建築」という概念を構成に継承していく尊い姿勢だとも思えた、、、!
谷口さん、お施主さん、スタッフの皆さん、この度は貴重な機会をありがとうございました!!!
(訪問日:2026年9月16日)
後藤連平(ごとう れんぺい)
アーキテクチャーフォト編集長
1979年、静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織設計事務所と小規模設計事務所で実務を経験した後に、アーキテクチャーフォト株式会社を設立。23年にわたり建築情報の発信を続けており、現在は、建築と社会の関係を視覚化するウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の運営をメインに活動。著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)など。

